函館市/函館市地域史料アーカイブ

函館市史 通説編2

第2巻 第4編 箱館から近代都市函館へ

第9章 産業基盤の整備と漁業基地の確立

第2節 諸工業の発展

1 函館船渠会社の成立

 さて、渋沢委員長の創立事務報告にならって、記述を明治28年以後に進めよう。
 28年4月に、日清戦役は終了し、諸事業拡張の機運が高まった。船渠築設の運動は進展するが、内務省より港湾改良事業(浚渫・埋立)はすべて函館区の負担とした方がよいとの注意があったので、港湾浚渫埋立費83万円のうち、不足金30万円は国庫補助を受ける請願をおこすこととなった。平田文右衛門が請願委員として上京している。かねて船渠築設は港湾改良事業と連動する方針であったから、8月26日には、船渠会社創立発起人平田文右衛門外5名より、区長へ「船渠予定地払下予約ノ件ニ付願書」が提出された。この願書はすでに前年3月の臨時区会で決議された「防波堤内ニ船渠予定地ヲ置キ、其一二、五〇三坪ヲ船渠会社結合ノ上ハ之ヲ売渡スモノトス」をふまえたもので、願書中には「本港改良工事着手ニ先立チ、当社ヲ創立シ……土切落成ノ上ハ直ニ会社ヘ御譲渡被成下度、今ヨリ御予約相成不申候テハ、会社設立ニモ差支候間……」の文言がみえる。8月30日には願書に対する許可の指令(函館区長命令書)がおりたが、次の内容となっている。
 
防波堤中、埋立地所、船渠会社へ売渡価格及方法等ハ埋立成工シ、船渠会社成立ノ上、協議決定スルモノトス……売渡地所ノ部分ニ属スル埋立工事ニ費シタル実費ニ依リ之ヲ定ムルモノトス

 
 船渠予定地売却の予約決定が成立したので、9月1日、32名が出席した発起人会が開催され、資本金80万円を以て会社創立の出願をすることになった。創立委員は、渡辺熊四郎、平田文右衛門、久保扶桑、遠藤吉平、伊藤一隆、和田惟一、小川為次郎の7名である。創立事務所を郵船会社函館支店内におき、発起申請書(創立趣意書を含む)は道庁を経由して、農商務省へ提出された。
 上述のように、港湾改良事業に国庫補助金30万円交付の請願がおこされていたが、一方、船渠会社でも40万円の国庫補助を請う方針をたて、「船渠会社創立ニ付、一時補助金御下付請願書」を9月中に、内務、海軍、逓信各大臣、ならびに道庁長官へ提出した。この補助金下付請願書の計画予算と前述した創立趣意書の計画予算を表9-15・16で示した。当然のことながら、資産の部の大船渠の有無が両者の差40万円を生み出しているが、両者が大船渠をどう考えていたかを明らかにしてみよう。
 まず、創立趣意書では、次のように述べられている。
 
 表9-15 創立趣意書資本使用内訳
諸工場倉庫敷地251,549.00資本金800,000
船架台及造船台   86,830.63(16,000株×@50円)
鉄工機械202,817.78
予備費   30,000.00
営業運転資金228,802.59
合 計800,000.00合 計800,000

 明治29年『函館船渠設置之沿革』より作成
表9-16 補助金下付請願書資本使用内訳

地所諸工場倉庫
船渠船架造船台
諸機械
運転資金
予備費

251,549.00
555,758.76
202,817.78
159,874.46
   30,000.00

資本金
補助金

800,000
400,000
合 計
1,200,000.00 合 計1,200,000

明治29年『函館船渠設置之沿革』より作成
 
今ヤ本港改良工事設計既ニ成リ、旧砲台近方海面ヲ埋メ、一大防波堤ヲ築設セントスルニ至レリ、此地タル海底頗ル堅牢ニシテ最モ船渠ニ適セリ、乃チ多年ノ計画ヲ実施スベキ好機会ヲ得タルヲ以テ、爰ニ船渠会社ヲ創設シ、船舶ノ製造修理ノ需要ニ応ゼントス、其資金ヲ概算スルニ別紙ノ如ク金一二〇万円ヲ要ス……此ノ如キ巨額ノ資金ヲ投ズルモ、遽ニ収支相償フニ至ル能ハズシテ、其損失頗ル大ナルベキハ固ヨリ瞭然タレバ、姑ク大船渠ヲ設ケズ、資金五〇万円ヲ目途トシ、単ニ修船台ノミヲ設置シ、之ニ適当スル機械工場ヲ整備シ、此事業ヲ開始セントス

 
 これによれば、上述した27年の広井技師の調査・設計に依拠した計画予算であることがわかる。
  ところが、補助金下付請願書では一転して大胆な構想となる。
 
然ルニ今此会社ヲ創設スルニ当リ只管収支ノ点ニノミ着目シ、其設計ヲ目下ノ需要ニ応ズル必要ノ部局ニ止メ、其船渠ノ如キモ僅ニ修船台ノミヲ設ケ、之ニ相当スル機械工場ヲ設置シ、以テ起業ニ着手センカ、其収支ノ点ニ於テハ恐ラクハ相当ルヲ得ベシト雖モ、退テ東京以北、北海道方面ニ於テ船渠ノ効用ヲシテ十分ニ全カラシメントスルニハ独リ此ノ如ク目下ノ会計ニ拘泥シ姑息ノ設計ニ安ンズルコト能ハズ、是ニ於テ其規模ヲ一層大ニシ、船渠ノ大サヲシテ大凡三千五百トン内外ノ船舶ヲ入ルルニ足ラシメ、之ニ付属スル機械工場等ハ一切之ニ適スル者トシテ其設計ヲ為シタルニ……資本金額一二〇万ヲ要スル計算ニ御座候、而シテ今日ノ場合、此ノ如キ巨額ノ資金ヲ投ジ此業ヲ起スモ、遽ニ相償フニ至ル能ハズシテ、其損失ノ頗ル大ナルベキハ固ヨリ瞭然ノ事ニ可有之、去リトテ之ヲ姑息ノ設計ニ止メン乎、私共国益ノ万一ヲ裨補スル為メ此業ヲ起スノ素志ニモトリ……資本金額一二〇万円ノ内、四〇万円ヲ一時本事業ニ対スル御補助トシテ御下付被成下度奉願候、左候ハバ固定資本ヲ減少スルノ故ヲ以テ、茲ニ始メテ計算上些少ノ利益ヲ見ルニ至ルベク……

 
 とあって補助金40万円の交付により、大船渠築造の素志が実現できることを訴えている。