弘前市立弘前図書館/おくゆかしき津軽の古典籍

通史編1(古代・中世)

新編弘前市史 通史編1(古代・中世)

第3章 古代蝦夷の時代

第三節 律令時代の青森

三 北奥地域の田村麻呂伝説

さてさまざまな田村麻呂伝説のなかで、もっとも著名なものは、謡曲「田村」で知られる観音信仰との結びつきであろう。これはある旅の僧が、京都の清水寺(写真53)に参詣した際に、田村麻呂の霊があらわれて観音の功徳を述べ、また彼の東夷征討や鈴鹿(すずか)山の悪神退治が観音の力によってなされたものであることをも述べたというものである。

写真53 田村麻呂の創建と伝えられている清水寺(京都市東山区)

 この謡曲のもとになったものは、数種類存在する『清水寺縁起』などにみられるが、それは早く『今昔物語集』や『扶桑略記』『源平盛衰記』などにもみられるものである。
 『清水寺縁起』によると、無事東国を平定した田村麻呂が、延暦十七年(七九八)に伽藍(がらん)を造って観音本像を安置し、同二十四年に太政官符を賜って寺地を与えられ、また大同二年(八〇七)には、田村麻呂が西京にあった彼の家の寝殿を壊して寺に施入(せにゅう)したという。田村麻呂の観音信仰の深さが、清水寺を創建させたというのである。