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函館市史 通説編2

第2巻 第4編 箱館から近代都市函館へ

第9章 産業基盤の整備と漁業基地の確立

第4節 露領漁業の進展

2 樺太出漁の状況

 30年には、ロシアが樺太漁業を禁止するという風説が次のように流れ出す。「本邦人の漁業に赴くものおびただしく、其の利益も巨額に上り居りしが、何故にや露国政府は本年七月を以て日本人の漁業を禁止せんとする……」(明治30年2月27日「樽新」)。事実、31年からの漁業許可は政府間交渉による暫定1か年間の不安な取り決めとなった。しかし、それにもかかわらず漁業生産力は第2期よりもさらに進展した。露領時代を通じて漁場主数の最も多かった31、32年の50人余の住所をみると、半数が北海道、次に新潟、石川、青森、茨城県人が続き、あとは1名ずつではあるが、秋田、富山県のほかに、高知、愛媛、岡山、滋賀、三重県の西日本出身者の名前もみえ、全国各地から樺太漁業を企図して函館へ渡った様子を知ることができる。そして、日露戦争後に活躍した北洋漁業者(佐々木平次郎、小熊幸次郎、品田鹿造、田代三吉、米田六四郎)も顔を出して来る。また、35年に外国領海水産組合(サガレン島水産組合)の評議員となった漁業者14名の履歴では、家業が船問屋、海産商の者が多いのは当然としても、函館支庁やコルサコフ領事館出身者も加わっている。評議員の中には、函館商業会議所議員(山本巳之助)や漁業関連会社の役員(笹野栄吉、内山吉太、永野弥平)もいて、20年代から30年代前半にかけて資本の蓄積が進んだことを示している。
 第3期の生産力の進展に最も力のあったのは鰊漁業であるが、その出漁の状況を33年の領事館報告でみよう。「本年ノアニワ湾内ノ結氷ハ四月三日破砕渚岸ヲ離レ遠ク流失、満眸蒼海一点ノ氷塊ヲ止メザリシガ………十二日一汽船黒烟ヲ吐キ遠ク流氷ノ間ヲ縫ヒ闖入スルヤ、之ニ次キ西海岸又ハ当湾内沿岸各漁場ニ漁夫植付ケ又ハ漁具運搬汽船陸続来航セリ」。西海岸の鰊漁業は33年の漁場閉鎖による漁場数の減少にもかかわらず表9-55のように漁獲石数を増加している。
 西海岸の鰊漁場はマウカに所在するデンビー商会漁場(23か所)の北に位置し、桂久蔵、米林伊三郎、小林栄次郎、大内兵吉郎の漁場がその中心であった。
 なお、ロシア人名儀の漁獲高は表9-56のように伸びているが、これはデンビー商会と同商会から仕込を受けているビリチ、プレトニコフ、ニコネンコ、トローシンのほか、日本人(内山吉太、品田鹿造、忠谷久五郎、吉村清吾、吉松久雄、新井田礼太)から仕込を受けているロシア人の漁獲高であった。前述したように、デンビー商会も含めてすべてのロシア人名儀の漁場は日本人漁夫を雇用しており、その漁獲物もデンビー商会は函館のハウル社を通すなど、大半は函館へ輸送された。日本人の鰊漁場は西海岸のほかに、東海岸のワーレ、マクンコタン、栄浜やアニワ湾内にあり、合計の漁獲石数ではロシアと匹敵するものであったから、33年以降は日露両国で10万石を上回る鰊粕が函館港をはじめ国内へ輸送された。これは北海道の鰊漁業の不振を補うものであり、農家用肥料として割安であった輸入大豆粕や国内産の人造肥料と競合しながら肥料市場に大きな影響をおよぼす数量であった。
 
  表9-55 西海岸の鰊漁場(日本人)
年 次
漁場数
漁獲石数
明治31
32
33
34
35
36
20
34
24
25
25
25
12,500
24,000
26,214
38,947
57,100
74,876

 「コルサコフ領事館報告」より
 
 表9-56 ロシア人漁場漁獲高
年 次
 
鰊締粕
 

 

 
日本人漁夫
使用人数
明治31
32
33
34
35
36
25,000
29,165
57,154
53,384
61,942
98,445
97
1,086
5,775
1,381
975
2,080
677
1,473
1,278
5,806
5,313
10,199
不明
4,543
7,085
4,360
5,000
6,409
不明
1,700
2,917
2,500
2,475
3,251

 「コルサコフ領事館報告」より作成
 
 鮭・鱒漁業は第2期に比較して薄漁傾向となり、特に33年の漁場閉鎖の結果、鮭の漁獲石数は漸減し、鱒も1万石を上回って増減する状況であった。ただし、鱒はエトロフ島、北海道の鱒漁不振により価格の上昇をみている。また、鮭はカムチャッカ、黒竜江下流、タムラオより大量に入荷し、33年でその数量は15~20万石に達した。
 以上のように、第3期は鰊漁業が生産力の根幹となって、領事館報告で特筆された27年、28年、29年の漁獲石数に倍する数量がそれぞれ5年後の34年、35年、36年に達成されている。この原因を35年の領事館報告では「漁場ノ増減ニカカワラズ年々収獲増加ノ傾向アルモノハ 当業者ガ実験上、漁撈法ニ習練シ、種々改良ヲ加ヘ漁場ヲ整備シ、使用漁夫ヲ増ス等重ナル原因ニシテ………」と分析している。36年の日露両国の漁獲数量を合計すると22万7000石におよび、樺太島南部沿岸における生産力の極限に達したと当時評価(『大日本水産会報』第260号)されている。第1期より第3期までの主要漁場主毎の雇用水・漁夫数および収獲金額を表9-57・58・59で示した。
 
 表9-57 第1期漁場主別水・漁夫数、漁獲金額
漁  場
漁場主名
明治9年
11年
13年
14年
15年
ロ モ ー 地 方 沓掛民吾

宇野左兵衛
 
29
4,213
9
2,700
49
8,879
101
8,011
33
2,464
71
27,735
197
61,167











タラヰカ

タランコタン

木田長右衛門

山口徳蔵

島崎秀吉

佐藤和右衛門

橋本六三郎

疋田宥蔵

宇野忠次郎

中村金左衛門

岡田伝右衛門

西村利光

相原寅之助

永野弥平

新井田仁太郎

藤井一正

山田竹次郎
72

79

83

104

17

104

34







18

26



38


75
5,295
51
3,867
32
3,335
73
4,020
46
3,962


19
4,614
19
1,735
25
624


45
3,280
86
3,820


72
4,055

91
15,495
81
14,648
42
12,207
70
19,546
39
11,914
42
4,367
114
13,798
20
4,462
67
15,845
54
10,560
35
18,252
70
11,254
42 809
71
2,367
90
6,680
99
19,646
84
17,762
45
7,427
136
3,945
66
6,686
24
4,052
36
8,521
39
2,746
196
12,522
146
7,276
90
16,723
86
34,825
14
4,574
21
6,887
110
20,797
92
28,979
130
26,467
36
5,082
91
2,609
54
9,292
39
3,207
98
20,482
34
3,167
116
11,744
90
14,935
145
33,191
201
53,655
14
1,955
41
1,940
125
20,550
















エホロコフナイ

ナヨロ

マタンコタン

アイロップ

ナイプツ

 表9-57・58・59は「コルサコフ領事館報告」より作成.
 各欄の上段は水・漁夫数、下段は漁獲金額.
 漁場主はロモー地方を除いて、4か年以上出漁の者を掲載した.
 明治9年、35年、36年は水・漁夫数のみである.
 
 表9-58 第2期漁場主別水・漁夫数、漁獲金額
漁場
漁場主名
明治18年
明治19年
明治20年
明治21年
明治22年
明治23年
明治24年
明治25年
明治26年
明治27年
明治28年
明治29年
明治30年
ロモー地方
忠谷久蔵

大庭種吉
                     
60
20,666
8
2,460


11
3,328










石川卯之松

笹野栄吉

佐藤清四郎

木田長右衛門

山口徳蔵

有田清五郎

中村金左衛門

相原真之助

永野弥平

西村利光

林寅吉

岡田伝右衛門

内山吉太

山本巳之助

若山政太郎

今小三郎







109
8,411
118
7,382




70
4,717
123
7,708
32
2,873


18
1,028
54
3,681
23
917


96
6,425




18
1,375
111
7,540
195
13,527
41
2,868
68
11,885
41
8,986
46
7,218
147
26,040




55
7,254
174
14,070
221
27,242
58
9,755
45
3,902
19
952
87
11,367
50
5,124
51
6,050
146
16,283




44
7,538
186
18,293
217
38,037
125
13,133
60
10,167
120
10,216
119
20,325
56
8,780
50
11,735
160
33,606


25
4,010
64
17,905
172
28,281
195
27,072
117
13,606
96
9,535
28
3,197
111
9,861
88
7,791
44
4,861
159
19,743




63
3,450
151
10,959
224
22,375
102
6,868
109
6,670
49
4,686
120
3,838
91
5,485
48
1,907
157
6,962




95
2,142
186
9,391
191
6,671
116
4,798
91
1,972
46
805


97
8,437
112
12,292
103
6,999
42
2,408
156
11,132


41
5,499
50
2,275
191
17,863
211
25,877
118
14,275
103
14,469
42
6,508
33
1,570
83
8,083


31
4,022
125
15,129
77
12,214
40
7,270
147
16,681


37
5,710
39
3,165
211
26,715
176
26,475
143
14,936
94
12,240
53
4,634
55
2,389
87
11,820


30
1,215
124
15,639
144
13,126
48
6,875
183
16,074


67
6,685
26
3,959
244
33,051
219
25,504
145
17,801
101
10,157
42
3,332
52
7,825
182
21,590


58
15,785
150
22,019
196
33,138
45
10,301
178
36,073


61
13,175
38
6,197
228
38,125
219
26,927
158
17,058
42
13,259
58
6,246
86
16,542
192
20,071


96
17,215
122
35,866
240
43,851
45
12,723
181
45,234


128
28,146
26
11,337
282
56,061
250
71,743
189
47,654
88
22,418
54
6,693
145
26,183
57
19,774


115
12,495
132
44,584
248
88,497
40
14,206
275
77,825


127
28,511
26
9,623
305
65,772
223
59,772
150
31,783
131
37,568
72
14,634
283
35,955
128
50,888
27
9,391
187
30,067







西





米林伊三郎

宮島鎗八

大内兵吉郎

桂久蔵

柳谷助市

田中武兵衛

岡田八十次

酒谷林次郎

米田六四郎

鈴木重右衛門

伊藤亀蔵

村上祐兵

浜野積光

佐藤専助
 
 
 
 












57
1,982












148
3,358












112
10,412












125
11,209










10
587













133
10,155


19
1,556
18
1,750




4
231













158
27,062


23
2,485
33
4,240
77
6,751


41
2,369













198
23,594


38
2,449
33
2,981
68
9,327




15
46










136
29,714
278
47,151
71
12,352
100
6,168
28
8,006
21
233


79
9,566
15
933
24
2,092
85
5,552
103
15,744
71
7,027
69
7,852
144
34,094
173
18,499
73
10,282
70
6,244
38
5,130


30
3,379
32
1,515
27
3,256

 
 表9-59 第3期漁場主別水・漁夫数・漁獲金額
漁場
漁場主名
明治31年
明治32年
明治33年
明治34年
明治35年
明治36年






















石川卯之松

笹野栄吉

佐藤清四郎

木田長右衛門

有田清五郎

中村金左衛門

相原寅之助

永野弥平

西村利光

林寅吉

岡田為(伝)吉

角野梅次郎

桜庭豊作

小熊幸次郎

内山吉太

山本巳之助

若山政太郎

今小三郎

相原亀吉

佐藤専助

許勢甚七

佐々木平次郎

柏原昇

柿添松右衝門
150
19,127
359
59,625
61
10,254
281
37,501
139
9,885
26
4,246
257
29,844
211
24,096
150
19,854
162
10,589
70
10,736
36
1,812
16
866
78
4,633
256
43,954
218
53,085
30
6,464
144
20,426
130
32,452
373
93,781
36
17,572
179
40,569
56
13,519
45
10,266
14
812
153
50,921
131
15,658
150
20,091
40
6,250
32
3,903
15
1,609
47
8,797
244
101,164
237
63,350
75
24,221


14
1,741
9
912
17
2,480
105
23,312
89
9,314
32
3,097
82
19,511
200
30,596
10
2,429
76
40,074
30
20,905




65
44,131
21
12,234
45
14,480
32
8,391
15
1,875
15
1,677
42
8,731
388
46,632
85
20,007
50
6,065


72
3,284
14
1,603
18
2,898
72
9,855
46
11,376
15
1,619
90
19,439
195
29,546
15
1,881
85
20,695
40
15,953




75
27,397
24
5,745
55
8,909
40
6,032
19
1,462
15
1,240
45
5,834
349
51,205
105
14,644
65
12,566


95
1,088


15
2,329
140
10,306
70
9,352
15
2,310
88

189

15

77

30





80

18

60

29

15



25

381

110

55







15

128

63

15
95



170

75

40





75

25

65

30

15



30

358

90

50







15

65

51







西







米林伊三郎

宮鳥鎗八

大内兵吉郎

桂久蔵

柳谷助市

田中武兵衛

岡田八十次

酒谷林次郎

米田六四郎

鈴木重右衛門

伊藤亀蔵

村上祐兵

浜野積光

忠谷久五郎

小倉基

品田鹿造

小林栄次郎
40
26,338
38
5,187
180
48,134
179
7,961
102
21,844
200
46,880
149
37,571
60
10,282
91
6,295
34
9,120
30
1,537
40
5,627
26
1,174
15
534
50
8,148
189
61,981
94
35,609
60
15,066
180
56,241
100
26,204
157
39,890
151
31,190
49
10,539
75
11,594
34
9,770
41
5,112
30
6,150
14
764
230
60,288
67
9,060
134
34,136
104
25,400
230
58,433
36
25,487
89
13,879
235
115,892
89
27,434
145
47,453
135
27,534
60
11,553
75
11,051


26
4,659
32
8,257


186
67,823
35
8,618
40
30,883
86
27,970
275
125,268
175
39,098
75
24,786
230
100,300
100
14,477
200
35,204
170
24,028
40

60
9,777


25
6,085
30
7,849


232
68,333
87
16,928
155
46,966
90
18,955
412

196

75

395

100

180

167



75



39

71



242

102

80
565

210

120

491

120

185

143



75





85



374

57

85

 上段は水・漁夫数、下段は漁換金額