函館市/函館市地域史料アーカイブ

函館市史 通説編2

第2巻 第4編 箱館から近代都市函館へ

第9章 産業基盤の整備と漁業基地の確立

第3節 函館における明治期の漁業

1 漁業生産の推移と漁業組合の結成

 函館県は明治17年5月13日農商務卿の認可を得て漁業組合条例を発布し、同年7月1日より施行した。この布達では「捕獲物ヲ売買セズ単ニ遊漁ヲナスモノハ此条例ヲ遵守スルノ限リニアラズ」として、適用範囲は第1条にある「捕獲採藻ノ業ヲ営ムモノ」に限っている。そして、第4条において各組合は「申合規則ヲ定メ水産濫獲ノ弊害ヲ予防シ后来ノ改良ノ方案ヲ謀ルコトヲ勉ベシ」ことを掲げ、この組合条例が全国的な漁業統制が施されていない段階における漁場利用秩序の確立を求めていることがわかる。次に「漁業組合条例」を掲げる。
 
    漁業組合条例
第一条 本県管内ニ於テ捕漁採藻ノ業ヲ営ムモノハ都テ此条例ヲ遵守セシム
第二条 漁業組合ハ鮭漁鰊漁鰯漁烏賊鱈漁雑漁 一切ノ漁ヲ云フ 及採藻ノ各種ニ区分ス
第三条 組合ハ一町村又ハ数村聯合シテ一組トナシ総代及副総代ヲ公撰セシメ其区域ハ郡区長ノ指定スル処ニ従フベシ
第四条 毎一組ニ於テ申合規則ヲ定メ水産濫獲ノ弊害ヲ予防シ后来ノ改良ノ方案ヲ謀ルコトヲ勉ムヘシ
第五条 申合規則ハ毎組合ノ内本県在籍漁民ヲシテ草案セシメ正副総代連署郡区長ヲ経由シテ県庁ノ許可ヲ受クヘシ
       但他府県下ヨリ寄留出稼ノ漁民ハ県庁ノ許可シタル申合規則ニ対シ更正又ハ異議ヲ陳述スルヲ得ズ
第六条 漁業者ハ其漁業ヲナサント欲スル町村ノ組合ニ編入シ正副総代ニ就キ其事由ヲ陳ベ組合ニ編入シタル証トシテ甲号雛形ノ鑑札ヲ受ケ執業ノトキハ必ズ携帯スベシ
第七条 漁業者雇夫モ亦前条ニ同シク乙号雛形ノ鑑札ヲ受ケ携帯スベシ
第八条 正副総代ハ組合ニ係ル経費ヲ組合ヨリ徴収スルヲ得ルト雖トモ郡区長ノ認可ヲ経テ施行スルモノトス
第九条 正副総代ハ組合一切ノ庶務ニ従事シ水産上ノ事ニ付県庁ノ諮詢ニ答フベシ
第十条 正副総代ハ其組合ヨリ各漁収穫ノ報告ヲ受ケ漁期ノ末期ニ至リ之ヲ一貫シ置クヲ要ス、尤漁期中雇人逃亡漁網船具等ノ流失ニ罹リタル損害ヲモ調査スベシ
(明治十七年『函館県布達々全書』)        

 
 この条例に基づいて17年7月に区内に在籍する漁民により「函館区内漁業者申合規則」の認可が当時の時任県令に上申されている。この規則の内容は、漁法、漁期、体長、操業方法等の漁業制限と繁殖保護が主たるものであるが、北海道の特殊性として他県にはない新規漁業者の編入、本籍・寄留を問わない鑑札付与が許されている。このことは、この時期の漁業秩序の維持が地方政府に委ねられ、かつ漁業者の自主的統制団体の組織化に期待されているためであるが、内地におけるそれは従来からの既得権益の確保に傾いていたといわれる(青塚繁志「明治初期漁業布告法の研究-Ⅳ」『長崎大学水産学部研究報告』第19号)。
 翌18年9月函館区長は漁業者申合規則の改正を県令に申し出て12月17日付で認可されている。この改正の主な点は、規則の体裁を整えたことと、組合への新規加入と出稼者の取扱を取締への届出としたことである。この体裁の整備は、17年11月に公布された同業組合準則(農商務省令37号)の構成に準じたものであろう。また、区内居住者に加入義務を課し、違約者に対する処分法も加えられ、取締り的性格が明確化されたといえよう。「函館区内漁業者申合規約」は次の通りである。
 
      函館区内漁業者申合規約
   第一章 総則
第一条 当組合ハ函館区内ニ住居(本籍寄留ヲ問ハス)ノ漁業者ヲ以テ之ヲ組織ス、区内ヲ三部ニ分チ第一山背泊町方面第二住吉町方面第三鶴岡町方面トス
第二条 当組合ノ名称ハ函館区内漁業組合トス
第三条 当組合ノ目的ハ水産濫獲ノ弊害ヲ矯正シ殖産ヲ保護シ以テ同業者ノ幸福ヲ計ルニアリ
第四条 各組合全般ニ係ル事務ヲ整理スル為メ函館区山背泊町七拾六番地ニ事務所ヲ置キ函館区漁業第一組事務所ト称ス、同区住吉町百六拾三番地ニ事務所ヲ置キ函館区漁業第二組事務所ト称ス、同区鶴岡町四拾六番地ニ事務所ヲ置キ函館区漁業第三事務所ト称ス
第五条 当組合ノ費用ハ同業者一同ノ負担トシ其賦課収支ノ方法ハ組合定期ノ会議ノ決議ニ随フヘシ
第六条 正副取締ハ各部ニ正取締壱名副弐名ヲ置キ各部同業者六分以上ヲ以テ公撰ス、其任期ハ満四ヶ年トス、尤弐ヶ年毎ニ半数ヲ改撰ス、退任者再撰スルモ妨ケナシ
   第二章 役員権限
第七条 取締ノ権限ヲ定ムル左ノ如シ
    一 組合名簿ヲ管理スルコト
    一 新規加入者及退去者ニ関スルコト
    一 組合ニ係ル経費ヲ予算シ組合定期集会ノ決議ニ付スルコト、但其決議ハ其筋ノ認可ヲ経テ施行スヘシ
    一 違約者処分又ハ組合全体ノ事ニシテ至急決議ヲ要スル場合ニ於テハ臨時集会ヲ召集スルコト
    一 組合ノ決議ヲ施行スルコト
第八条 副取締ハ取締ヲ補助シ兼テ組合員ノ行為ヲ監督シ正取締不在ノ節ハ其代理ヲ為スヲ得
   第三章 加入者及退去
第九条 函館区内ニ住居シ漁業ヲ営モノハ凡テ此組合ラ入ルヘキモノトス、其新規加入ノ場合ニ於テハ取締ヘ届出ツヘシ
第拾条 廃業或ハ転業等ノ為メ其業ヲ止メ此組合ヲ退去セントスルトキハ其趣取締ヘ届出ツヘシ
第拾一条 日帰リ一時入稼(七日以内)又ハ追鰊等ノ場合ニ於テハ海面入合ヲ論ンゼス此規約ニ加入スルノ限ニアラス
   第四章 違約者処分法
第拾二条 違約者発見スルトキハ速ニ之ヲ取締若シクハ副取締ニ報告スヘシ、正副取締ハ其報告者ノ姓名ヲ他ニ洩スヘカラス
第拾三条 前条ノ報告アリタルトキ又ハ正副取締ニ於テ違約ノ所為ト認ムルトキハ之ヲ調査シ其所為確明ナルトキハ会議ニ付シ左ノ区別ニ従ヒ之ヲ処分ス
    一 組合中ヘ謝罪状ヲ指出スコト
    一 七日以内出漁ヲ禁スルコト
    一 弐拾日以内違約金ヲ指出サシムヘシ
    一 其筋ヘ申告ノコト
第拾四条 正副取締ト雖トモ違約ノ所為アルトキハ凡テ此処分法ヲ用フヘキモノトス
   第五章 営業上ノ統計方法
第拾五条 営業ノ統計ヲ設クル左ノ如シ
    一 壱ヵ年ヲ二期ニ分チ一月ヨリ六月マテハ七月三十一日限リ七月ヨリ十二月マテハ翌年一月三十一日限リ各自収穫シタル捕魚採藻種目ヲ分チ其金額及漁具等統計シ之ヲ取締ニ報告スルコト
第拾六条 取締ハ其報告ヲ編纂シ以テ営業上ノ参考ニ供シ又ハ県庁ノ諮詢ニ答フルノ材料トス
   第六章 会議
第拾七条 会議ヲ分チテ定期集会臨時集会ノ二トス
第拾八条 定期集会ハ一年二回(三月八月)之ヲ開キ其時日場所等ハ取締ニ於テ之ヲ指定スヘシ
第拾九条 定期集会ニ於テハ左ノ件々ヲ議定ス
    一 一期内(自一月至六月自七月至十二月)ニ係ル組合ノ経費予算及其収支方法
    一 前期会計ノ決算書ヲ取締ヨリ受ケ之ヲ調査スルコト
    一 前期間ノ新規加入者退去者ノ報告ヲ取締ヨリ受ケ之ヲ調査スルコト
    一 其他組合全体ニ係ル事務ヲ協議スルコト
第弐拾条 臨時集会ハ取締ノ召集アルトキ或ハ同業者三分ノ一以上ノ請求アルトキニ限リ之ヲ開キ該事件ニ就キ之ヲ決議ス
第廿一条 組合集会ハ同業半数以上ノ出席ニアラサレハ之ヲ開クコトヲ得ス、其決議ハ出席者半数以上ノ同意ニアラサレハ決議ノ効ナキモノトス
第廿二条 組合集会ノ議長ハ取締ヲ以テ之ニ充ツ
   第七章 規約
第廿三条 左ニ記載シタル項目確ク遵守致シ決テ違約致間敷事
    第一 各部同業者ハ総テ取締ヨリ鑑札ヲ受ケ執業ノ際携帯ノコト、但遺失流失等ノ節ハ更ニ鑑札ヲ可請、尤貸借ヲ禁スルコト
    第二 泥引網ト称スル引網確ク厳禁ノコト
    第三 潜水器及顔硝子或ハ身体水底ニ入シ又石起シ或ハ八尺ヲ以夜間鮑ヲ引捕シ其他新器具ニテ捕獲ヲ禁ス
    第四 是迄当地ニ於テ不相用器具ヲ以テ新ニ捕魚採藻セントスルモノハ使用以前取締ノ許可ヲ得ヘシ、但水産上妨害ト認ムルモノハ区長ノ指揮ヲ受クヘシ
    第五 水産保護ノ為メ鯖鰯除ノ外首尾四寸以下ノ魚類ヲ収穫シタルトキハ直チニ放ツヘシ
    第六 同業者ハ収穫物ヲ直チニ外国人ニ売渡スヲ得ス、若シ之ヲ売ラント欲セハ函館区仲買商ノ手ヲ経テ売ルヘシ
    第七 荷造改良ノ諭達ニ基キ充分施行スルコト
    第八 昆布取穫期限ハ夏土用入日ヨリ九月三十日迄トス、都テ若生ヒヲ採ルヲ禁ス
    第九 藻引手繰網外海ハ其土用三十日前ヨリ十一月三十日迄トス、但港内ハ夏土用ヨリ十一月三十日迄日没ヨリ日出マテヲ禁ス
    第拾 鱈収穫期節ハ冬至ヨリ二十日以前寒明キ迄トス、尤網揚ケ刻ハ夜明ケヲ合図トス、但暴風激浪ノ際ハ此限ニアラス
    第拾一 鰊指網収穫ノ期節ハ彼岸ヨリ入梅マテトス、鰊群来ノ節ハ同業者ヘ報和シ相互ヒ漁業ニ従事可致竊ニ独漁ヲ禁ス
    第拾弐 沖合ニ於テ甲乙ノ網混合取捌兼ル場合有之トキハ甲乙ノ網倶ニ引揚ケ決テ自己ノ網ノミ引揚ケ他ノ網切捨等致間敷コト
    第拾三 配縄使用方ハ燈明船以外ハ直線ニナシ総テ縄立ニ碇ヲ用ユルモノトス、尤沖合ニ於テ甲乙ノ配縄混合甲ノ縄主乙縄主ヘ通知スヘシ若シ乙縄主遅刻ノ節暴風激浪ニシテ不得止場合ハ切断不苦ト雖トモ切口ヘ浮標ヲ付シ放チ置クヘシ
    第拾四 沖鱈漁ノ節ハ鶴岡町方面夜十二時以后山背泊町及住吉町方面并ニ大森町ハ午前一時三十分以後縄釣漁ハ夜明ケヲ合図出漁ノコト
    第拾五 鰯引網ニテ取穫ノ節ハ該魚ノ群集ヲ認メ曩キニ網ノタチ(網両縄ノ端ニ付シタルモノ)ヲ海中ヘ投シ次第ニ網ヲ廻スヘシ、該網タチノ内ヘ他ノ網ヲ投スヘカラス
    第拾六 函館区港内外建網設置出願ノヶ所港内ハ若松海岸両町ノ沿岸港外ハ住吉町海岸ニ限ル其他ノヶ所ハ之ヲ禁スルコト
    第拾七 当区鰪澗町沖合ヨリ函館山背面字穴◎澗迄五月十日以前ハ引網ヲ禁スルコト
    第拾八 砲台以内澗鱈取穫網及縄使用方法ハ西方ヨリ南方ヘ向ケ使用致スヘクコト
    第拾九 漁業鑑札并ニ干塲鑑札所持スルト雖トモ其効力ハ壱ケ年限リトス、尚継続ノ営業者ハ翌年一月更ニ鑑札授受スヘキコト
    第弐拾 港内ニ於テ函館山大鼻岬ヨリ当別村燈台ヲ目的トシ線路疆内ヘ虫縄ヲ投入為スハ厳禁タルヘキコト
    第廿壱 同業者ニシテ他郷ヘ出漁為スモノ其組合ニ加入ハ勿論無謂加盟セサルカ或ハ規約ニ違フモノハ当組合ノ規約ニ則トリ相当ノ処分ヲ行フヘキコト
    第廿弐 出稼セント欲スルモノハ其取締ヘ届出ツヘシ、若シ無届或ハ出稼先ニ於テ当組合ノ名誉ヲ毀損シ又ハ営業上障害シ故ラニ喧嘩口論等ノ所為アルトキハ日帰リ一時出稼ヲ論セス出稼ヲ禁スルコトアルヘシ
    第廿三 組合ノ出費ヲ拒ミ或ハ期限ナク延滞スヘカラス
  右ノ通我組合漁業者一同協議決定セル上ハ后来屹度確守可致茲ニ記名調印シ以テ此規約ノ確実ナルモノヲ証スル者也
(明治十八年「漁業組合関係書類」道文蔵)

 
 明治19年5月5日漁業組合準則(農商務省令7号)が定められたが、北海道庁においては準則により先の「規約を更改せしむることは困難なるのみならず大に民心に影響する所あるを以て農商務省に具状し其既に旧例に拠り組合を団結せし者は其規約改正の期を待ち更に新例を施行せんことを請ひ同年10月その許可を得たり。因って北海道庁は同年11月24日庁令甲第13号布達を以て左の如き漁業組合準則(農商務省例第7号と同じ-引用者)を定めたが、同業組合準則、同業組合例則、昆布営業取締規則に基き既に組合を設け規約認可を得たる分は向後規約改正の際に至り此準則に基き更に組合を組織すべしとの例外を設けた…」(司法省『司法研究』第17号)。
 これにより函館の漁業組合も従来の「申合規則」の下で運営されることとなった。農商務省の調査によれば、明治25年6月30日現在の函館区の漁業組合は表9-43の通りである。
 
 表9-43 函館区内漁業組合
組 合 名 称
事務所の位置
区  域
組合員数
1か年経費
認 可

函館漁業第1組合
函館漁業第2組合
函館漁業第3組合

函館区山背泊
函館区住吉
函館区鶴岡

山背泊町外12か町
住吉町外14か町
鶴岡町外13か町

1,436
227
575

203.600
170.517
545.500

18.12
 〃
 〃

 『水産業諸組合要領』(明治26年刊・農商務省農務局編)より
 
 明治10年代における漁業の問題は、14年頃からのデフレによる漁村経済の窮迫と資源減少→品質低下→対支貿易不振→漁家経営困難→漁獲競争→漁場紛争という悪循環の下で漁場秩序と経営を如何に確立するかであった。明治24年、当時の農商務省大臣陸奥宗光は、全国的漁場統制を目的とした漁業立法の趣旨について提起している。しかし、旧慣に固執する網元等の漁業者と旧制度に恩恵を見出せない小規模漁業者の利害対立があったことと近代化をめぐる法体系の在り方をめぐる政府内における考え方の違いがあったことが、統一的な漁場統制制度の確立を困難にしていた。