函館市/函館市地域史料アーカイブ

恵山町史

第4編 産業

第2章 漁業

第3節 昭和時代の漁業

1、戦前の漁業

 昭和4年(1929年)6月17日北海道駒ケ岳の噴火は、寛永17年(1640)6月の大噴火以来290年を経た大噴火(プリニー式と呼ばれる大規模な軽石噴火)で、世界の火山噴火史にその記録を残す。
 駒ケ岳は1640年・寛永の噴火(17年)以来今日まで爆発的な噴火を反復し、しばし降灰、火砕流(火砕サージ)、泥流(土石流)などが山麓を襲った。1640年噴火では山頂部の崩壊が先行し、岩屑なだれが噴火湾に入って津波を誘発、700人以上が溺死(昆布採取の和人・アイヌが大勢含まれている)した。1856年・安政3年の噴火では火砕流で20人余りが犠牲となり、1929年・昭和4年の噴火では、降灰・火砕流・泥流などによる被害が広く山林・農地・市街地から沿岸漁場までおよび、6人が死傷した。(以上、北海道大学名誉教授 勝井義雄「北海道駒ケ岳噴火史 小井田武編・2003・3 森町発行」より)
 駒ケ岳の噴火による、降灰・火砕流・泥流など直接的な被害はみられなかったが、激しく噴火した翌日の6月18日、鹿部、臼尻方面より漂流してきた軽石が、恵山岬沖合を真っ白に埋め尽くし本村沿岸に押し寄せ、まるで砂漠のような光景となり、一時は停していた漁船の運行が不能となってしまった。この軽石群は潮流や風向期によって沖合に流れ去ったものもあったが、大部分は沿岸一帯にわたり沖出し500メートル内外、厚さ2乃至3メートルの層となり海底に沈堆した。いうまでもなく、この沿岸一帯は優良高価な真昆布三石昆布の成育地である。当時、百石当たり7、8千円から1万2、3千円といわれる値千金の昆布場に、駒ケ岳の軽石群は甚大な被害を与えたのである。

〈関係町村の被害額〉

 昭和4年、尻岸内村では直ちにその被害調査に乗り出し、同年9月にはまとめ上げた。
 
尻岸内村の一般被害状況〉
 昭和四年六月十七日午後一時頃ヨリ駒ケ岳爆発ニ依ル軽石降下シ農作物ニ被害下リタルモ、村民経済ヲ脅カス程度ノモノニ非ザリシカ、翌十七日朝ヨリ鹿部臼尻方面ノ海面ヨリ軽石漂流シ来リ、其ノ厚サ海面ヨリ現出スルコト二尺位ニシテ、他ニ流出セルモノアリシモ大部分ハ続々ト陸岸ニ漂着シ、現在判明スルトコロニ依レバ、沿岸四里半沖出シ三百間内外ニ渉リ七八尺乃至一丈五六尺ノ層ヲ成シ、海底ニ沈堆シアリ為メニ沿岸ニ棲息繁茂スル海藻魚介ハ死滅ノ危ニ遭イ、殊ニ沿岸ノ内古武井浜中及ビ尻岸内浜中沖合ノ砂磐ヲ除ク三里余ニ渉ル昆布礁ハ全ク埋没セラレ、本村主産物ノ一タル昆布ハ今後数箇年収穫不能ノ悲惨ニ陥レリ。
 
 尻岸内村の4漁業組合の平均的な水揚げは3,850石(金額にして167,990円)は見込めるところ駒ケ岳の噴火により、およそ5割の1,900石、80,650円の収入見込みとなり、1,950石・86,840円の減である。さらに、ワカメやフノリなどその他の海藻の被害10,700円を加えると、97,540円の損害と積算される。しかも、この被害は以後、数年に及ぶものと推察される。

昆布被害状況調』 昭和4年9月

 村は昭和4年度の「事務報告」に、尻岸内の『昆布礁災害復旧計画』について次のように記している。
 
 六月十七日駒ケ岳爆発ニ依リ海上ニ浮流セル軽石ハ陸続キトシテ、本村沿岸ニ沈降シタル為、沿岸ニ棲息繁茂スル海藻魚介類ハ殆ド死滅シ、殊ニモ昆布礁ハ全ク埋没セラレ、本村主産物ノ一タル昆布ノ生産ヲ不可能ナラシメ住民ノ生活ヲ脅威スルニ至リタルヲ以テ、十倉村長ハ之ガ救済策ヲ当局ニ迫リタル結果、九月一日農林省ヨリ長田技師来村審査ニ被害程度ヲ調査セラレタリ。
 ソノ後上京シテ内務、農林当局ニ参庁シ、或イハ屡々関係漁業組合長ヲ伴イ道庁及支庁ニ至リ悲境ヲ訴エテ、極力講策ノ緊急ヲ陳情セルニ幸イ当局ノ容ルルトコロトナリ、昭和四年度ヨリ昭和七年度ニ至ル四ケ年ニ於テ、被害面積五万三百坪ノ投石事業十八万八千六百六十二円ヲ認メラレ、此ノ事業費ノ五割ハ国庫補助金、残額ノ内、四万九千円ハ低利資金ノ貸付、四万五千三百三十一円ハ住民ノ労力寄付トシ、其ノ年度別工費及資金区分次ノ如シ。
 

尻岸内昆布礁災害復旧事業計画』

 この昆布礁復旧事業は昭和4年度から7年度の4か年にわたる継続事業で、軽石で埋没した5万310坪の昆布礁復旧に1坪につき15個の割合で投石、総数754,650個を投入するもので、その工費188,662円50銭と計画された。この財源の5割は国庫補助、2割5分は低利資金の借入、後の2割5分は地元漁業組合の労力提供によって充当するというものであった。
 なお、昭和4、5年の両年度にわたり各漁業組合は7万5千個づつ(総計30万個)の投石をしたが、この所要経費は1個につき約25銭と算出された。
 また、復旧資金の低利資金借入れについては、昭和5年6月9日、関係漁業組合が連名を以て、北海道庁長官(池田秀雄)に対して次の陳情書を提出している。
 
「駒ケ岳災害地復旧資金貸付ニ関スル陳情書」
「災害復旧低利資金貸付に関する陳情書」(文面については省略する)
 
茅部郡山越郡水産会長 吉田 定助  鹿部村漁業組合長  盛田政次郎
臼尻村漁業組合長   藤原 覚因  尾札部村漁業組合長 能戸 忠蔵
亀田郡水産会長    川口 勇吉  椴法華村漁業組合長 川島 力松
日浦漁業組合長    松本専太郎  尻岸内漁業組合長  山内与之松
古武井漁業組合長   梅川金五郎  根田内漁業組合長  井上 軍治