さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

歌稿(五十音順)

大西民子歌稿

[な~の]

根をおろしこの地につひの日は耒むか渡りてゆきて雁塔も見ず
寝返りをうつこともなく仰向けのままに運ばれゆけりなきがら
葱一束荷台に斜めにくくりたる自転車置きて人影あらず
ねぐらとは少し野卑なる言の葉と聞きて初老の人と別るる
螺子一つ失せたるのみにぐらぐらす十年使ひし電気スタンド
寝そびれし眠りのきはに現れて顔一つ白く目も鼻もなし
熱帯の樹林のなかに湧くといふアロエの花はいまだわが見ず
熱湯を高く噴き上ぐる井戸を見し幼子なれば長く恐れき
ネット裏に女優も来て見てゐるといふ鍔広帽子にサングラスして
熱にたへて一日働き帰り来て水を使へば芯まで寒し
根に持てるオプティミズムを自ら笑ふ時が流れむこの家のなか
根の国といふ国ありて何もかも土の色なす国かも知れず
眠りゐし土も起こされて香を放つとぞ春耕のよろこび深く
根元よりゆらぎて呪縛解けむとす風はブザーの音を呼びつつ
年忌毎に人は死すとぞはらからはみな根の国にとらはれゆきぬ
念ずれば叶ふと信じ念じたる日のあり姉も妹もゐて
年輪のひとところ赤く染みゐしに誰も触れずに貨車に積まれぬ