函館市/函館市地域史料アーカイブ

函館市史 通説編2

第2巻 第4編 箱館から近代都市函館へ

第6章 内外貿易港としての成長と展開

第4節 貿易通商圏の拡大

2 日本昆布会社の設立

 昆布諮問会開催の翌22年、道庁は、諮問会の答申を受けて特約会社の設立に取り掛かった。当初は、既存の会社を対象に、三井物産会社と帝国水産会社を候補に上げていたが、最終的には新会社の設立に踏み切ることになった。
 新設会社設立準備のため上京した道庁の堀第2部長は、まず、東京滞在の鹿島と同行して田中平八の経営する田中銀行の協力をとりつけ、次いで田中銀行重役下村広敏とともに大阪に赴き、藤田伝三郎、金沢仁兵衛、田中市兵衛、松本重太郎らの豪商にも会社設立に対する援助を要請した。
 藤田らは、官が利益を保証することを前提に協力要請を承諾したが、新設会社に対する政府の助成(5パーセントの利子補給)が得られず、そのため、藤田らは新会社に対する出資を取り下げた。かくして、一時会社の創設が危ぶまれたが、田中平八、帝国水産会社、司法省官吏、華族らが出資に応ずることになり、新会社の発足をみるに至ったのである。
 新会社は、22年5月、社名を日本昆布会社(後に日本昆布株式会社)と称し、資本金50万円(1株50円)、本社を函館市末広町2番地(翌23年船場町2番地に移転)に置き、出張所を東京日本橋区阪本町に設け、後に三井物産上海支店内に出張所を置いている。同社の役員として、社長には官選の広田千秋、副社長には北村英一郎、取締役には、下村広敏、田中平八、鹿島万兵衛が選任された。
 同社の定款によれば、営業目的は「北海道昆布生産者連合組合ト特約ヲ結ビ其約款ニ依リ代金前貸ヲ為シ生産品ヲ一手ニ買受ケ之ヲ海外ニ輸出スル」こととされ、買取輸出販売を原則にしているが、場合によっては委託取引、国内販売も行い得るものとしている。又業務内容には、先の昆布の直輸出のほか、連合地区外の昆布と、鯣、鮑、煎海鼠、干鱈、刻昆布などの清国向け海産物の売買、及び刻昆布の製造、さらには自社船による貨物の輸送があげられている。
 一方、昆布生産者側においても、特約会社の設立に並行して連合組合の組織化が進められたが、先の昆布諮問会答申の線に沿い、道庁の指導の下にまず各産地ごとに組合がつくられ、次いで22年5月、道庁は各生産地の代表を札幌に招集して「昆布相談会」を開催した。会議の目的は、連合組合の規約と昆布会社との契約内容を決めることにあり、会議には道庁側から長官をはじめ、湯地第2部長(堀の後任)ら関係吏員が出席し、道庁側の並々ならぬ肩入れが目を引くが、会社側からは、広田社長と下村、鹿島の両取締役が列席している。
 連合組合の総長には、昆布会社の設立や組合の結成に奔走した堀基が就任することになり、その就任演説のなかで、堀は、連合組合の事業を軌道に乗せるためには生産者の一致協力が不可欠であることを強調して次のように述べている。
 
昆布会社の設立せしは専ら生産者の複利を進め其価格を挽回せんとするに外ならず故に生産者の団結鞏固ならざれば会社の業務を隆盛ならしむる能わず。会社の業務発達せざればせざればの衰頽に陥るを免かれず。要するに会社と連合組合とは利害得失互に相関係し彼是共に其利を壟断する能わず。然れども利を見て飽を知らざるは常人の情に於て免れざる処昆布会社開業の後価格を挽回するは勿論なりと確信するも価格愈上るときは生産者の欲情亦愈熾に分外の奇利を得んとし相場を協議決定するの際会社に対し不満の念を抱き遂に軋轢を生じ又粗製濫造信用を需要者に失い荷物を外の商買に販売し或は会社貸付金弁償の義務を怠り連合の規約を破るのに至るの恐れなしとせず…
(『日本昆布大観』)

 
 つまり、昆布会社と連合組合は、一手販売の実を上げるという点で両者の利害は一致するものの、売手と買手という利害相反する関係にあり、さらにアウトサイダーとなる函館商人の取引への介入による撹乱を予想して、生産者の自重を求めたのである。
 相談会では昆布営業組合連合の設立が決まり、連合組合には上磯組、室蘭幌別組、沙流新冠組、静内組、三石組、浦河組、様似組、幌泉組、広尾組、釧路組、厚岸組、浜中組、落石昆布盛組、根室花咲組、国後組の14組合が加入し、連合組合事務所は札幌に置かれることになった。
 採択された連合組合規約によれば、連合組合の生産した昆布は総て日本昆布会社に販売すること、販売価格は毎年4月道庁官吏の立会の下に、函館において各組合の頭取、あるいは総代と日本昆布会社社長、主任、重役らが協議決定し、協議不成立の際は日本昆布会社の委託し清国に直接輸出することなどが決められている。
 又連合組合と日本昆布会社との契約内容を盛り込んだ「契約要領」とその細則が調印されたが、その主な事項には次のようなものがある。
 
1.連合組合の生産する昆布は総て日本昆布会社に販売すること。
2.昆布の価格は毎年4月、函館において道庁官吏立会の下に協議決定するものとし、価格は各組合毎に種類により決めること。
3.価格協議不成立の場合は日本昆布会社に販売を委託すること。但し前借金のないもので収穫高が上・中昆布で500石以上のものはその超過分の委託販売を認める。
4.昆布価格決定後、会社側は算出予定額の6割以内の金額を生産者に前貸しすること。前貸金の金利は年1割2分とすること。
5.前貸金は各組合毎に前借人が返済の義務を果たすべき証書(組合頭取が証明した)を会社側に提出すること。

 
 こうして連合組合の一元集荷と日本昆布会社の清国向け直輸出による昆布の一手販売が開始されるが、これによって日本昆布会社は、従来函館の海産物商が、昆布の流通過程においてもっていた仕込み資本としての機能を一手に掌握して、清国商人の流通支配に対抗することになるのである。