弘前市立弘前図書館/おくゆかしき津軽の古典籍

資料編2(近世編1)

新編弘前市史 資料編2(近世編1)

第5章 藩政時代の町と村

 近世社会では、武士の城下集住策の中で、城下から農民を排除した行政区画を設定して町方とし、農村の村方と区別した。身分制社会にあって、いずれも武士身分を支える経済的基盤であり、藩政の確立にあたってこれらの支配の貫徹のために、様々な政策が実施され、またそれにともない行政機構や法令も整備されていった。
 この確立経過については、第二章で扱っているが、本章では、視点を実際の町方・村方のレベルに置き、確立期段階の十七世紀後半の町と村がどのような内容であったのかについてみることとした。ただし、当該期のそこに住む民衆の生活実態については、資料的な制約から明確にし得ない部分が多い。これについては資料編3(近世史料2)の後期藩政の動向の中で触れることとし、したがって本章では、町方・村方支配の末端に位置する町役人・村役人によってまとめられた史料を中心に掲載した。
 第一節では町方の様子を城下の生活と町方支配に分けて構成した。城下の生活では、城下弘前を含めた町方全体を統制する藩の法令を掲げた。次いで、弘前町年寄の松井四郎兵衛の留書の中から、主に城下住民の編成の仕方や生活規制、あるいは町方の構成やその員数に関わるものを抄録した。なお、既に青森県立図書館から解題書目第二〇集として平成三年に刊行されているが、原本をもとに校訂を新たにした。
 城下の町方支配機構は、町奉行のほか町年寄・町名主・月行事の町役人によって構成されており、町年寄以下は町役とよばれた町人であった。城下の町年寄は松井・松山の両家が勤め、廃藩置県までその職を世襲している。
 町役人の主要な職務内容は、触れ・申し渡しの町内への周知徹底、宗旨改め・人別調査、町民の訴願届書の加印、町民の不動産(家屋敷等)の相続・売買・質入れに関する認証、訴訟の調停等とされる。本来これらはそれぞれ宗旨改帳、人数書上帳、御触留等にまとめられるものである。しかし、松井四郎兵衛留書の場合、これらに関することが混在しており、町年寄の職務遂行上必要なことを私的に書き留めた広い意味での御用留とはいえ、逆に城下の生活に最も不可欠な内容を盛り込んでいることから、貴重である。
 第二項の町方支配では、藩の御用を勤め扶持米を給与されていた町人の分限帳と由緒書、屋敷持ち町人に課せられた町役の負担内容を主に掲げた。なお、由緒書は、従来公開されたことのない史料であり、内容を整序して利用に便宜をはかった。これらの史料によって城下が、その出自を含めて多様な人々によって構成され、また彼らをいかに支配の網の目の中に取り込んでいたかが知られる。
 第二節の村方の様子では、百姓農民の生活全体を統制する藩の法令を掲げ、次いで天和の書上と正保の知行高帳及び貞享の検地水帳をあげた。いずれも各村々を数量的に示したものであり、藩権力にとっては村が最も根本となる収取基盤であったことから、当然把握されるべきものであった。村方の様子を直接に示し得るものではないが、その生産状況や構成、農具の所持数等から、概略は押さえることができる。
 貞享の検地水帳は、貞享元年(一六八四)から開始し同四年に終了した、いわゆる貞享検地の結果をまとめたものであり、天和の書上はそれに先立ち、各村々に作成・提出を命じた基本資料である。ただし、両者には、例えば地積の記載において、天和の書上が原則として二百歩を一人役とする「人役」表示であるのに対して、貞享の検地水帳は反別表示であり、石盛が記載されている等、大きな違いがみられる。この違いは、天和期までの雑多な現物納と夫役による収取体系を米納年貢に基本的に統一したことによるものであり、以後、地方支配の在り方も大きく変わっていくことになる。
 なお、本節であげた天和の書上は、ともに現南津軽郡平賀町域のものである。天和の書上の原本が現在確認されないため、由来の明確な写しが残存し、かつ弘前市近郊であることから採用した(ともに同町個人蔵)。特に唐竹村の書上には、百姓の衣食や農作業に関しての記載があり、日常の一端を伺い知ることができる。
 また、貞享の検地帳は、弘前市域の農村を掲げたが、分量が膨大であることから、帳尻の数値を表化して掲載した。
 以上、本章に掲載する十七世紀後半の藩政確立期における町方と村方に関する史料について述べてきたが、この補充資料として町と村の絵図を付録に加えた。町方の絵図は城下弘前だけでなく、十七世紀前半から後半にかけて津軽領内の代表的な湊町であった、青森・鰺ヶ沢・深浦・十三の絵図を付図として所収し、当時の都市のあり方を色々な角度から視覚的に捉えられるように配慮した。また村方では、津軽地方では最も古い村絵図であって、おそらく天和の書上に添付して藩庁へ提出したと考えられる、藤崎・岩館の両村の絵図を同様に掲載して、中世から近世へ移行する過渡期の村の姿をビジュアルに看取できるようにした。併せて活用いただければ幸いである。




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四季農耕図屏風…平尾魯仙画(六曲一双、市立博物館蔵)