さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

歌稿(五十音順)

大西民子歌稿

[さ~そ]

ソーサーとカップ交互に重ね行く試さねばならぬことの如くに
掃除機をそのまゝにして電話に出でてその続きする気がわかず
相似形の小さき雲が従へり子も親もなくわれの仰ぐに
さう長く在るにはあらねば現し世の汚れ役などせずてあらまし
葬の花輪手荒に積みて走り去るワゴン車見れば死ぬるも寂し
僧坊の二日目の朝音のして高野槙に春の雪は降りにき
相輪のかなたより湧く春の雪コートの胸に沁みて消えつつ
即席に胡瓜を漬けて五分ほど冬のさなかに緑いろ冴ゆ
ソケットを抜けば小さき火花散るはみ出したき夜のありと書く
底を抜きしダンボール箱を電車とし女童を挟みて発車し行けり
底無しの沼のやうなるさびしさと書きていよいよさびしくなりぬ
底深く何の火種か残りゐて燃え出すならむタイヤの山は    ※
そそらるる思ひきざして振り返る水を通してのたうつホース
そっと置いてそのまま置かれありにけり肩磨かれて青磁の壺は
外壁に梯子を固定しておくと雪国びとはさりげなく言ふ
外回りのいたく荒れたるわが家を思ふはさびし職場にをりて
その一首読みてもらひて何にならむさりげなくローランサンの栞はさみて返す
そののちの日は知らねども落馬してとらへられたる女人ありけり
その母も母も世に亡く曽の夜の小豆を洗ふ音などせずや
杣びとにたしなめられしことのありトリカブトの花あまた摘みゐて
染め抜きにされて薬の名はありきなかなかはづまぬ風船にして
空いろの魚あまたひらめく水槽の砂にまぎれてうごくえびをり
空いろのマニキュアをせる両の手が目に立ちて仕事ははかどりゆけり
それきりとなりて帰らぬ楽譜ありピアニッシモの多き曲なりし
それぞれに舞ひて相寄ることのなき蝶を見てゐしいつかへだたる
それぞれの音と思へど剣呑なびいどろの音をわれは好まず
それぞれの重さは知らねひと世かけて背の幅だけの荷は運ぶらむ