函館市/函館市地域史料アーカイブ

戸井町史

第一章 位置と自然環境

第四節 戸井の植物

 戸井は北海道の最南端である上に、沿岸が黒潮に洗われているため、天候が非常に温暖で、厳寒期でも気温が氷点下10度以下に下る日は多くない。雪の降るのも遅く、初雪は11月の10日過ぎ頃降るが、降っては消え、消えては降るという状態で、雪のない正月を迎えることは珍らしくない。したがって雪のためバスがとまるなどということは殆んどない。逆に山の雪も少なく、スキーの全然できない地域である。結氷期が短かく、結氷も薄いため、子どもたちが満足にスケート遊びもできないところである。
 赤道附近で発生し、太平洋を北上する暖流黒潮は、その一部が対馬(つしま)海峡から日本海にはいって、対馬海流と名づけられて、日本海を北上し、その一部が更に分れて、松前沖から津軽海峡にはいって東流し、津軽海峡と名づけられている。この暖流、津軽海流は、戸井沖まで達し、尻岸内沖で寒流の抵抗を受けて勢力が衰えている。戸井海域は、いわば黒潮の支流津軽海流の終点である。このことは、暖流の海に棲息する魚類の、戸井海域への回遊状態を考察しても推定できる。
 この暖流の影響をうけて、戸井には他地域では見られないような、意外な暖地性の植物が多く分布している。
 一方、カムチャッカ千島方面から南下する寒流親潮が、太平洋の日本沿岸にそって南下し、その分流が、津軽海峡の東口恵山沖から津軽海峡にはいり、尻岸内沖を経て、戸井沖に達している。戸井沖は、黒潮と親潮の接点であり、接触海域である。
 この親潮の影響を思わせるように、戸井地域には、意外な寒地性の植物が分布しており、道南でも800乃至1000米の高所に分布する高山性の植物が、戸井では、3、400米の低い山に分布している。
 このように、戸井という地域は、暖地性、寒地性の植物が豊富に分布している不思議なところである。
 戸井の植物誌を述べる前に、戸井に分布する稀生植物、特徴的な植物についての概要を述べて見たい。
 
1、戸井に分布する稀生植物
 道南でも、戸井以外では珍しい稀生の植物を挙げて見ると
 
マツムシソウ(まつむしそう科)
 この植物は、7月上旬から8月上旬にかけて、青紫色の上品なそして可憐な花を咲かせるもので、日本アルプスの高原地帯に分布する。ところが戸井では、戸井漁港の附近の岩壁や背後の高台、オカムイの岩壁の上から浜町の高台、熊別川の両岸の高台、日新中学校の裏山、汐首岬の背後の山にかけて一帯に分布している。戸井以外では、尻岸内町の日浦灯台までの岸壁に点々と分布している。

マツムシソウ(まつむしそう科)

 戸井のマツムシソウは本来のマツムシソウより草丈が低く、海岸近くにより分布していないので、ソナレマツムシソウだと思っている。図鑑には「若葉は食用になる」と書かれているが、人々が食うことを知ったらマツムシソウが絶滅するだろう。然し食糧の豊富な今の時代でマツムシソウを食う人はいないだろう。
 真澄は津軽の海岸地帯を旅して、草丈の低いマツムシソウを発見しているので、南部や津軽の海浜地帯にも、昔からこの植物が生育していたことがわかる。同じ仲間で、セイヨウマツムシソウという園芸品があるが、野生のマツムシソウの方がはるかに上品である。
 
シャジクソウ(まめ科)
 この植物は、北海道では戸井の一部と日浦の一部によりない稀生のものではなかろうか。菅原繁蔵氏は「シャジクソウは日浦によりない」といっていたが、日浦よりも戸井の漁港附近、オカムイの上の高原、戸井高校の沢に多く分布している。シャジクソウは8月上旬から開花する。花の色は淡紅色或は紅色で美しい。茎は地上をはい、葉は茎に放射状に輪生している。車軸草という和名は、葉の形態から名づけられたものである。この植物は長野県の一部により分布していない稀生のものである。どうして戸井漁港や浜町の海岸近くに根を下したか不思議である。
 まめ科に共通な形態の小花が、茎の先端にかたまってつく。

シャジクソウ(まめ科)

 
エゾヒナノウスツボ(ごまのはぐさ科)
 これも海岸地帯に分布する植物であるが、稀によりないものである。茅部海岸では鹿部村の大岩というところの海岸で見、恵山海岸の水無(みずなし)の附近で見ただけである。
 戸井では、漁港の西側の岩の附近、瀬田来のヨモギナイ川の川口の岩の岸に分布している。この植物は草丈が高く、花は小さくて先端が褐紅色を帯びている。茎、葉、花の形態を見て、最初の人々は、シソ科だと考えるが、シソ科ではなくてゴマノハグサ科である。花期は晩春から初夏である。
 
コハマギク(きく科)
 下海岸では、秋に道路沿いの岸壁に、小さな純白な花を咲かせる可憐な菊である。分布範囲は、銭亀沢の黒岩から尻岸内の日浦灯台あたりまでであるが、瀬田来から原木あたりまでに最も多く分布している。蔭海岸では、鹿部の大岩から南茅部臼尻あたりまでの岩壁に分布している。後志の積丹半島の岩壁にもあるが、広く分布している植物ではない。戸井の山へ上って見ると、日新中学校や汐首のテレビ中継所のある高原にも群生している。道南でも戸井位コハマギクの多く分布している地域は珍しいと思う。
 この植物は北方寒地性のものであるが、広く一般に分布している植物ではない。詩人や文学者がハマギクと書いたり、一般の人々がハマギクと称している植物は、コハマギクのようだ。戸井の道路沿いの岸壁にコハマギクの咲く情景は、まことにすばらしいものである。
 コハマギクと同じ仲間で、樺太原産のピレオギクという植物がある。ピレオギクの形態はコハマギクと同じであるが、花の色は淡紅色である。戸井のコハマギクもたくさんの中には、淡紅色を帯びたものがある。ピレオギクの変種である。

ウメバチソウ(ゆきのした科)

 
ラセイタソウ(いらくさ科)
 この植物も分布の限られた、稀生に属するものであるが、戸井には国道沿いの岩壁の到る所に分布している。
 花は盛夏の頃に咲くが、全然目立たない。然し葉が厚くてシワがあり、その名のようにラセイタ(ラシヤの一種)に似ている。戸井では、小安、釜谷、汐首、瀬田来、館町、戸井漁港附近、鎌歌、原木にかけて、岩壁の岩のわれ目、石垣のすき間などにたくさん生えている。戸井では一帯に分布しているが、他では稀により見られない植物である。数は少ないが恵山々麓の海岸、函館山々麓の海岸、下北半島の尻屋、岩屋の岩壁などに点々と分布している。
 ラセイタソウも海岸近くにより生えない植物で、北方寒地性のものである。

ラセイタソウ(いらくさ科)

 
コシカギク(きく科)
 これも北方寒地性の植物で、道東、道北等に多い植物で、舌状花がなく、黄色な筒状花だけがついて、坊主頭のように見えるキクの仲間である。
 コシカギクは本州にはなく、「この植物の南限は函館山の山麓である」と故菅原繁蔵氏が発表しているが、戸井にもたくさんあるので、南限は函館よりも南にある戸井と書き直すべきである。コシカギクが鹿部の漁業組合の事務所附近の一部でも繁殖しているのを見た。厚岸では駅の構内にも生えていた。コシカギクは蝦夷時代から海岸地帯に群生していたので、蝦夷はコシカギクの花の変った形態に注意を向け「コンコロ、キナ」(坊主頭の草)という名前をつけた。
 戸井の子どもたちは「リンゴの匂(におい)のする花だ」といって、コシカギクの花を摘んで、その匂(におい)をかいでいる。コシカギクは、小安、釜谷、館町、町、浜町の国道沿いの、人家の近くにたくさん分布している。
 
ハマウツボ(はまうつぼ科)
 名前の通り、海岸地帯の砂地に分布している半寄生の変った形態の植物である。葉がなくて、茎は淡褐色を呈し、花は淡紫色である。戸井でも数は少ないが、夏の頃戸井漁港の背後の山や、戸井高校の裏に分布している。
 
シュロソウ(ゆり科)
 戸井地域一帯の海岸に近い山にたくさん分布している。花は初夏の頃に開くが、梅の花のような形の小さな花をたくさんつけ、色は褐紫色で目だたない。クロユリに似た色の花である。
 昔の蝦夷は、シュロソウをヌベと称し、その根を焼いたり煮たりして食べた。北海道の昔の人たちは、蝦夷の食べるのを見習って食べた。和人はヌベを訛ってノベといった。真澄の紀行文に、秋田、津軽、南部の人々も、この植物をエゾロ或はエゾユリと称して、食べていたことを書いている。然しこの植物は毒草の一種に分類されているので、昔の蝦夷や和人が食べ過ぎて中毒を起し、目まいしたり、倒れたりする者があったと伝えられている。飢饉の時の重要な食糧であった。
 シュロソウと同じ形態で、花の咲くまで判別のつかない植物に学者はアオヤギソウと名づけている。その名のように花の色だけが異っていて、アオヤギソウの花は淡黄緑色である。戸井では、このアオヤギソウを3株より発見できなかった。下北の岩屋部落を訪れた時、古老が「岩屋にはエゾロがたくさんあって、昔はよく食べたものだ」と語ったので、岩屋小中学校のある明神平を探して見たが一株も見つけることができなかった。とにかく戸井というところはシュロソウの豊富な地域である。
 
ヤグルマソウ(ゆきのした科)
 ヤグルマソウといいば、一般の人々の常識は、石川啄木が「友の変歌、矢車の花」と歌った。ヤグルマソウである。啄木の歌った「青柳町の矢車の花」は、花が矢車に似た「きく科のヤグルマギク」である。ゆきのした科のヤグルマソウは、葉の形が矢車に似た壮大な植物である。
 ヤグルマソウは群落をなして分布し、春先は茎も葉も紅色で、秋の紅葉を見るような感じである。成長すると茎も葉も緑色に変り、盛夏の候に長い花柄を抽出(ちゅうしゅつ)して、淡紅色の花を咲かせる。庭園に植いて置いても風情のある植物である。
 ヤグルマソウは鹿部の大岩から南茅部の磯谷附近の道路沿いの山の傾斜面に群生しており、十和田の奥入瀬渓流沿いにもあり、戸井には分布していない植物だと考えていたら、エビシ川の川沿いの東斜面でヤグルマソウの群落を発見した。
 
センニンソウ(きんぽうげ科)
 秋に戸井一帯の海岸断丘の斜面に白い花を咲かせるつる性の植物である。センニンソウがこんなに群生している地域は珍らしいと思う。この花の咲く頃に、尻屋、岩屋の沿岸を歩いて見たが、戸井のようにはたくさんなかったし、道南の沿岸地帯でも珍らしいと思う。センニンソウは毒草に分類されているが、用いようによっては薬用になるという。
 
ナンテンハギ(まめ科)
 別名をフタバハギといい、葉が2枚づつ向い合ってついている。晩春から初夏にかけて、青紫色の美しい花を咲かせる。戸井全域の山に分布している。ナンテンハギも戸井のようにたくさんある所は珍らしい。
 
シロバナイカリソウ(めぎ科)
 強壮強精の薬草として昔から有名な、イカリソウの一種で、その名のように白色の花をつける種類である。この植物は原木川や熊別川の沢に多く分布している。
 
スミレサイシン(すみれ科)
 4月に雪が消えるとすぐ、葉の間から長い花柄を出して、その先に淡紫色の大きな花を咲かせる。分布は図鑑には本州北中部と北海道南部と書いているが、戸井の山や沢にはたくさん分布している。スミレサイシンは、花期には葉が十分成長していないが、花が終ってから径10センチ程の葉になる。
 
フタバアオイ(うまのすずくさ科)
 この植物も早春、スミレサイシンと同じ時期に花を咲かせるが、2枚の葉の間の下の方に、淡紅紫色の小さな目だたない花を下向きに咲かせ、よく注意して見ないと、花を見落す。変った形態の植物である。徳川家の葵(あおい)の紋章は、フタバアオイの葉の形にもとずいたものである。戸井では、スミレサイシンの分布するあたりにたくさんある。
 
ホド(まめ科)
 林の中などに、木に巻きついて伸びるつる性の植物で、葉は3乃至5枚の、奇数羽状複葉で、夏に形態の変った花を開く、長い根を引き、所々に表面が黄褐色で、内部の白い塊根をつける。
 昔はこの塊根を「ホドイモ」と称し、5月の節供などに、これを掘り、煮たり焼いたりして食べたものである。このホドも、昔あった地域をさがしても殆んど見当らなくなり、稀生の植物になってしまったが、戸井では熊別川などの小沢にたくさん分布している。
 
ヒメニラ(ゆり科)
 牧野博士が「明治十四年(一八八一)五月、日光中禅寺で見たことがある」と書いているところを見ると、日本でも稀生の植物のようだ。ところがこのヒメニラを、ミツコの沢で発見し、その後注意して見たら、蛯子川などの川縁に群生していることがわかった。ヒメニラは極く小型な植物で、春に細く短かい葉を二本出し、その真中から、細い花茎を出し、その先端に、小さな鐘形の花を1―3ケつける。花は白色に少し紫色がまじっている。5月の初め頃に花を咲かせるが、まわりの草が伸びてくると、その蔭にかくれてしまい、夏になると葉が枯れて地上には全然その影もなくなる。早春に芽を出し始めから終りまで、あまりにも小さいために目立たず、夏には姿を消してしまう、珍稀な植物ヒメニラが戸井にはたくさん分布しているのである。
 
センブリ(りんどう科)
 昔、その地域の山にセンブリがある村の人々は、必ず採ってかげ干しにしておいて腹痛や胃の薬にしたものである。この植物は、昔から胃腸の妙薬として漢方上でも有名な薬草である。「千(○)回振(○)り出しても苦(にが)い」というので、「千振(せんぶり)」という和名を与えられた植物である。
 熊の胃は腹痛、胃腸の妙薬として、昔から知られているが、センブリは熊の胃に匹敵(ひってき)する薬草である。薬草はその土地に住む人には、その地域に生えているものが特に薬効があるといわれているので、戸井の人は、戸井の山に生えているセンブリを使って病苦をのがれるべきである。尻岸内の人で、永年胃腸病に苦しみ医者にかかり、医薬や売薬を飲み続けても効果がないという人に、戸井の山で採ったセンブリをくれてやったところが、それを煎用したら効果が著るしいので、それ以来、センブリを常用しているということを聞いている。
 下海岸の人々は、センブリを訛ってセンフリと呼んでいる。然し現代の人々は殆んどセンブリを知らない。その地域の山に分布していても実物を知っている人は少ない。先年男鹿半島の寒風山へ登ったら、登山道路沿いの草原で、この土地の人らしい4、5人の女が何かを採っていた。運転手に聞くと「センフリを採っているのです。薬屋では相当いい値段(ねだん)で買い入れています」といったので、その附近に車をとめてもらって、草原をさがして見るど点々とセンブリが生えていた。センブリとまじってハナイカリ(りんどう科)もあった。ハナイカリもセンブリ程ではないが、胃腸の薬草である。
 戸井のセンブリの分布を調べていたら、小安の山路栄さんが「幼ない頃、父に連れられて、ズボリコ山でセンブリをとったことがある」というので、山路さんに案内してもらってズボリコ山にセンブリのあることを確認した。
 その直後、日新中学校の裏山を調べたら、ここにもセンブリが群生していることを発見した。
 センブリの薬草として採取適期は、花の咲いた時期である。センブリの花は、紅葉が終って、草が黄色く枯れる時期である。戸井では10月中旬から11月の上旬にかけて開花する。この頃にセンブリの分布している高原へ行って見ると、黄色になって枯れかかっている草原に、暗紫色の茎葉に可憐な花を咲かせているのですぐわかる。

センブリ(りんどう科)

 
2、戸井の高山植物
 戸井は北海道の最南端で、標高四○○米以上の山が2つよりない地域であるが、高山植物或は亜高山植物に分類されてい植物が、意外な程たくさん分布している。横津岳の5合目あたりから7、8八合目に分布している植物が、戸井では低地帯、或は標高200米位の地帯に分布している。
 
クルマユリ(ゆり科)
 本州では、高山に分布しているクルマユリが、戸井では人里近くの山や沢にたくさん生えている。この植物は、盛夏の頃に小型な可憐な花を咲かせる。葉が輪生して車に似た感じから車百合と名づけられたものである。八月の初めに尻屋村の桑畑山の山麓で、クルマユリを発見したので下北地方でも、戸井のように低地に分布していることがわかる。
 
ヤマユリ(ゆり科)
 純白の大輪の花を咲かせる、荘大な百合である。この花の咲く時期に、日本海岸を汽車で南下すると、山形県から新潟県にかけて、車窓からこの花の群生が見られる。佐渡が島でも到るところにヤマユリが自生している。
 北海道の自生地は、松前地域だけだと思っていたら、数は少ないが戸井にもヤマユリが自生していることを知った。
 
シラネアオイ(きんぽうげ科)
 学者が最初にこの花の群生を見たのが白根山なので、白根アオイという名前をつけたのである。このシラネアオイが戸井では近くの山や沢の到るところに群生している。春にこの植物が、上品な青紫色の花を咲かせる。シラネアオイが開花する頃は、シロバナノキクザキイチリンソウ、アズマイチゲ、エゾエンゴサク、フクジュソウ、カラフトナニワズ、カタクリ、シロバナノエンレイソウ、ヒトリシズカ、フタリシズカなどの春の草花が、次から次へと咲いて、近くの山や沢を飾るのである。
 
ハクサンチドリなどのらん科植物
 ハクサンチドリは、最初の発見地である加賀の白山の名をとった和名の高山植物であるが、この外に本州では高山地帯に分布している次のような、らん科(・・・)植物が戸井の低地や標高100米乃至(ないし)200米のところに分布している。
 クマガイソウ、ノビネチドリ、キソチドリ、ホソバノキソチドリ、ツレサギソウ、カキラン、コケイラン、ササバギンラン、サカネラン、ヤマトキソウ、ネジバナ、アオチドリ、ジンバイソウ、ギンラン、ツチアケビ、オニノヤガラ(ヌスビトノアシ)、サイハイラン(方言ハックリ)などの分布を確認している。アツモリソウが戸井にもあるという村人もいるがまだ確認していない。尻岸内で発見したサルメンエビネも戸井に分布しているものと考えて、さがしているが、未発見のらん科植物である。
 
ツバメオモトなどのゆり科植物
 本州では高山でなければ見られないツバメオモト、マイヅルソウ、チゴユリ、ホウチャクソウ、クルマバツクバネソウ、シロバナノエンレイソウ、ヤマジノホトトギスなどが、戸井では低地で見ることができる。
 
サンカヨウ(めぎ科)
 横津岳の山小屋(ヒュッテ)附近で稀に見られるサンカヨウは、戸井では標高300米位の山の林の中を探すと発見することができる。変った形態の高山植物である。
 ベニバナイチヤクソウ(いちやくそう科) 白花を咲かせるものを単にイチヤクソウと名づけているが、この植物はその名のように紅色の花を咲かせる。鹿部、宮浜、本別などの背後の山麓地帯の低地に、小群落をなして分布しており、鹿部地域の人々は、方言で「アカスズラン」と呼んでいる。いつかの道新に、「北海道の奥地で、ベニバナイチヤクソウという珍稀な高山植物を発見した人がある」と報道されたことがあるが、鹿部には低地にたくさんある植物である。
 戸井地域を調べた結果、鹿部地域程多くはないが、熊別川や戸井川の沢に分布していることを発見した。白花を咲かせるイチヤクソウもベニバナイチヤクソウの分布している附近にある。
 
ママコナ(ごまのはぐさ科)
 牧野図鑑には、ママコナの分布は、「北海道南部、本州、四国、九州、朝鮮南部」と書かれている植物である。
 10年位昔の恵山の山麓でこの植物を見、恵山はママコナの北限地だと考えていたが、戸井では、熊別川、蛯子川、戸井川の流域にこの植物が到るところに分布していることを知った。ママコナの北限地は戸井であるといってもいいだろう。
 ママコナは飯子菜(ままこな)の意味で、若い種子は米粒に似ているのでこの植物の和名になったのである。ママコナは一年生の植物で半寄生植物である。形態や花の形は、シソ科植物に似ている。
 ママコナの外にごまのはぐさ科では、シオガマギク、エゾシオガマなどが分布している。
 
丸山のコメツツジ(つつじ科)
 近くの山では、恵山によりないコメツツジが、標高408米の丸山の頂上附近にある。又丸山にはサラサドウダンやシャクナゲの巨木がある。
 この外本州では高原地帯や高山、深山でなければ見られないウメバチソウ、ハナイカリ、ウメガサソウ、ヤマシャクヤク、ルイヨウボタン、コヨウラクツツジ、ナツハゼ(方言コマシゲ)ハナヒリノキ、エンレイソウ、シロバナノエンレイソウ(ミヤマエンレイソウ)、オオバキスミレなどの高山性の植物が、人里近くの山や沢、或は標高200米前後の低山地帯にたくさん分布している。
 
3、戸井の群生植物
 戸井には、他地域に少ない植物、或は昔群生していて、現在絶滅してしまった植物で群生しているものが多い。
 その例を挙げると、シロバナノキクザキイチリンソウ、アズマイチゲ、エゾエンゴサク、カラフトナニワズ、キバナノアマナ、センブリなどが近くの山や沢に、小群落をなして分布している。
 道南の他地域でも、その数が少なくなり、或は絶滅の運命に頻しているエソカンソウ(方言カンショ)やカタクリなどが、戸井では群生している。
 エソカンゾウは初夏の頃に、海岸地帯の岩壁や近い山を黄色な花で飾り、カタクリは山一面といってもいい位、紫色の可憐な花で山を飾る。そしてエソカンゾウやカタクリは年々その数がふえている。このような群生地帯は、道南でも珍らしいようだ。
 又ヤマツツジ、ホツツジ、シャクナゲなどが、戸井のように近くの山に群生している地域は、北海道でも珍しいと思う。然しあまりに豊富なので、保護策が全然講じられていないため、いろいろな形で、大量に他町村に持ち去られている。
 戸井という地域の植物は、極めて多種多様であり、その分布は特異的である。
 昔ヨモギナイ川や熊別川の流域に植林したヒノキやヒノキアマナロ(方言でヒバと称している)は長年月を経て巨木になり、用材として伐採された残りのものが、生育を続けている。御大典記念に宮川神社の社前に植えたという2本のビャクシン、〓宇美家の裏に植えたビャクシンも見事に育っている。
 こういう事から見ても、戸井は暖地の植物の生育にも適した地域であることがわかる。昭和四十五年に、日新中学校前の斜面に、植えつけた芝生に稀生植物タンポポモドキが混っていて、黄金色の花を一面に咲かせた。この種子が戸井地域に広がって、タンポポモドキが戸井の里や山を飾るようになるだろうと推定している。
 とにかく戸井というところは、植物の豊庫である。