高根沢町図書館/高根沢町史ほか

高根沢町史 民俗編

第九章 言語伝承―耳の文芸―

第七節 貴人・偉人伝承

五 日蓮上人のこと

   旅の修業を続けていた日蓮上人が小松原で法難に会い、那須温泉へ治療に行く途中のことであった。道に迷い台新田あたりに差し掛ったころ、すっかり夜になってしまった。宿を探したが泊めてくれそうな家もない。仕方なく、日蓮上人は近くにあったお堂に泊まり、翌朝、修業のお経を唱えていた。
   やがて、お堂から美しい光が出てているのを見た村人たちが、不思議に思い一人二人と集まってきた。そして、日蓮上人の有り難いお話を聞いた村人たちは、近くの池に毒蛇が住んでいて悩まされていると訴えた。そこで、日蓮上人は、村人たちに鬼怒川からきれいな小石を拾ってこさせた。そして、その小石の一つ一つにお経を書いて池に投げ入れた。すると不思議や、池から毒蛇の姿が消えたではないか。
   それからというもの、村人たちは安らかに生活できたということである。
                (『子どもが書いた ふるさとの伝説集』)
 
 「高僧伝承」のひとつで、水がなくて困っていた村に来た高僧が、持っていた杖を剌したところ、そこから清水が湧きだしたという「弘法清水伝説」の世界に属するものである。
 人々に信仰の有り難さや大切さを説いて回った修業僧や布教家としての旅人が日本全国を歩き、その地域の文化を生かしながら、地域の人々の耳にさまざまな物語を残していったのである。
                             (木村 康夫)