さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

歌稿(五十音順)

大西民子歌稿

[な~の]

農業は稲を作り兵をも育てしとやみがたかりしを今あげつらふ
農道の除雪始まると告げくれば長かりしわれの冬もをはらむ
のがれ来しホテルといへど六階の温水プール異土の如しも
のがれゆく姿勢のまゝに倒されし場面も消えてまた夜の渚
軒下に薪を積みて迎へたる背伸びして薪を取りし幼子のわれ
ノクターン折々鳴らしピアノ弾きて一途なりにし日々は帰らず
遺されし貼絵は持つ月明に半旗のやうな葉を垂るる木々    ※
残されし歯型の如き痛みさへいつかうすらぎ春ならむとす
残されしものの不幸よかりがねの帰るを見しはいつの春
残り少なきバーミリオンを塗りそえて絵の少年の頬をかがやかしめぬ
咽喉病みてこもりゐにしが電話に出てまともなる声の出でて驚く
野の道の斜め下より仰ぎゐてヘリコプターは何か撒きたり
野葡萄の汁をしぼりてためおきし四合瓶の肩もなつかし
のぼりがまは落ち葉にうもれゐるといふうすき氷をふみつつゆけば
昇りゆけば石の大きさまちまちに少し乱るる中段あたり
飲み干してコップの底に刻まれし裏文字見ればベネツイアの街
のむものも少なくなりぬソーダゆゑオレンジジュースもよからずといふ