高根沢町図書館/高根沢町史ほか

高根沢町史 通史編Ⅱ

第四章 昭和恐慌と戦争の時代

第四節 戦時下の村政と村民生活

一 軍国化する村

 昭和一六年(一九三一)欧州の風雲急を告げてきたころ、わが国は対中国戦争が膠着状態に陥り国内体制の引きしめが叫ばれるようになった。防空訓練が現実味をおびてくる一方で「防諜訓練」が地方においても行われていた。ここに阿久津村の防諜訓練をみることにする。昭和一六年五月一二日から一八日まで防諜週間が実施されたが阿久津村は一八日午後より訓練を開始した。一八日午後一時五五分本部発令として情報が出された。
 
  東京、福島方面ニスパイ侵入、爆弾、放火、細菌混入ス、本村ニ侵入スル如シ、分団長ハ防諜計画ニヨリ張込ミ検査シ直チニ班ヲ配置セヨ、
    秘報
  午前六時四五分東北本線宝積寺鉄橋爆破セラル、警防員半数ヲ以テ連絡及鉄道旅客等ノ応援万全ヲ期スベシ
 
   午後二時に本部発令で杉本班長指揮、警防員五名で直ちに応援に出動した。防諜関係の訓練は本部よりの命令で行われ、スパイへの対策から細菌使用の対応に至るまで幅広い訓練を展開していた。次の情報は
 
  氏家方面ニ井戸ニ細菌ヲ投下シタルモ水ヲ呑ミ重態ニナツタ人ガアリマスカラ厳重ニ警戒スルヲ要ス
 
 続いて本部より「宇都宮方面ニ放火、並ビニ細菌等投下アリノ報告ニ接シ厳重警戒ヲ要ス」と、村においても一般の井戸にまで注意するよう連絡が入った。
 さらに、変装した人物が朝日屋から三五番に電話をし、「諸々ノ思想ノデマヲ飛バシ」ていたのを増渕周八郎宅近くで捕えて、本部に引き渡したという通知があり、続いて、
 
   本村ヘ三名ノスパイ侵入シ内一名ハ逮捕シタルモ二名ハ逮捕サレズ其内一名ハ当分団ニ侵入シタルニ付キ厳重警戒スベシ
 
 と連絡が入り逮捕されなかった二名の人相等については次のように連絡がきた。
 
  一名ハ年令三十歳位
  丈五尺四寸位、色白キ方ニシテ痩形頭髪前長ク七・三ニ分ケ、髭面ニシテロイド眼鏡ヲ用ユ、着衣ハ白ポキ背広三ツ組ヲ着シ中折帽ヲ冠リ黒ノ短靴ヲ穿ツ
  一名ハ年令二十七、八歳位丈五尺三寸位、色白キ方、角顔頭髪前長ク七・三ニ分ク、着衣青ポキ背広三ツ組洋服ヲ着シ、黒ノ短靴ヲ穿チ、青ポイ中折帽ヲ冠ル、ロイド眼鏡ヲ用ユ
 
 当時のスパイの典型的な姿が明示されている。防諜訓練は終了し、同日五時二〇分までに各員が役場前に集合し、五時四〇分に講評をうけた。訓練がわずか一日、それも午後のみであったが、阿久津村という一農村で実施されたことを考える時、時局の不穏な動きが進展していることを知ることができる。