弘前市立弘前図書館/おくゆかしき津軽の古典籍

通史編1(古代・中世)

新編弘前市史 通史編1(古代・中世)

第3章 古代蝦夷の時代

第三節 律令時代の青森

三 北奥地域の田村麻呂伝説

しかし田村麻呂は、地元の蝦夷の側から見れば征服者であって、なぜ田村麻呂が東北地方でこれだけ伝説の対象になっているのか理解に苦しむという人もいるのではないか。
 こうしたことになった根本的理由は、おそらく、蝦夷=アイヌ説の影響が大きいのであろう。第三章第二節二で触れたように、蝦夷=アイヌ説は、学問的に意味をなさなくなっているが、それが認知されたのは最近のことである。長い間、蝦夷=アイヌ説は人口に膾炙(かいしゃ)した著名な学説であった。
 その立場にたつとき、現在のわれわれは、アイヌではないのであるから、田村麻呂はそのアイヌを追い払い、われわれの先祖を東北地方に導き入れてくれた大恩人なのである。こうしたことが背景にあって、田村麻呂信仰が東北地方全体に浸透していったものと思われる。
 もちろん田村麻呂はなんといっても英雄であって、そうした英雄に対する伝説というものは洋の東西を問わず生じやすいこともある。また田村麻呂が蝦夷の英雄阿弖流為を助けようとしたという美談の影響も忘れてはならないであろう。