さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

歌稿(五十音順)

大西民子歌稿

[あ~お]

エアコンを切り換へて不意に昔(ゆうべ)となる椅子にゐるともひとりはひとり
エアコンの風に炎の乱されていろめきたつといふ日もなくて
鋭角にそばだつ谷の吊り橋を束の間に見てトンネルに入る
ABC順なりにしが途中よりもつれてわれの番に届かず
英文科にありし妹の書く地図にチャーチなどとありて笑ひたりしか
描かれし風景の上をいくたびか春過ぎ夏逝きまた雪が降る
ゑがきたきものみな失せてしまひたり二十四いろの色鉛筆も
駅前の広場を抜けて久々に世俗の欲も湧きつつ歩む
ゑぐられし眼球二つ誰が顔に移植さるるとも射抜くまで見よ
蝦夷梅雨と呼ばれて降るといふ雨に濡れてゐるとぞリラの落花は
蝦夷の名と今も忘れず疎開してしばし住みたる村の字の名
エラー見て大観衆はどよめけりしろじろと降る圏外の雨
鰓呼吸より解かるると目覚むるといづれ早きか苦しかりにき
選びたる道を来りて悔なしと書きて生まるる(濃くなる)悔かも知れず
襟元に寒しエアコンの風光る角度はどこかにあらむ
エレベーターに降り来む人を待ちをれば脱ぎて手に持つコートが重し
絵蝋燭が三本並ぶ絵にすぎずやるせなければ切り抜きて置く
絵ろうそくの絵の菊の花黄の芯のあたりまで燃えめぐりくすぶる
遠景の近づく如く去年も見し赤錆いろの紫陽花の花
円卓を囲む二時間首を立てつひに笑はぬ人のをりたり
縁日に何を売るよりやさしげにかごに分けてはほたる売りゐし
縁日はいづこなりしか舟型の釣忍提げて父と帰りき