函館市/函館市地域史料アーカイブ

恵山町史

第1編 自然

第4章 恵山をとりまく海洋

第6節 恵山の海、海峡の恵み

3、海峡を彩る海藻の世界

 日本の北の海に生育するコンブ目植物というのは30種以上もあって、これは世界の海域で最も豊富に生えている所の1つである。
 津軽海峡では、函館側と青森側の両沿岸に生えるコンブのなかまは、ツルモ、マコンブ、ホソメコンブ、ガゴメ、スジメ、アナメ、チガイソ、ワカメである。また、函館の東側の海岸にはミツイシコンブ、西側の白神岬から桧山沿岸と龍飛岬などにはホソメコンブ、青森側の10メートル以深にはツルアラメやアオワカメがある。
 
①マコンブ

図6-1

 種々それぞれに、おもしろい形態や生活あるいは味を示す。コンブ類は1,000年以上前から神事・慶事などで貴重がられ、味が良く料理法も工夫され続けて、日本固有の文化の一端を担ってきた。なかでもマコンブは最も幅広で厚いうえに体も長大、形のバランスが絶妙で堂々とした風格が備わっている。マコンブはこのグループの代表種だけではなく、海藻の王様のような存在と言えよう。優良なものは津軽海峡に面した浜と恵山岬から噴火湾側の浜に生えている。生育水深は、通常3〜10メートル。函館の根崎や石崎、対岸の下北半島大間などでは水深30メートルにもみられる。なお津軽海峡におけるマコンブの生育分布については次節で詳述する。
 マコンブは、学名をラミナリア・ジャポニカと命名されているが、ラミナリアとはラテン語で葉の意味、ジャポニカは日本のこと。褐藻に属しており、葉の全形は幅20〜40センチメートル・長さ2〜5メートルとなる笹の葉状で、広い中帯部(ちゅうたいぶ)が肉厚、縁辺(えんぺん)は幾分薄くて大きく波打っている(図6−1〈文献3〉)。葉の基部には1本の短い茎が続き、茎の根元に近いところからは多くの根状糸が発し、それぞれが分岐して絡んでいる。海藻では、この根のことを付着器(ふちゃくき)と呼んでいる。大きい葉に比べて小さく目立たないが大事な部分である。
 天然マコンブの一生は、秋に生まれてから2年間、様々な生長の姿をたどった後、秋に葉はぼろぼろに枯れて死にいたる。これは寿命を全うした場合だが、この期間に何度も大波や嵐で海底が激しくかき回されることがあり、そんなときも付着器が岩盤や転石などを鷲掴みして、大きい葉を支える。葉は多少ちぎれても再生できるが、水流などに負けて付着器から剥がれてしまったらお終いである。流れて海底に埋もれるか岸に打ち上げられ死んでしまう。
 死ぬ方へ話が向いてしまったが、それではマコンブは一代きりで滅びてしまうことになる。海峡で繁栄しているのは、次のように子孫を残すからである。初秋に、葉の下部より中部にかけて微小なふくろを極めて多数、高密度につくり、さらにその1房のふくろには遊走子(ゆうそうし)(遊泳能力のある胞子)が入っていて、やがて海中に飛び出す。ほとんどのマコンブはこのように成熟して、大量の遊走子を出すので、秋の一時期、沿岸の海水には遊走子が濃く含まれる。これらは海底に着くと細胞が増えて糸状となるが、ミクロの大きさで、実は、雄と雌の2種類の配偶体となる(図6−2〈文献3〉)。やがて体細胞のほとんどは生殖細胞へ変わってしまい、雄では精子、雌では卵をつくり、受精卵は発芽し次世代目の巨大なマコンブに生長していく。津軽海峡の沿岸ではこの植物の小さな出来事が何万年も前から途切れずに続いてきた。

図6-2

 
 ②ガゴメ
 津軽海峡の沿岸(福島〜函館〜恵山岬〜噴火湾、下北半島北端、龍飛岬)が主な産地で、マコンブと並べても見劣りのしない体をもつものに、ガゴメがある(図6−3〈文献3〉)。葉の表面に、ラーメンどんぶりの縁に描かれているような雲や龍紋模様に似た凹凸があり、それが篭(かご)の編み目にもみえるところからこの名前がつけられたようだ。学名はクラッシフォリア。属名のシェルマニエラは海藻学者 Kjellman 博士を記念してつけられ、種小名クラッシフォリアは厚い葉という意味である。トロロコンブ属のなかまで、葉形はコンブ属のものに似ているが、表面の凹凸模様は一生を通して消えることはない。
 ガゴメは、付着器が繊維状で葉は長さ1〜3メートル、幅20〜40センチメートルの笹の葉状。葉の質はかたい革質、若い体は柔らかく淡褐色を示しあとで濃褐色に変わる。海峡の沿岸では通常、水深10〜25メートルの深いところで生育しているが、近年、南茅部や龍飛岬ではそれよりも浅い水深2〜5メートルでも確認されている。成熟期は9〜12月。遊走子を作るふくろは、まず葉の窪みに多数生じてそれぞれがつながって下から上へ広がる。ライフサイクルはマコンブと同じ様式である。しかしガゴメの寿命はマコンブより長く、少なくとも3年以上生きることができる。多くのガゴメでは、晩秋から冬に幅の狭い旧葉を下部より伸長してきた幅広い新葉が突き上げる現象がみられる。これは葉の下部(茎に近い側)に生長点(せいちょうてん)と呼ばれる分裂組織があり、ここで細胞が盛んに分裂を繰り返すことによって葉が再生・生長してくる。

図6-3

 初夏から夏にかけての時期、道南の恵山町や戸井の海岸を通ると、お相撲さんの体型をシルエットにしたような巨大なガゴメの葉が干してあるのに出会う。ガゴメの値段というのは養殖マコンブと同じ程度だが、海峡のめぐみを体いっぱいに表現しているガゴメの存在には、別の高い値打ちがあるのではないであろうか。
 この属にはもう1種、いわゆるトロロコンブ(学名シェルマニエラ・ギラータ)というのがあり、ガゴメよりも薄く小型の葉が特徴である。道東や千島列島に生えている。ガゴメは津軽海峡、トロロコンブは道東にあって北海道の両端で離れていて、その中間地帯にはトロロコンブ属植物は分布していない。
 
 ③ホンダワラ

図6-4

 津軽海峡に面する海域には、コンブのなかまが豊富に生育している。このためであろうか、海中でコンブ類に負けない大きさである褐藻ホンダワラ類のことについてはあまり注目されず、あればスクリューにからみ漁の邪魔者としてにらまれて、害藻(がいそう)にされることがある。大型のホンダワラ類が自慢の体を海に浮かべていても、現代人は何の感慨も受けない。しかし、いまから1300年以上も前の人たちは、このグループの植物に親しみと美的な関心をよせていたようである。「万葉集」には、磯で海藻が生え、それを採って干す風景や藻塩焼き(海藻を使った古代の製塩技術)の様子を詠んでいる歌がある。ここからは、当時、海藻が贈り物や食物として使用され、しっかり社会に根付いていたことがうかがえる。
 ホンダワラ類には1メートルほどのものから10メートルを越える種があり、雌と雄が別の雌雄異株が多くみられる(図6−4〈文献3〉)。現在一般に使われている「ホンダワラ」の名については、藻体の枝にある気胞や生殖器官が穂のように見え、磯で多数の個体が絡み付いてわらを編んだようになるからか、近世に穂俵(ほだわら)が転じて伝わったものといわれている。なお気胞は枝や葉の一部が分化したもので、球形、紡錘形をし、中に空気がこもるので、長いホンダワラ類は海中で立ちあがり海面で浮かび漂えるのである。
 ホンダワラ類は陰花植物に属し花は決して咲くことはない。このなかまには、生長し枝や気胞の先に雌か雄の生殖器官を形成して完熟してくると、体がより鮮やかに変色するものがある。
 北上し、現在の津軽海峡にもう一度目を向けると、ホンダワラ類は函館側に約10種、青森側に約15種が生育している。海峡では、ほとんどの種が初春から著しく生長し始め、大きくなって初夏〜夏に体外受精で大量の幼胚(ようはい)(卵割によって形成した次世代のホンダワラ類の幼体)を海中にまいたあと、夏が過ぎるまでにはどの種類も体の下部を短く残して上部は枯れてしまう。
 函館の磯の浅いところには、スギモク、ヒジキ、ウミトラノオ、ミヤべモク、ヨレモク、タマハハキモクが、波が強く当たる岩場ではエゾノネジモクが繁茂している。春、スギモクはオレンジ色の丸い生殖器床を海面に無数に浮かべている。ヒジキは春から夏に岩場で黄色のじゅうたんを敷きつめる。ウミトラノオもこげ茶のじゅうたんのようになる。深いところでは、ウガノモク、フシスジモク、アカモクなどが林のように立ち上がって、海の中に森を作っている。
 ホンダワラ類があるところは、ニシン、ハタハタ、イカナゴなどが産卵し、多くの幼魚が遊び育つ。エビ、カニ、ウニ、貝、それに様々な小型海藻らも緩やかに守られていて、そこでは多様な海産生物を何世代も育んできたのであろう。