函館市/函館市地域史料アーカイブ

南茅部町史 上

第一編 郷土の自然

第三章 生物

第二節 海藻

南茅部町沿岸の海藻の分布

 どこの沿岸の海藻相を見ても、量的に多く人目につく種と量的に少ない種から成り立っている。前者をその地域の優占種と呼ぶが、これらはその地域の条件に適合し、他種との争いに勝った種である。したがって、優占権は、その土地の環境条件を反映しているもの、ということができる。
 優占種と非優占種を明確に区別することは非常に難しいが、概略的に見分けた優占種の中から、産業上有用な種と藻場を造るなど生態学的に重要な種を取り上げて簡単な説明を加えたい。
 
 1、モツキヒトエ
 南茅部町沿岸にはスガモ(この項参照)が多く、あちこちに群落をつくっている。このスガモの上にびっしり着生している緑色で葉状の海藻がモツキヒトエである。この種は春先から夏場にかけて繁茂し、スガモと共に波に揺れるさまは壮観である。
 モツキヒトエの“ヒトエ”というのは、体が一層の細胞からできている、という意味であるが、それ故、非常に薄く、かつ軟らかい。
 
 2、シワヒトエグサ・エゾヒトエグサ
 春から夏にかけて、岩場一面を緑でおおう海藻の大部分がこれらの種である。モツキヒトエと同じく非常に薄くて軟らかい。握るとペタペタとくずれてしまうほどである。
 一般にアオノリと呼んでいるようであるが、本当のアオノリは別物である。
 
 3、アナアオサ
 葉状で美しい緑色の海藻である。体のあちこちに穴があいているのでこの名前が付けられた。初めての人にはヒトエグサの仲間と見分け難いかもしれないが、ヒトエグサの体が一層の細胞から成り立っているのに対し、この種では二層からできているので手触りは硬い。少しなれると間違うことはまずないであろう。
 浅い所に周年生育しているが、最盛期は春から夏の間である。最近、ウニなどの稚子の養成に使われている。
 
 4、マツモ
 初冬から晩春にかけて玉石などに繁茂する。若生いを酢物にしたりみそ汁の実などに利用するほか、地方によってはノリのようにすいて乾燥したものをつくっている。
 当地では老成して硬くなったものを“男マツモ”と呼ぶそうであるが、しなやかな手触りの若生いに対する呼名であろう。いいえておもしろい。
 
 5、マコンブ
 南茅部町で海藻といえば、なんといってもマコンブである。あるいは、マコンブだけ、といえるかもしれない。それほどマコンブに依存するところが大きい。

図2 コンブ科植物の生活史

 コンブ科の海藻は一般に寒流海域に多く、かつ大型であるため、生態学的にも重要である。北海道周辺の分布状態は第一図のようになっている。この分布を決めるのは主として水温であるが、暖流と寒流の組合せによる水温の地域格差を反映していることがうかがえる。
 マコンブは枝分かれすることもなく、海藻の中では単純な形態を示すものの一つである。伸長する場所、すなわち、生長点は茎と葉の間にあるため、古い体は上へ上へと押し上げられていく。そのため、先の方へいくほど老成した組織になり、この部分からどんどん流失していく。この現象を末枯(さきがれ)と呼ぶが、枯れるより生長する速度が速ければ差引きプラスになり伸びたことになる。この末枯れは体が一センチメートル以下の極く小さな頃から起っているので、先が枯れていないコンブはありえない。
 マコンブの寿命はほぼ二年間である。第二図に示したように、胞子からまず配偶体と呼ばれるものができる。これは肉眼では識別できないほど小さいが、りっぱな大人で雌と雄がある。これらはそれぞれ卵と精虫を出し、受精してできるのがいわゆるコンブである。一年目のコンブは“ミズ”と呼ばれ、質は薄く、夏場の高水温期には根元近くまで枯れてしまう。
 しかし、秋ぐち、水温が下降し始めると共に再び生長を始める。いわゆる“つき出し”である。このつき出しを呈しているコンブでは、上部に古い体、下部には新しい体が見られ、これらの境目はくびれているので見分けやすい。
 マコンブはコンブ類の中で最も良質とされているが、これを商品として扱う場合、白口とか黒口とかを区別することがある。これはマコンブの種類ではないが、質の優劣を決める手がかりとされている。白口というのはマコンブの茎を切ったとき、切口が幾分白っぽいものをさし、幾分黒っぽいものを黒口と称するが、前者は後者に比べて値が高い。当沿岸産のものは白口と認められており、これを産する浜を白口浜と呼ぶ。
 南茅部町沿岸は、従来、天然マコンブの生産地として有名であるが、昭和四五年(一九七〇年)ごろから養殖も普及し、現在では天然ものを凌ぐまでになっている。養殖技術の緒端は一九一五年、フランス人によるコンブの生活史の解明にまでさかのぼる。その後、日本でも研究・実験をくり返し、一つの技術として完成した。
 
 6、ミツイシコンブ
 当地ではシオホシ、あるいはシオコシと呼んだ方がよく通じるようである。ミツイシコンブの名前は日高支庁三石の地名にちなんでおり、これからも分かるように、生育の中心地は日高沿岸である。南茅部町付近は分布の限界に近いため、量的に少なく、体も小形である。
 この種では、一年目の若い体にも凹凸の紋様(竜紋と呼ぶ)が無く、全く平らである。さらに、縁辺部にはほとんどひだがないため、まっすぐ伸ばしたテープのような様相を呈する。これらの点は、若い時期に竜紋を持ち、縁辺部にひだが多いマコンブとはきわだった相違である。
 生育する水深は浅く、干潮時にはやっと海水に浸るような所から一~二メートルぐらいの間に限られるため、マコンブの生育場所を奪うことはないようである。
 
 7、ガゴメ
 ガゴメの特徴は、葉の表面に凹凸模様を終生持ち続けることである。それを除けば外観上マコンブと変わりはない。
 分布範囲は比較的狭い。北海道沿岸では、汐首岬付近から恵山岬を回って室蘭辺りまでの間で、マコンブの分布範囲とかなりよく一致する。
 南茅部町沿岸では、以前、マコンブより深い所に生育していたので、両者がぶつかり合うことは少なかった。しかし、最近では生育量も多くなると同時に浅い所にまではびこりだし、天然マコンブにとって由々しき事態になっている。
 ガゴメはマコンブに比べて粘液質が多いため、トロロの粘り気を増強するために使われている。したがって、ガゴメを害藻と見るか有用藻と見なすかは人それぞれの観点にもよろうが、商品価値から見るかぎり、天然マコンブには遠く及ばない。
 当種の寿命については不明な点が多かったが、最近の調査結果では三~四年間生きる個体も多いとのことである。であるから、一度コンブ場に入りこむと長々と居すわることになり、厄介なことになる。
 
 8、チガイソ
 チガイソの葉は上から下までほぼ同じ幅で、二〇センチメートルほどになる。この葉の中央に一本のすじ(中肋)を持ち、成体になると胞子を造る特別な器官を葉と茎の境目につくる。この器官は平たく細長いヘラのよう形をしており、ワカメのメカブに相当する。このような外観からも想像できるように、コンブよりワカメに近い種である。事実、分類学的にみるかぎり両者に基本的な相違はない。ただ、ワカメは有用海藻としてもてはやされるが、一方、チガイソは現在ではむしろ害藻として嫌われ、人間の評価は正反対である。
 このチガイソ、今でこそ見むきもされないが、かつてはワカメの代用として利用されていたことを知る人も多いと思う。しかし、食糧事情の好転とワカメ養殖が軌道に乗ったことにより、完全に見はなされてしまい現在にいたっている。チガイソと云ってもピンとこないかもしれないが、土地流に呼ぶならば“サルメン”である。
 南茅部町沿岸ではマコンブ以上に繁茂している。生育水深の幅が広く水深一~五メートルほどにまたがるため、マコンブの生育場所を占領してしまうこともある。マコンブを増やすために岩面爆破を行っても肝心のマコンブはどこえやらチガイソばかりがよく生えた、ということにもなりかねない。
 
 9、ワカメ
 ワカメの特徴は、チガイソと同じように葉の中央に一本のすじ(中肋)を持ち、茎にはメカブとかネカブと呼ぶ胞子を造るための特別な器官を造ることである。このように、見たところコンブとはかなり異なるが、同じコンブ科に属している。それは生れてから死ぬまでの型、すなわち、生活史(第二図)がほぼ同じだからである。
 ワカメには形態上二つの型が知られている。一つは南日本海域に分布する型で、茎が短かく、葉とメカブがくっついているのが特徴である。もう一つの型は茎が長く、葉とメカブが離れているもので、東北、北海道海域に分布する。
 当種はもともと暖流種であるため、年間を通して寒流に洗われる北海道東部沿岸には生育していなかったが、養殖の広がりにより、全道どこでも採れるようになった。
 南茅部町沿岸では、水深一~四メートルぐらいにごく普通に生育している。秋の終り頃から芽を出し、翌年、六月~八月頃に胞子を放出する。と同時に先の方からどんどん枯れてゆき、一生を終える一年生の海藻である。
 
 10、エゾイシゲ
 春先きから夏の終わりにかけて繁茂し、潮が引いたあと取り残されたように岩上に着生しているのを見ることができる。生育する水深の巾が非常に狭いため、着生帯が一本の帯のようにはっきりしている。
 寒流海域にはごく一般的な種で、津軽海峡では函館付近から東へ進むにつれてだんだん多くなる。このような生育量の増加は、寒流の影響力がしだいに強くなってきていることと一致している。
 
 11、ホンダワラ科植物
 ノゾキで海中を見ると、海底から水面近くまで立ち上がっている褐色の海藻をみることができる。これがホンダワラの仲間である。海底から立ち上がっている姿から“タチモ”とも呼ばれるが“モク”とも称される。
 この仲間は小さな“ウキ”(気胞)を持っているのが特徴である。南茅部町沿岸には四種知られているが、これらに関するかぎりそれぞれのウキの形により区別することができる。
 ホンダワラの仲間は浅海で藻場(海中林)を造り、稚魚などに生息の場を与えている重要な海藻である。
 ア、ウミトラノオ
 比較的浅い所に生育するので干潮時には露出することが多い。通常、枝がごく短いため、名前のごとく“虎の尾”のように見え、他種と区別しやすい。
 イ、フシスジモク
 体長は数メートルに達する。体の下部の葉は幅が広く木の葉のようになるが上部になるにつれて小さくなる。気胞は球形に近い。ウミトラノオに次いで多く見られ、浅い所から深い所にまで繁茂する。
 ウ、ウガノモク
 気胞が三~五個連らなっているのが特徴である。この種はフシスジモクと同じように大きくなるため、船外機に絡まったり、海底から離れたものが養殖ロープに巻きついたりすることが多い。前二者に比べて幾分深い所に生育する。
 エ、アカモク
 気胞は円柱状で、この先端に小さな葉を付けている。ウガノモクなどと同じように大きくなり、海底から離れたものがロープに絡まったり浮遊しているものを往々見かける。量的には少ない。
 
 12、アマノリ属植物
 海藻にはアオノリとかフノリのように「○○ノリ」と名付けられているものが多いが、おにぎりや鮨などに使うノリはアマノリの仲間である。
 冬の初めに岩や玉石、又、コンクリートブロックなどに出現する細長いウップルイノリや、時期は少し遅れるが幅が広いスサビノリ、さらに他の海藻上に着生するフイリタサなどが見られる。岩に着生する種類を一般に岩ノリと呼び、生のままミソ汁の実にしたり、多く採れた時は自家製の佃煮をつくるために利用する。現在、市販されている乾燥ノリはほとんどが養殖ものであるが、南茅部町でこれを専門に手がけているところはない。
 
 13、マクサ
 一般にテングサと呼んでいる。テングサというのはこの仲間を総称する呼び名で、たくさんの種類を含んでいるが、この辺りでトコロテンの材料にするのはマクサである。この種の体質は強靭で、引っぱってもなかなかちぎれない。他の海藻と区別し難いときは試してみるとよいだろう。
 なお、マクサはテングサの仲間の代表的な種で、寒天の主要原藻である。
 
 14、サンゴモ科植物
 サンゴモの仲間は体が石灰でおおわれているため非常に硬く、一見、海藻とは思えないような様相を呈している。この仲間は体に節を持つか持たないかで二つのグループに分けられている。すなわち、節を持つものを有節サンゴモ、これを持たないものを無節サンゴモと呼ぶ。
 ア、有節サンゴモ
 代表的な種はピリヒバである。この種は体長三~四センチメートルほどで、海岸いたるところに生育している。この種のほか三種ほど知られているが、いずれも少ない。
 イ、無節サンゴモ
 海をのぞくと紅色や紫紅色に色どられた岩や玉石を見ることができる。これは無節サンゴモによる色どりである。この仲間は最初は小さいが、生長とともに隣りの個体とくっついて不定形となり、最後には玉石などの基物全体をおおいつくす。
 岩や玉石などに海藻が生育しなくなるような現象を“磯焼け”というが、無節サンゴモだけは例外で、磯焼けを起こしている場所にはかならずはびこっている。このため、磯焼けと深い係わりを持っていることだけは確かであるが、その因果関係については未だに不明な点が多い。
 岩や玉石のほか、他の海藻に着生する種類もある。
 
 15、フクロフノリ
 岸辺を歩いていて、まず目につくのがフクロフノリである。この種は乾燥に強く、潮が引くと一番先に露出するような岩や玉石に着生している。生育する水深の幅はわりあい狭いので、防波堤のような表面が平らな場所では、横に帯状をなしているのを見ることができる。
 繁茂する期間は初冬から翌年の夏頃までで、春先きの若生いはミソ汁の実として好まれる。フノリ摘みはコンブ採りと並んで季節の風物詩といえよう。
 この海藻を一般に“フノリ”と呼んでいるが、本物のフノリは他にあるので、フクロフノリと呼ばなければ混乱することもある。
 
 16、エゾツノマタ
 以前はクロハギンナンソウと呼ばれていたが、現在はエゾツノマタに変更されている。このあたりで“ミミ”と呼ぶ海藻である。往年、糊料などの原料として需要が多かったが、合成品が出まわるにつれて採られなくなった。しかし、この種に近いツノマタの類が、カラゲーニン(食品などに広く使われている)の原料として注目されていることから、再び陽の目を見るときがくるかもしれない。
 
 17、ダルス
 冬もそろそろ終わりに近づく頃、岩や玉石に、あるいは養殖ロープなどに目立ってくる紅褐色の薄くてヒラヒラした海藻である。この名前、なにやら横文字の感じがするが、事実、英語の呼び名をそのまま借りたものである。
 体色は日陰など陽の弱い所では濃い赤褐色を呈するが、浅くて陽のよく当たる所では黄色味を帯びてくる。このような変化は他の海藻でもよく知られている現象である。
 
 18、クシベニヒバ
 この種は寒流系の海藻で、岩陰などに生育する。紅色の美しい色合いと形をしており、おし葉標本にすると一層引き立ってくる。一度試してみてはいかがであろうか。
 
 19、ハケサキノコギリヒバ
 この種はエソイシゲ、クシベニヒバなどと並ぶ寒流系の海藻で、かなり深い所にまで生育している。コンブの着生状態を調べる際、一定面積内の海藻をすべて採取することもあるが、この中にかならず含まれているほど生育量は多い。
 
 20、スガモ
 沖に向かって岩場が切れる辺りに、あるいは潮溜りに、ヒモのように細長い緑色の植物を見かける。これがスガモである。この植物は海中に生育するとはいえ、海藻ではなくれっきとした花を持つ植物である。南茅部町沿岸には非常に多く、この種を除いては海中の植物相を語れない。
 スガモは藻場を造る重要種で、地方によっては増やすための施策をこうじている。初夏、根元に長さ五~六センチメートルで、エビを引きのばしたような形の器官を造るが、この中にはハート形の種が入っている。