さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

歌稿(五十音順)

大西民子歌稿

[は~ほ]

ボイスレコーダー未だ回収されぬとぞ海面に幾つ花束うかぶ
封建制度の遺物に過ぎずといふ人ら陽明門の牡丹の彫りにわが見てゐるに
棒状のパンを一本かかへ持ち本を読み読み少年行けり    ※
包帯の上に時計を巻きゐたる手首ばかりがまぶたに帰る
放鳥の葬より帰り幾日か春の絹雲うつすらと浮く
冒頭を知らずドラマを見てゐしが次第に見えくる加害者の顔
帽深く眠れる人の誰ならむ登山靴何か重たく向かひの座席
ホームランを打ちて花火のあがれるを打たれし投手は如何にか仰ぐ
暴力をふるはれしことはなかりしと夫を思ひ亡き父思ふ
ポールより旗降ろされて風のあと見えぬ乱れの宙に残れる
吠えることがお仕事なのよと言ひやりて棒立ちの子を犬より離す
ほほづきの色づく見ればはじめよりかさねし旅もをはりに近し
穂を垂れて枯れゆく尾花うたかたの草のひととせわれのひととせ
北欧を巡り来ずやと言ひ呉るるひとりの日々をつたなくをれば
ポケットの底に沈めてしまひたる鍵をさがして何かも探す
誇らるる妻たるべきを忘らるゝ日もあり得べき妄念におびゆ
星を仰ぐごとくに仰ぐ高層にまだ人のゐて明るく点る
星型に笹百合の花ひらきたり人のうたひし桃いろ花火
欲しきものあるならねども駅前のデパート二つに久しく行かず
星屑の瞬く音もきこゆるを山荘にゐても寂しくあらむ
星空へ深くアームを挿し込めるクレーンを置けり荒れ地の隅は
星のかたち海星のかたち活け花の笹百合にまた火曜日は来て
細長き何か野草を巻きて持つ新聞紙など見られずなりぬ
螢らは黄泉にのがれて飛ぶらむか川のほとりはただ水の音
釦を作る貝と教はり拾ひしよ子供ら今も拾ふならむか
牡丹とも薔薇ともつかぬ大き花編み込まれたるベストを賜ふ
補聴器のコード光りて垂れゐるは未だ知らざる嘆きの一つ
舗道の上にいつもの女あらはれてカートを曳けば音に鳴るなり
ほどきものをしてゐしガラスのあかり取り押し寄せてくる建物の影
仏とも神とも知れぬ芯澄みて鈴を鳴らして呼びたき日あり
ほどほどにたるますといふも技ならむ三階の高さに電線は見ゆ
哺乳瓶を振るしぐさにもよろこびを見せて六十七歳といふ
帆ばかりの見ゆるヨットとなりながら降るやうにをりをり掛声届く
墓碑銘を刻むドリルを支へゐて痙攣のやうに人の手うごく    ※
掘り上げしコンクリートの塊りが雨のあと元の色に戻れる
欲るものの少なきわれの欲りてゐし白のシクラメンも買はで終はるか
ほろぶほかなしといふ鳥の大写し人知れずほろぶもの多からむ
ほろほろと向日葵の黒き種こぼし遊びたる日と背丈かはらず
本をよむことさへ姑に憚られ図書館に来ぬ市の帰りに
本当のことを言ふとも限らねばぼかしてつけて今日の口紅
ぼんぼりを吊されてゐし夜々のあと散り残りたる花びらが舞ふ
ぼんぼりに小さく電球ともし雨戸なき部屋ならばかくは寝てをれど
ほんものと見紛ふ陶のシェパードは千二百弗の値札下げをり
ほんものにそつくりなれば寄りて見つホールの隅のブーゲンビリア