函館市/函館市地域史料アーカイブ

戸井町史

第一章 位置と自然環境

第五節 戸井の鳥類

 海洋を渡ることのできない多くの動物類や昆虫類は、津軽海峡や宗谷海峡が障碍になって、北海道に移動することはできないが、100里、1000里を飛翔(ひしょう)することのできる翼を持っている鳥類にとっては、津軽海岐や宗谷海岐を越えることは容易である。
 戸井で春、夏、秋、冬を通じて、鳥類についてよく注意して見ると、その種類の意外に多いことに驚ろく。春から秋まで植物採集に、戸井の山野を歩き廻ると、こんな珍らしい鳥も戸井にいるのかと思う位、いろいろな鳥に出合うのである。冬には人里近くや、海岸でもいろいろ珍らしい鳥に出合う。漁民の話をきくと、魚を求めて集る鳥にも珍らしい鳥が、戸井に渡来していることがわかる。
 戸井で繁殖し、戸井附近より移動しない留鳥(りゅうちょう)、戸井で栄巣(えいそう)して繁殖(はんしょく)し、雛が大きくなると海を渡って遠い地域に去って行き、北方や南方で繁殖して戸井に渡って来る渡り鳥など、注意して観察するど、おびただしい種類の鳥のいることがわかる。

かもめ

 南洋方面から渡来し、繁殖を終って帰るツバメ、北方シベリヤ方面から渡って来るキレンジャク、ヒレンジャク、ガン、カモ、シギの仲間が季節季節に見られる。秋から冬にかけては、近くの野山や人家の近くでシジュウカラ、コガラ、ヤマガラ、シマエナが、マヒワ、カワラヒワ、ベニヒワ、カケスなどを見ることができる。
 早春の頃にウグイスが人里近くまで来てなき、タニウツギ、エゾカンゾウの咲く初夏の頃にはキジバト(ヤマバト)が淋しい声でなき、ヨシキリやオオヨシキリが、水辺の葦の茂みで「ケケシ、ケケシ」とやかましくなく。又カッコウが物憂(ものう)げになき、ウグイスが山の笹やぶで、巣をつくる頃になるどホトトギスが、陰にこもった声で「アチャトテタ、コチャトテタ」となく。
 夏に汐首、釜谷、小安の高原地帯に植物採集に行くと、「ジープ、ジープ」と鋭どい声で鳴きながら、上空を幾度も旋回(せんかい)し、急に扇のような尾羽を広げ、翼を半開きにして「ガッ、ガッ、ガッ」と空気に抵抗して強大な羽音を立てながら急降下し、地上近くで急旋回して再び上昇するという変った鳥を見ることがある。この鳥はシギ科のオオジシギという種類である。やかましいなき声や羽音を響せて急降下、急上昇する動作は、オオジシギの繁殖期の生態である。戦斗機の急降下、急上昇を見るような誠に変った生態である。
 シギの種類はずいぶん多いが、殆んどのシギはシベリヤ方面で繁殖して、北海道や本州に渡って来る鳥であるが、オオジシギは北海道や本州で繁殖し、10月にはいると濠州(ごうしゅう)、タスマニヤ、ニュージーランドに渡って行くのである。その土地で繁殖するシギという意味から「地シギ」といわれ、体が大きいので「大地(おおじ)シギ」という和名がつけられたのである。
 秋に野山を歩いていると、近くの草むらから、急に大きな音を立てて飛び立つ鳥に驚ろくこどが屡々ある。これはコウライキジで、繁殖させて狩猟をするために、朝鮮産のキジを日高地方に放したものである。
 昔日高に放したコウライキジが、盛んに繁殖して、次第に南下して渡島半島にまで及び、茅部海岸、下海岸地方でも盛んに繁殖し、年々その数を増しているようだ。放鳥がこんなに繁殖したという例は珍らしいだろう。戸井地域でも、秋にすぐ近くの山へ行くと必ず2、3羽見ることができる。
 下海岸に多く棲息しているカラスもよく見ると、クチバシの細いものと太いものの二種ある。太い方がハシブトガラスで、細い方がハシボソガラスである。
 昔、鷹狩に使われたタカはオオタカと称する種類であるが、はやぶさ科のハヤブサという鳥も鷹狩に使われた。このタカは松前藩の財源の一つになったもので、タカのとれる場所に鷹場や鷹屋敷を設け、鷹侍(たかさむらい)を常駐させたという。この頃、小安に鷹屋敷が置かれ、武井の島の対岸の絶壁タカノスからオオタカやハヤブサの雛をとって育てて狩猟用の鷹に育てたと伝えられている。
 毎年秋になるとカケスが渡って来る。昔は子どもたちがわな(○○)でカケスを生捕(いけど)りにして飼育したものである。下海岸に来るカケスは、エゾカケスである。
 「門(かど)を叩くクイナ」は、昔の物語や随筆や和歌などに出て来る鳥であるが、菅江真澄の道南紀行の中に「クイナの叩く音がやかましく聞えた」と書いているし、鳥類学者は「クイナ、ヒメクイナ、ヒクイナ、バンなど、クイナ科の鳥は、北海道で繁殖し、北海道に棲息する」と書いているので、戸井にもいるものと思うが、クイナの姿を見たことも、その叩く音も聞いたことはない。戸井の山にもウズラがいると、村人が語っているが、これも見たことはない。
 晩秋から初冬にかけては、ガンが列をなして渡るのを屡々見かける。この頃になるとマガモ、カルガモ、コガモ、シノリガモ、ケイマフリ、ウミスズメなどの水鳥がたくさん戸井の沿岸に渡って来る。雪が降るようになるとウミウがたくさん戸井の海に渡って来て、沿岸の岩礁や武井の島の岩壁で羽を休める。武井の島の岩壁の斜面が、ウミウの群で真黒くなることがある。村人はウミウのことをオノドリ(ウノトリの転訛)といっている。

海鵜(うみう)

 秋に熊別川、蛯子川、戸井川などの川筋を歩いていると必ずカワガラスに遇う。カワガラスは人の気配に驚いて飛び立ち、水面すれすれに遠ざかる鳥で、常に一羽で行動している孤独な鳥である。秋の夕ぐれ時、カワガラスが独特な声でないて去った後の谷間は、心の底まで引きしまるような閑寂(かんじゃく)そのものといった感じである。
 砂浜の渚(なぎさ)には、イソシギが寄せては返す波と鬼ごっこでもしているように、小走りに走っては止り、止っては走っているのをよく見かけるが、山道を歩いているとヤマシギが急に飛び立つことがある。シギの仲間は非常に多いがオオジシギなどの一部を除いては、殆んどシベリヤ生れで、冬になると又生れ故郷のシベリヤに帰って行くのである。
 夏の夜に、人里で飛ぶヨタカをよく見かけることがある。又キツツキの仲間も多い。山で枯木によじのぼって、木をつついている大小さまざまのキツツキを見ることができるし、人里へ来て古い人家の軒先をつついているのを見ることもある。羽の色はケバケバしくて、美しいというよりも、毒々しいという感じである。戸井で見かけるものはヤマゲラ、エゾアカゲラ、エゾコゲラ、クマゲラなどである。戸井の人たちは、キツツキの類をケラ或はケラツツキといっている。
 川筋を上流にさかのぼって行くと、カワセミやアカショウビンなどに遇うことがある。この世のものとは思われないような美しい羽色をよく見ようと思っているうちに、あわただしく飛び去ってしまう。
 7月の上旬頃、深山へ行くと、からだの小さな、ほっそりとした鳥が、垂直に伸びている巨木の幹を、旋回しながらチョコチョコと登ったり下ったりしているのを見ることがある。この鳥にはキタキバシリという和名がつけられている。
 長年魚釣りをしている人は、海鳥の面白い生態や、船の近くへ来て、魚をねらう鳥をよく観察している。然し方言で名前をつけているので、図鑑を見せながら「こんな鳥だ」と言ってもらわないと、どの鳥か見当のつかないものも若干ある。
 はえ縄漁に行って、はえ縄を引きあげていると、船の前後を旋回して飛びまわり、はえ縄のはりから魚が外れて海面を流れると、魚の上空で体を左右に傾け、海面に急降下し、張った翼で水を薙ぎ切るようにして、魚をとって食う鳥がいる。この鳥を漁民は「ウミタカ」とか「シチリガモ」と称している。(佐々木正治談)
 戸井の魚釣りの人々が見て、昔からウミタカ、シチリガモなどと呼んでいた鳥は、ミズナギドリであることがわかる。ミズナギドリ科には、ミズナギドリ、オオミズナギドリ、アカアシミズナギドリ、ハイイロミズナギドリ、ハシボソミズナギドリなどの種があると図鑑に書いている。このうちのどれかを判定するため、形態をくわしく聞き、図鑑を見せて話し合って、「ハイイロミズナギドリ」と推定した。
 ハイイロミズナギドリは、北海道で繁殖するものもあり、遠くニュージーランド、フォークランド、マジェラン等、大平洋、大西洋にある孤島で繁殖し、南半球の冬期にはカムチャッカ千島、アラスカ、欧州沿岸、グリーンランド等、或は北半球の北部にまで渡来する。本州の太平洋沿岸沖合には、4、5月頃渡来する。戸井近海でこの鳥を見るのはこの頃である。
 
〔繁殖と生態〕
 鳥類学者の研究によると、ミズナギドリの仲間は、人が容易に近ずけないような孤島の絶壁に群集して繁殖するという。絶壁の傾斜地に横穴を穿(うが)って巣をつくり、その奥に産卵する。抱卵(ほうらん)は雄である。昼は抱卵する鳥以外は全部島を飛び立って餌をあさり、夕方になると島に帰って来る。島を飛び立つ時は、地上から直接飛び立たず、傾斜した木の幹に脚、翼、嘴(くちばし)などを使ってより登り、そこから滑翔(かっしょう)したり、崖の縁まではい登り、そこから飛翔するという珍らしい生態をもった鳥である。いわば高い所に登って、海に向ってグライダーする鳥である。テレビでこの鳥の巣立つ実況を見たことがあるが、雛島が成長して巣立つ前に、親鳥がついて幾度か滑翔の練習をして、それから巣立って行くのである。
 
〔形態〕
 ○戸井海域に渡来するハイイロミズナギドリ
 翼長は28―30糎位。尾長は8、7―9、3糎位、跗蹠は5、2―5、8糎位。顔喉の下面は稍々灰色を帯びている。嘴は黒い。上嘴の基部に白色の細い線がある。脚の色は褐色で内側はライラック色である。
 ハイイロミズナギドリはミズナギドリよりも大きく、全体に煙黒色である。ハイイロミズナギドリの外の種類のものも戸井近海に飛来しているかも知れないが、漁民が、はえ縄船につくウミタカ、シチリガモと呼んでいる鳥はハイイロミズナギドリのようだ。
 ミズナギドリは、漁師が魚群発見の目じるしにする鳥の一種である。
 4月上旬から6月中旬、7月下旬から10月上旬、特にホッケのとれる頃に、集団で渡って来る小さな鳥がいる。戸井の漁民はこの鳥を、昔から「チカップ」或は「マメスギ」と呼んでいる。(佐々木正治談)
 この鳥についても、くわしく話を聞いて「アカエリヒレアシシギ」と同定した。
 この鳥の繁殖地は、欧州、アジヤ大陸、北アメリカの北部である。ここで繁殖したこの鳥は、繁殖地に冬が訪れると集団をなして中国南部、インド、マレー半島、ニューギニヤ或は欧州南部、アフリカ北部、中米、ハワイなどに渡る。
 渡来する時期には、主に海洋上に群棲して、小さな浄遊生類(プランクトン類)を捕食している。時には内陸の湖沼や水田に来ることもある。
 この鳥は性遅鈍(ちどん)で、人を恐れない。物に驚ろいて一且飛び立っても他に飛び去らず、その附近の空を低く旋回して、又もとの所に下りるという習性がある。ピリーッ、ピリーッと鳴きながら飛翔(ひしょう)する。抱卵育雛(ほうらんいくすう)は、ミズナギドリと同じように雄がこれに当る。
 次に戸井の漁民が沿岸又は沖合でよく見かけ、方言で呼んでいるもの、或は名前をつけていない鳥について、その形態や習性をくわしく聞いて、和名を調べたものを挙げて見る。
 
トウゾクカモメ
 戸井の漁民がウミタカ、シチリガモと呼んでいるミズナギドリの来る頃、ミズナギドリ類を襲って、その捕獲した魚類を無理やり吐き出させて横取りする水鳥が来る。
 この鳥は単独生活をしている。この鳥は「盗賊」に等しい行動をするのでトウゾクカモメという和名を与えられている。トウゾクカモメは「とうぞくかもめ科」に属し、この仲間にはオオトウゾクカモメという種類もある。
 
オジロワシ
 このワシは名の如く尾翼の白いワシで、延縄の船の上空を旋回飛翔(ひしょう)して離れず、針から外れて海面を漂流する魚を急降下して捕食する。津軽海峡ではドンコ(和名エゾイソアイナメ)の釣れる時期に飛来する。
 
ホオシロガモ
 6月から7月にかけて、コナゴ(和名コウナゴ)のとれる頃に、雛を連れて沿岸に来る。大ていミズナギドリ(方言シチリガモ)と一しょに来る。背中が黒く、腹が白い。頬の部分が白いのでホオシロガモの和名が与えられている水鳥である。肉は美味である。
 
シラヒゲウミスズメ
 ホオシロガモなどの来る時期に沿岸近くに来る。体は割合小さく、頬のあたりに生えているヒゲのような羽毛にモグリ(コナゴの大きなもの)を何匹も刺してつなぐ習性があるので、漁民はツナギドリと呼んでいる。
 
ミコアイサ
 1月頃から2月頃にかけて、フノリガモ位の大きさの羽毛の真白な水鳥が来る。この鳥は孤独な鳥で、1羽か2羽で来る。2羽以上ということはない。これはミコアイサで、陸岸には近ずかず、海洋の真中でもぐって魚を捕食している。
 
シノリガモ
 冬に沿岸に寄って来るカモの仲間で、オスの頭の羽毛はオシドリのようになっている。戸井ではフノリガモと呼んでいる。肉はあまり美味ではない。
 
戸井の鳥類の分類(留鳥45種、渡り鳥113種 計168種)

戸井の鳥類の分類(1)


戸井の鳥類の分類(2)


戸井の鳥類の分類(3)