函館市/函館市地域史料アーカイブ

戸井町史

第八章 産業

第一節 水産業

六、戸井の海棲動物と海藻類

 戸井海域は、暖流と寒流の接触するところで、魚類や海藻類の豊富な海である。
 赤道附近の海域で発生して、太平洋を北上する暖流黒潮の一部が、対馬海峡から日本海にはいって対馬海流となり、それが更に北上して、一部が分れて津軽海峡の西口松前沖からはいって津軽海流となり、東に流れて戸井沖、恵山沖に達している。
 又、ベーリング海から千島沖を通過して、太平洋を南下する寒流親潮は、その一部が分れて、津軽海峡の東口恵山沖から津軽海峡にはいっている。
 津軽海峡を東流する暖流と、西流する寒流の末端が、押しつ押されつ尻岸内沖、戸井沖で、激しく衝突、接触している。戸井沖及び沿岸は、寒流二潮流の接触海域にあたっているので、暖流黒潮に乗って来遊する魚類も豊富であるし、寒流親潮に乗って来遊する魚類もまた豊富である。
 したがって、サバ、カツオ、ブリ、マグロ、イカ、タイなどの暖流系の魚類も多く漁獲され、サケ、マス、タラ、スケトウダラ(スケソ)などの寒流系の魚類も漁獲されるため、海産魚類の種類は極めて豊富である。津軽海峡のうちでも、汐首沖から恵山沖までの海域は、最も魚の種類も多く、産額も多い魚田である。
 戸井近海で漁獲量も多く、有用な魚類は
 
 ○かれい類では、ババガレイ(バッコ) マガレイ、ソウハチガレイ、オヘョウ、ヒラメ(テックイ)などであり、
 ○かさご類では、クロメヌケ、ヤナギノマイ、エゾメバル(ガヤ)、オオサガ、バラメヌケ、クロゾイ(ビッキゾイ) ムラソイ(モンキゾイ)などである。又
 ○アイナメ(アブラコ)、ホッケ、マグロ、ブリなどの産額も多い。その他
 ○サケ、マス、サメ(カトウザメ、アブラザメ、ホシザメ)なども、年(とし)によっては相当の産額がある。
 ○ホテイウオ(ゴッコ)エゾイソアイナメ(ドンコ)などは、産額は多いが都市の人々に知られていないために、価格が安くあまり重要視されていない。戸井の名物の一つになっている「ドンコののぼり焼き」や「ゴッコの味噌汁」などの味を都市の人々が知ったら、ドンコやゴッコの需要もふえて、有用魚類の一つになるだろう。
 ○この外サンマ、カジカ類もたくさんとれ、産額は少ないが、その時期になるとスズキ、タナゴなどもとれる。
 ○昔大漁の続いたマイワシ(ヒラゴ或はナナツボシという)やウルメイワシ(マルイワシ)は、とれなくなったが、時期になるとウルメイワシ(マルイワシ)やカタクチイワシ(セグロイワシ。小型のものをジャミイワシという)が回遊して来る。
 
 戸井近海でとれる魚は、潮流が激しく、海水がきれいなせいか(・・・)、同じ魚の種類でも、内海でとれた魚よりも数段美侏である。「戸井の魚は何でもうまい、特にドンコののぼり焼き」と歌われていることは誇張ではない。
 昔はイワシ、ブリ、マグロの豊漁が続いて、大漁景気に湧き、繁栄を極めた戸井も、濫獲の結果か、潮流の変化か、三十年以前からこれらの魚類の回遊が著しく減り、昔日の面影を失い、夢物語になっている。
 魚類以外で産額の多い海産物は
 
 ○イカ(スルメイカ)、タコ、ウニ、アワビなどであり、海藻類では
 ○コンブ(マコンブ)、トロロコンブ(ガゴメ)、ワカメ、チガイソ(サルメン)、テングサなどである。
 
 戸井の海産物で産額の多いものを挙げると
 
 第一位、コンブ。総水産額の五割乃至六割を占め、年によって差があるが三億乃至五億円の水揚げがある。
 第二位、イカ。年によって差があるが、七千万円乃至一億円の差額がある。
 第三位、タコ。渡島管内では第一位で、産額は五千万円前後。
 第四位、カレイ類とワカメ。産額は二千万円前後である。
  この外、瀬田来と弁才町の一部で多くとれるテングサは、渡島管内で第一位の産額を誇っている。
  昔戸井の重要水産物の一つに数えられていたフノリや、渡島管内一の産額を誇るテングサなどは、価格が安いために、採算のとれない産物になってしまったのである。

ワカメ

 
 イワシ、ブリ、マグロ大漁時代の一起し千両、一獲千金は、昔の夢になり、今はコンブ、イカ、タコ、カレイ類、ワカメ、ウニ、アワビをとって生活する普通の漁村に変ったのである。そして大半の漁民は、コンブとイカ漁が終ると、翌年の昆布取まで約半年の間、本州方面に出稼ぎに行くという、労務者供給の町と化した。
 海棲動物で特筆すべきものは、戸井のシンボル武井の島の伝説にまつわるムイ(村人はミヨといっている)である。ムイは蝦夷語といわれているが、ムイはヒザラガイ目のケムシヒザラガイ科に属し、和名をオオバンヒザラガイと名づけられているものである。
 カニ類で珍らしいものは、和名をガザミ又はワタリガニといわれているもので、方言で「ヘラガニ」と称している。このカニは夏の日ぐれから、浜町の沿岸に寄って来る。これを刺網でとったり、子どもたちが海にはいってとる。
 アンコウやマンボウ(キナボ)も稀にとれるが、美味な魚を始終食っている戸井の人々はあまり食べない。イカ釣りの人で、カイダコという貝をつけた小さなタコを釣って来たり、タコイカという腕(うで)が八本で、腕に逆さかぎのついている珍らしいイカを釣って来ることがある。戸井近海にはカイダコ、タコイカなどの珍らしい動物も棲息していることがわかる。
 寒流と暖流の接触する潮境に位している戸井近海では、寒流系、暖流系の意外な珍らしい魚類や動物が漁獲されることがある。
 次に戸井で漁獲される主な魚類、戸井の沿岸海域に棲息する動物類、戸井の沿岸に分布する海藻類の主なものを挙げた。分類は『日本動物図鑑』『日本産魚類検索』などによった。(淡水産のものも若干挙げた)