弘前市立弘前図書館/おくゆかしき津軽の古典籍

通史編1(自然・原始)

新編弘前市史 通史編1(自然・原始)

第1章 津軽の自然

第三節 津軽平野南部の地形発達

一 平野南縁の地形

碇ヶ関村古懸(こがけ)、大鰐町唐牛(かろうじ)・苦木(にがき)・蔵館(くらだて)・長峰(ながみね)など、平川の上流部には断片的ながら火砕流堆積物からなる台地が分布している。台地は河床面から約二〇~三〇メートルの高度差が認められ、平野寄りの大鰐町宿川原(しゅくがわら)や支流である虹貝(にじかい)川上流に位置する早瀬野(はやせの)などにも小規模ながら分布している。火砕流堆積物の重鉱物(3)組成は磁鉄鉱に次いで紫蘇(しそ)輝石・普通輝石そして角閃石(かくせんせき)の順で多く含まれ、年代測定ではいずれも約一万三〇〇〇年前の数値が得られている(表4)。平川流域に分布する火砕流堆積物古懸浮石流凝灰岩と呼称し、年代測定値や重鉱物組成などから八戸浮石流凝灰岩に対比される(山口、一九九三)。浅瀬石(あせいし)川流域では古懸浮石流凝灰岩の分布が少なく、上流部の葛川(くずかわ)付近で確認したのみである。また、平野部での確認は今のところボーリング資料によるしかない。
表4-1 放射性炭素(14C)による年代測定値一覧
試料番号放射年代(14C)試料採取位置備   考文献
毛馬内浮石流凝灰岩970±80 y.B.PN 40°24.2'
E140°51.4'
発荷峠紫明亭展望台付近。
軽石質砂層に含まれる炭化材
Gak-18502
泥炭層5,240±110 y.B.PN 40°42.7'
E140°35.4'
浪岡病院(標高25m)のボーリング試料。地下4m付近に厚さ約3mの古懸浮石流凝灰岩堆積する。同凝灰岩直上の泥炭層を測定。
Gak-19384
山口
(2000a)
木材化石12,630±180 y.B.PN 40°32.8'
E140°32.6'
弘前市石川城跡内。火砕流堆積物直上にのる軽石質砂層中に含まれる木材化石(地表下1~2m下)。
Gak-19102
泥炭層15,220±230 y.B.PN 40°39'
E140°25'30”
弘前市中別所字荼毘館。住吉軽石流凝灰岩を覆う段丘構成層中の泥炭。
Gak-16271
山口
(1993)
泥炭層18,000±310 y.B.PN 40°44.1'
E140°35.2'
浪岡町高屋敷館遺跡(標高40~43m)の堀跡。壁面にみられる軽石質粘土に挟在する泥炭層(地表下2m)を測定。
Gak-18444
青森県教委
(1998)
埋没樹24,160±680 y.B.PN 40°44.1'
E140°35.2'
浪岡町高屋敷館遺跡(標高40~43m)の堀跡。底面にみられる軽石質粘土層直下の泥炭層(地表下3m)中の埋没樹を測定。粘土層の下位に凝灰質砂層が堆積し、砂層中にも埋没樹が包含されている。
Gak-19152
青森県教委
(1998)
埋没樹21,570±470 y.B.PN 40°41.3'
E140°37.2'
浪岡町本郷農村センター(標高40m)のボーリング試料。厚さ20m以上の扇状地堆積物に挟在する泥炭層(地下約8m)中の埋没樹を測定。
Gak-19386
山口
(2000a)
古懸浮石流凝灰岩13,100±190 y.B.PN 40°28'55”
E140°37'49”
南津軽郡碇ヶ関村古懸。浮石流凝灰岩中の砂層直上の凝灰岩に含まれる樹枝。
Gak-16552
山口
(1993)
古懸浮石流凝灰岩13,170±170 y.B.PN 40°28'55”
E140°37'49”
南津軽郡碇ヶ関村古懸。浮石流凝灰岩中の砂層直下の凝灰岩に含まれる樹枝。
Gak-16553
山口
(1993)
古懸浮石流凝灰岩12,960±210 y.B.PN 40°31'21”
E140°33'54”
南津軽郡大鰐町宿川原字鶴ヶ鼻。
Gak-16735
山口
(1993)
古懸浮石流凝灰岩12,730±210 y.B.PN 40°28'44”
E140°33'40”
南津軽郡大鰐町早瀬野。
Gak-16734
山口
(1993)
埋没樹12,980±70 y.B.PN 40°28'55”
E140°37'49”
南津軽郡碇ヶ関村古懸。古懸浮石流凝灰岩直下の泥炭層中の埋没樹。
GX-25810-AMS
山口
(2000c)

表4-2 放射性炭素(14C)による年代測定値一覧
試料番号放射年代(14C)試料採取位置備   考文献
埋没樹13,080±60 y.B.PN 40°33'21”
E140°36'27”
南津軽郡平賀町唐竹。丘陵表面を覆う古懸浮石流凝灰岩直下の古土壌中の埋没樹。
GX-25811-AMS
山口
(2000c)
相沢軽石流凝灰岩22,070±480 y.B.PN 40°41.7'
E140°39.7'
浪岡町相沢。正平津川流域の比高10mの火砕流台地を構成する凝灰岩中に含まれる炭化物。
Gak-18503
小国軽石流凝灰岩25,300±690 y.B.PN 40°33.1'
E140°40.8'
浅瀬石川ダム南岸。深沢流域の凝灰岩中に含まれる炭化物。
Gak-18504
駒木浮石流凝灰岩28,090±1,120 y.B.PN 40°31'07”
E140°37'50”
南津軽郡大鰐町駒木字駒木。
Gak-16737
山口
(1993)
五本松軽石流凝灰岩29,170±940 y.B.PN 40°42.7'
E140°36'
浪岡町茶屋町(標高25m)のボーリング試料。地下12~19mに堆積する軽石流凝灰岩中の炭化物を測定。
Gak-19383
山口
(2000a)
五本松軽石流凝灰岩29,180±680 y.B.PN 40°43'
E140°37'
浪岡川に臨む急崖(比高約5m)より採集。浪岡城跡がのる扇状地(標高45m)を構成する軽石流凝灰岩中の炭化物を測定。
Gak-19382
山口
(2000a)
沖浦軽石質砂岩30,130±1,490 y.B.PN 40°34'17”
E140°41'26”
黒石市沖浦(浅瀬石川ダム湖右岸)。凝灰岩中に含まれる炭化材。
Gak-16733
井戸沢軽石流凝灰岩34,080±1,520 y.B.PN 40°37'03”
E140°41'29”
黒石市中野字井戸沢。火砕流台地を構成する凝灰岩中に含まれる炭化材
Gak-16736
住吉軽石流凝灰岩>36,130 y.B.PN 40°41'10”
E140°25'22”
弘前市鬼沢(春日橋下)。
Gak-16268
山口
(1993)
住吉軽石流凝灰岩>37,850 y.B.PN 40°40'
E140°25'
弘前市住吉。鈴木(1972)の呼称。
Gak-16269
山口
(1993)
住吉軽石流凝灰岩>36,980 y.B.PN 40°38'44”
E140°25'15”
弘前市宮舘(血洗川と鶏川の合流点)。
Gak-16270
山口
(1993)
埋没樹32,600±510 y.B.PN 40°41'10”
E140°25'22”
弘前市鬼沢(春日橋下)住吉軽石流凝灰岩直下の古土壌中の埋没樹。
GX-25812-AMS
山口
(2000c)
泥炭層29,490±1,280 y.B.PN 40°49'13”
E140°40'07”
青森市新城字平岡。八甲田第1期火砕流凝灰岩にのる段丘構成層(岡町層?)下底部の泥炭層
Gak-16738
泥炭層>39,340 y.B.PN 40°12.5'
E140°34.6'
浪岡町花岡保養センター(標高40m)のボーリング試料。地下11m付近に厚さ20m余の軽石質砂層が堆積。砂層中の泥炭(地下16m付近)を測定。
Gak-19385
山口
(2000a)

 古懸浮石流凝灰岩は、碇ヶ関村古懸では軽石粒やマグマと直接的な本質岩片を多量に包む、分級度(4)の悪い粗粒砂質の凝灰岩である。一五~二〇メートルの厚さで、中部に厚さ約一メートルの細~粗粒砂層を挟み、直下に炭化した樹枝が多量に含まれている(写真30)。大鰐町苦木および長峰など下流側ほど軽石粒や本質岩片が細かくなり、マグマとは無関係な異質の混入が多くなってくる。苦木で確認した特徴として、流下した火砕流堆積物丘陵寄りでは軽石粒が目立ち、一部は風化により粘土化しているが、平川沿いの台地では砂質で粗粒砂を主体とし、一部に縞(しま)状のラミナ(5)が発達する。平野への出口にあたる大鰐町宿川原では軽石粒混じりの中粒~粗砂層となり、層全体にラミナが発達して再堆積の特徴を示している。

写真30 台地を構成する古懸浮石流凝灰岩。中部に砂層をはさみ、直下に炭化材が集中している。
(碇ヶ関村古懸)

 古懸浮石流凝灰岩直上には特徴的な黄褐色の軽石質火山灰層が載っている。厚さ三〇~六〇センチメートルの降下火山灰で、碇ヶ関浮石層(山口、一九九三)と呼ばれ、古懸浮石流凝灰岩とほぼ同じ重鉱物組成を示している。下半部が軽石粒およびラピリ(6)を多量に混入する軽石質の火山灰、上半部が軽石粒が多少目立つ程度の細粒火山灰であって、上北地方を模式とする千曳(ちびき)浮石(東北地方第四紀研究グループ、一九六九)に対比される。
 ところで、写真31は唐竹(からたけ)川流域でみられる埋没樹(7)であるが、古懸浮石流凝灰岩に覆われていて砂採取中に確認された。このほか、埋没樹は図17に示したように、平川流域でも火砕流台地の急崖で確認できるが、各地点て確認された埋没樹を含む泥炭層あるいは古土壌中の花粉分析を図18に示した(山口、二〇〇〇c)。なお、弘前市鬼沢を除く二地点からは約一万三〇〇〇年前の測定値が得られている(表4)。その当時、十和田湖東方での森林はカラマツ属、トウヒ属、モミ属の亜寒帯性針葉樹で構成されている(寺田ほか、一九九四)が、分析結果から、津軽南部の丘陵においては、古懸ではカバノキ属が優勢な森林として、相乗(あいのり)と唐竹ではトウヒ属が優勢でモミ属およびカバノキ属が伴う亜寒帯針葉樹林として分布していたことになる。

写真31 唐竹川左岸の丘陵で確認された埋没樹。砂採取中には立株状の樹根も出土していた。


図17 平川および唐竹川流域での火砕流直下の埋没樹確認地点(5万分の1津軽地域広域市町村圏図〈国土地理院承認番号 平元、東複第8号〉を使用)


図18 平野南部の埋没樹層準の花粉分布図