さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

歌稿(五十音順)

大西民子歌稿

[ま~も]

迷彩の分厚き布に覆はれて不穏のものがはこばれゆけり
名人のゴルフをテレビに見てあればギャラリーの一人となりて野を越ゆ
目をとぢておはせば少しひらきたる扇子を胸にのせて送りぬ
芽を吹くとすれば栄養源は何枯れ木のことともわれのこととも
眼鏡屋のあるじは立ちて両手もてわれのめがねをはづしくれたり
芽ぐめるを見て通りしが青柳は遠目となりてはげしく煙る
めくれるやうに立つ風波に吸はれゆく人の言葉も遠き落花も
めざしゆく寺はいづこか少女らと再び会ひぬ橋のほとりに
目覚むれば朝となりゐて指先が動くかどうか試してしまふ
目ざむれば隣に誰も眠りゐず不思議とせずて年古りにけり
目印に輪ゴムを巻きて置きにしが2B鉛筆行き方知れず
目線より高きなべては見えぬ日と決むればやさし精出でてをり
目に見えてがんじがらめとなる日あり縛る纏はる糸偏の文字
目に見えて遠ざかれども藤いろの日傘ゆゑ人の波にまぎれず
目に見えて魚籠のかたちの懐かしさわが髪をよく父は撫でにき
目に見えぬ霧のごとくに湧き出でて裾をひくやうにうすれてゆけり
目に見えぬ人の境ひめ鉄橋は短く幾つもかかりゐにけり
目に見えぬみちびきかありて鍋釜の苦労といふを避けて来られし
目に見ゆる時間のごとく中天を撓めてゆけり航跡雲は
目に見ゆる雪となり人は階段の中途より傘をひろげてくだる
目の痛み夜のみにくさもまとふべききらゝのドレスあらば舞ひたき    ※
瑪瑙いろの勾玉を見し夢のあと玉造りに見しうつつの勾玉
目の高さまで燭台を掲げて差出して闇の深さを計るごとくす
目の慣れて夜道を行くにかかへ持つ異物の如し胃の腑の鳴るは
目の前を覆ふばかりに散る桜しばしたゆたふ日の射す縞に
目の前が不意に空きたり幼子に呼ばれて人の立ちゆきしあと
目の前にありにしものを白牡丹息をころしてゐし如く落つ
目の前に蹴爪の太き鷲のゐし消しがたし灯を消しても消えず
目の前に何の予告か二隻目のボートもくつがへりたり
目の前に刃物を置かぬならはしに鋏をとると椅子を立ちたり
目の前の板の撓ふを見てゐしが撓へる板はどこにありけむ
目の前のきらめきやまず四千余りの玉虫の数を思ひてをれば
目もあやの大き的立て賑はしく少女らの洋弓(アーチェリー)始まらむとする
牝鶏はついばみをれどくつきりと赤きとさかを持つにもあらず