さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

歌稿(五十音順)

大西民子歌稿

[や~よ]

八重咲きの水仙の花先がけて風に吹かるるまでにそだちぬ
薬草の地上の大方姿なく説明板のみ地上にまろぶ
夜行性とみづからに思ひ久しくなりぬ最後のニュースも終はりてしまふ
やさしき言葉かけらるることもなく過ぐる幾日をわれよ如何にたへまし
安らぎを得る間とてなきあけくれに今一度恋を得たしとも思ふ
野草箱の一番下になりゐたる柚子の二粒とり出して嗅ぐ
薬局は山の向うの思ひせり咳止めの切れゐる知りたる夜は
柳河の柳も青みそめたらむ白秋はとはにわれの歌の祖
簗の宿と思へどももたれれば柱の下は水の音する
屋根の上を仰ぎて人を呼ぶ声の次第に高くうはずりゆけり
屋根の上に明るくまろき月を置く夜を起きゐて
敗れ果てゝ身すがらのがれ帰りゆくゆくえは老いしはゝそはのさと
病篤きひとり思ひゐて雀らの鳴く聞けば雨のあがれるらむか
病癒えし俳優が乗ると言ひゐしがヨットも人も遠ざかりたり
山かげに隠し田といふを持つ人と聞きて怖れき子供のころは
山ぎはになびく横雲かがやくを見て来てわれの夏至祭終はる
やましきはわれかも知れずかたはらに人のタイプの音の乱るる
山鳥のゆくへ見定めややありて飛び立つきはの爪の力よ
山中の一戸に点す灯のごとし灯を低くしてものを縫ひをれば
山手線の古き車輌が走れりと教はりて今もローカル電車
山のなだりの藍をくぼめてひとすぢの滝はかかれりゆらゆらとして
山鳩が鳴くのみにして百年も前と変らず柳生の里は
山吹の花の咲くころ子守とて連れられて来し少女をりけり
山姥のごとくに老いを思ひゐき若かりし日は単純にして
やみがたくこぼるるものは砂のみかサボテンの鉢を日なたに移す
病みがちに迎へし春と思へどもくれなゐ深し花桃の木は
闇の中の葉鶏頭ゆゑ身の丈に髪をひろげて不意に立ち出づ
病み易き妹のため老いし犬のため祈れる言葉すぎて忘れず
病み病みて何になりゆくむづかしさ薬の名など次々言ひて
病むことを理由となして逃げ回るほしきもの揃ひてしまふ店
病むわれとわすれていますみほとけはいとまなく事を言ひつけ給ふ
病める子を持つ友も娘を嫁がする友もゐて電話にそれぞれに言ふ
やはらかき銀杏落ち葉を踏みて行く反射光の黄を顔に浴びつつ
やはらかくありたきときにつき出でて水道栓のノズルは兇器
やはらかな感触なれど綴ぢをれば少し分厚となる再生紙
やはらかに木々芽ぐみゐむ十一面観音のいます湖東の寺に