函館市/函館市地域史料アーカイブ

恵山町史

第5編 交通・通信

第1章 交通

第9節 戦後の陸上交通

6、『道道』、函館恵山線と元村恵山線


[図]

 
日浦1号トンネル落石のため交通止め
 函館土木現業所は日浦トンネルの危険度を察知するため、付近の岩盤斜面には、岩盤の動きを監視する計測機を設置していたが、平成13年2月上旬から異常な動きが感知され監視を強化していたところ、平成13年(2001)10月、1号トンネルに数回にわたり落石がありトンネル内の通行は全く不能となった。このため土現は日浦・豊浦間を同13年10月17日より、対策完了まで無期限通行止めとし工事工程を次のように計画した。
 
 平成13年度
  日浦7号トンネル対策完了(このトンネルは開削・ロックネット工)
 平成14年度
  豊浦側法面対策完了(岩切工・ロックネット工)
 平成15年度
  日浦1号トンネル対策工(根固工・PCアンカー工)
 平成16年度
  日浦2号トンネル対策工(根固工・PCアンカー工)
 平成17年度
  日浦3号トンネル対策工(コンクリート吹付工)
                 *18年3月末、対策完了の予定
 
 なお、工事の進捗状況から、開通の見通しは平成18年3月となった。

〈防災対策工実施計画(予定)〉

平成15年(2003)8月20日、道道函館恵山線災害防除工事についての要望書
 この道道函館恵山線災害防除工事−日浦1号トンネル工事に対して、北海道大学大学院水産科学研究科の助手、野田隆史氏は、日浦1号トンネル工事が9月以降着手し、土砂流出防止策として平磯部分に消波ブロック敷設の計画が、研究フィールドに大きな支障をきたすとの推測から、平成15年8月20日、工藤篤恵山町長宛に、『恵山町日浦海岸での道道函館恵山線災害防除工事における生態系保全への配慮のお願い』という要望書を提出した。なお、野田氏は、以前から北大水産学部等複数の大学が、日浦海岸、1号トンネル前の平磯で水生生物の研究を継続的に行っており−学位論文執筆中のものも相当数あり、これまでもトンネル工事についての問合わせ、配慮を求める要請を度々行ってきたが、工事着手に際し生態系保全への深い理解を求めるため提出したと推察する。
 
「道道函館恵山線災害防除工事についての要望書、その要点」
 恵山町日浦海岸での道道函館恵山線災害防除工事における生態系保全への配慮お願い
〈工事予定地の自然環境について〉
 工事予定地は凝灰岩海岸からなる平磯(海蝕棚)です。ここには一七種類の鳥類、数十種にのぼる多種多様な底生動物や海藻類が生息しています。また、ここの自然の特筆すべき特徴は、北海道南部で最大規模のムラサキインコガイベッド(ムラサキインコガイが優占する生物群集)が存在することです。これは北日本の磯の景観を特徴づけるものでしたが、沿岸の土木工事等によりその多くが縮小、現在、道内の大型のものは工事予定地を含めて二か所しか現存しません。ムラサキインコガイベッドには、多種多様な生物が生息しています。また、特別天然記念物のコクガンや希少種のハヤブサも工事予定地・周辺を生息地としています。このように工事予定地には、学術的に価値の高い自然が良好な状態で現存するうえ、市街地からのアクセスも良く生物観察や研究に格好の場であります。
〈工事予定地の自然環境の教育的価値・生活上の価値・学術的価値〉
 ・教育的価値‥ここでの研究から磯の生物群集で生物多様性の巧妙な仕組みの維持が明らかにされており、学術論文・書籍、学術講演等で一般社会に公開されてきました。
 磯に住む生物の生態学を学ぶ北大体験入学・北海道教育大公開講座・市民対象の自然観察会の会場としての利用、自然観察の場として書籍等でも紹介されてきました。
 ・生活上の価値‥地元で漁獲されるスサビノリ(岩海苔)のほとんどはムラサキインコガイベッド上が生息場所です。大量に生息するこのカイから排泄されるアンモニア態窒素は海水中の栄養塩が枯渇する季節のコンブなど海藻類の成長に貢献すると考えられます。また、市街地からのアクセスの良いこの地は自然観察の格好の場であり、休日などの磯遊びの場ともなります。
 ・学術的価値‥ムラサキインコガイベッド・生物多様性のパターンとその維持機構の研究の場としてこの地は、全国の研究者に知られ、北大をはじめ全国四大学から多数の研究者・学生が約一〇年にわたり研究(卒業研究一七名・修士論文一〇名・博士論文二名)を継続しています。これらの研究−岩礁の生物の多様性・保全・価値、関連する学術的知見は全国の生態学者からも注目され、期待もされております。
〈工事の影響についての予測〉
 工事により、海蝕棚の大半が消失するに伴い、北海道南部で最大規模のムラサキインコガイベッドが消失します。これにより自然の教育的学術的価値は大きく低下することが予想されます。また、ムラサキインコガイベッドを主な生息地としているスサビノリも減少し、岩のり漁は壊滅的な打撃を受けることが予想されます。海水中の養分が枯渇する夏季にムラサキインコガイから排出されるコンブなど藻類の養分が減少します。さらに、工事による生息場所の改変は、その周辺に飛来・生息する稀少鳥類(ハヤブサやコクガン)の減少を引き起こすことが予想されます。
 なお、工事後に海岸上の構造物は撤去されるとのことですが、ムラサキインコガイの幼生は、すでに存在するムラサキインコガイベツドにしか定着しないため、その回復には極めて長時間を要することが予測されます。すなわち、仮に工事対象地に広がる固着生物群集が回復するとしても、それには数十年以上の時間が掛かると考えられます。
       (北海道大学大学院 水産科学研究科助手 野田隆史   2003年8月20日)
 
 これには、要望書「賛同者名簿」が添付されていた。
 この要望書の「賛同者名簿」には地元の北海道大学・北海道教育大学、愛媛大学・山梨大学・横浜国立大学・京都大学・東京大学・東北大学・九州大学・三重大学・和歌山大学・金沢大学・岐阜大学・高知大学・東京農工大学・島根大学・鹿児島大学・東邦大学の国立、私立の18大学、国公立民間の研究機関、教育委員会・教育機関など全国の研究者・教育関係者・専門職ら65名が名を連ね、賛同者名簿を提出後も、続々と署名のメールが届き120名以上を数えていると報告されている。
 なお、この要望書・賛同者名簿は「北海道函館土木現業所長」「えさん漁業協同組合長」宛てにも提出されている。
 このことについて翌日の毎日新聞は次のように報道している。
 
 平成15年(2003年)8月21日(金曜日)毎日新聞の報道より
ムラサキインコガイに影響
恵山町「道道日浦一号トンネル」崩落工事
研究者『工法変更を』                   
 渡島管内恵山町・日浦海岸の道道「日浦一号トンネル」(全長六〇数メートル)の崩落防止工事を行えば、海岸に生息するムラサキインコガイが壊滅的な影響を受けるとして、研究者らが工法の変更を求めており、道は二十一日、現地で住民や研究者に工事方法を説明する。二〇〇一年(平成十三年)十月の崩落で一号トンネルは通行止めとなったままで、道は九月にも工事を着手したいとしている。道による工事はトンネル上の土砂や、崩落の恐れのある岩をいったん海に落とし、他の場所に運ぶ。この時、ムラサキインコガイが岩などに押しつぶされると研究者は指摘している。
 ムラサキインコガイは二枚貝で、浅瀬の岩場で一〇~一五センチの厚さに重なるように生息。生物多様性の指標ともされるともいう。トンネルの付近はえさん漁協(日浦)の約一〇〇世帯が拾いコンブや岩ノリなどの漁場としている。漁業者が住んでいる側から山道を約八キロをう回し、トンネルの反対側から漁場に下りる。
 同町の石田徹也助役は「漁業者の強い要望がある。環境破壊とは考えていない」と話し、工事を担当する道函館土木現業所は「影響を最小限度に抑えたい」と言う。これに対して、北大水産学部の野田隆史助手は「影響がなるべく小さくなるような工法を採用してほしい」と訴えている。
 
平成15年(2003)8月21日午前10時『現地立会』
 野田隆史助手の要望書を受け、翌日の8月21日午前10時より現地で立会を行った。参加団体・参加者は「北大からは水産科学研究科 中尾繁教授・野田助手」「えさん漁協からは松本勝彦理事・日浦支所役員6名」「函館土木現業所の第2事業課道路第2係 木村彰宏係長・今博克主任、他技師2名」「恵山町からは石田助役・環境整備課木村周治課長・坂本孝参事、他担当職員」他、「請負業者山崎組」が、現地の日浦1号トンネル・当該の平磯(海蝕棚)で立会の上(要望・説明・協議を行い)災害防除工事の確認を行った。以下、このことについて、8月29日付北海道新聞は次のように報道している。
 
 平成15年(2003年)8月29日(金曜日)北海道新聞の報道より
ムラサキインコガイ群落守れ
北大研究者の指摘受け
函館土現 恵山の落石防止工事縮小
 函館土現は二十八日までに、道南を生息北限とするムラサキインコガイの群落に悪影響を及ぼす影響があるとして、恵山町日浦地区で計画している道道日浦一号トンネル(全長八〇メートル)の落石防止工事の範囲を約二百平方メートル縮小することを決めた。日浦海岸でムラサキインコガイの生態を研究する北大水産学部の野田隆史助手(生態学)らが生態系への配慮を求めたのを受けた措置で、九月上旬にも野田助手らに工法についての説明会を開く。
 日浦海岸にはムラサキインコガイの道内最大の群落がある。ムラサキインコガイは貝殻の表面に岩ノリが付着、磯の生物のすみかになるため、貝の有無で磯の生態系が大きく変わることから、同大の学生や教官が一九九三年から調査を行っている。
 日浦一号トンネルは二〇〇一年(平成十三年)十月、岩の崩落で通行止めになり、現在も不通のまま。同土現は海中に設けたコンクリートの囲いの中に崩落の恐れのある岩などを落下させ、他の場所に運ぶ計画で、九月中、下旬に着工を予定している。
 しかし、野田助手らはコンクリートブロックなどによってムラサキインコガイが押しつぶされ、生態系が破壊されるとして今月十九日、函館土現に影響を最小限度にするよう要望。これを受け同土現は約一六六〇平方メートルの工事範囲を一四六〇平方メートルに縮小した。
 野田助手は、工事の影響を測定する事前調査を行いたいとして着工延期も要望。日浦地区では三カ年計画で日浦二号、三号トンネルの防災工事も計画されているため、「説明会の開催を土現に要請し、生態系保全に配慮した工事を求めたい」と話している。函館土現は「一号トンネルの着工延期については、前向きに検討したい。第二、第三号についても最善の工法を採りたい」と話している。
 
 道道函館恵山線災害防除工事についての要望書を提出した野田氏らは、この函館土木現業所の工事範囲・平磯の縮小200平方メートルという措置は、納得できる結果ではなかったと推測する。確かに、一度失った自然を取り戻すことは容易なことではない。しかし、今回のこの一連の取組みは決して無駄ではなかったと思う。まず、1つは平磯・自然の価値を地元は勿論、多くの人々が理解したこと、併せて、研究者の成果が生産者に還元されている事実も知ったこと。そして、自然環境は共有の財産であることの認識が深まったこと。2つめは、とにかく道路を造って欲しいから、道路建設を経済的な効率として見るだけではなく、自然環境との関わり・漁業の将来性を見据えた道路建設の在り方に、一石を投じたことにある。これは、現在改修が進捗中の『道道元村恵山線』に生かさなければならない。
 
 松浦武四郎の通った道『蝦夷日誌』巻之五』より
 松浦武四郎は、弘化2年(1845年)の秋、この工事区間、豊浦・日浦間を踏査し、その見聞を「蝦夷日誌」巻之五に残している。勿論、当該の平磯(千畳敷)については詳細に記述している。生息する生物の種類ーその中に「東海婦人」との品種名があるが、これは漢語で胎貝・しゅり貝のことであり、ムラサキインコガイのことと思われる。
 また、柱状節理の岸壁のスケールの大きい景観に感動し〟絶景筆紙に及ぶところあらず〝と記しながら絵心を動かされたのであろう、挿絵を添えている。
 
 村の端に左右の追分有、是より左浜道。汐干る時は是を行ニよろし、汐満る時ハ此峠ニかかり行。然し海岸は余程道程も近し、又千畳敷とも申広き場所有、甚風景の処也。余は此海岸を乙巳(弘化二年・一八四五年)秋通り、此峠を丁未(弘化四年・一八四七年)の五月通りたり。然し峠のかたハ樹木繁茂して黄竈多くして甚よろしからぬ道。然し馬ニ而往来の人ハ是非に是にかかるが故ニ、此二道になる也。
 重畳たる怪ツヅきの浜を行きて、立岩壁立高五十余丈(一五〇メートル)の岩面、巾凡四丁(四三〇メートル)とも思ふ。実に屏風のごとき平面也。この下又千畳敷とも云う平磯にして、汐満る時は一面ニ水となり干る時は平岩磯となるが故ニ、東海婦人・ムイ(オオバンヒザラガイ)・昆布・布海苔(ふのり)・鹿角菜(ひじき)・紫海苔(のり)等多し。如何にも目を挙げれば百尋の絶壁、後ろを顧みれば数万里の大東洋、絶景筆紙に及ぶところにあらず。又少し行き而転太石を多き処に出るや、小石を多く積て西院川原とも云うべき処有。是往来の人皆絶景に愛(めでて)而杖を留る間ニなす業なるやらん。行まましばしニ而、小ウタ此岩屏の上皆緑樹陰森たり、カラスガウタ少しの砂浜也。昆布小屋二三軒有。小流有。越而しばし行而上下ニ道有。小坂を越えて、村、日浦村に到る。
              (松浦武四郎蝦夷日誌」巻之五』より)
 
函館までの第2ルートとしての道道函館恵山線
 道道41号函館恵山線は尻岸内橋前で国道278号線と交差し、女那川から川上・日和山・蛾眉野を通り鉄山で道道83号函館南茅部線と合流、湯川に至る。女那川からこの路線の始点までおよそ19キロ余り(路線全長23.4キロメートル)である。日和山の峠や急カーブの連続と起伏の多い山道ではあるが舗装状態も良く、函館までの第2ルートとして大いに利用されている。また、国道278号線・道道83号函館南茅部線の事故の時にはう回路としても機能している。新緑や紅葉の美しい山道であり、最近はドライブを楽しむコースとして訪れる人も少なくない。

改良された道道箱館恵山線・豊浦海岸