函館市/函館市地域史料アーカイブ

函館市史 通説編2

第2巻 第4編 箱館から近代都市函館へ

第3章 北海道庁設立と自治制への歩み

第2節 自治制への歩み

2 自治区制の実施

 明治30年5月29日勅令158号「北海道区制」、同159号「北海道一級町村制」、同160号「北海道二級町村制」が公布された。全文105条の区制の構成は、第1章総則で、区及び区域、住民とその権利・義務、条例・規則の制定、第2章区行政で、区長以下の吏員の組織と選任、職務権限・給料、第3章区会で、区会の組織・選挙・職務権限・処務規則、第4章区の財政で、区有財産・区債・歳入出予算・決算、第5章区内の一部の行政、第6章区行政の監督、第7章附則というもので、1・2級町村制も区制とほとんど同じ構成であった。
 しかし、公布された勅令はただちに施行されず、区制は明治21年に公布施行された府県の市制に近づいた条文に改正され、明治32年10月1日、内務省令第46号によって函館、札幌、小樽の3都市に施行され、1級町村制も大改正され、33年に、2級町村制は全文改正され、35年に施行されたのである。区制と市制の章款の構成は表3-9の通りである。市制との相違点に留意しながら、区制の内容を概観してみよう。
 
 表3-9 「北海道区制」及び「市制」の章款の構成
章款の名称
章款の名称
〈北海道区制〉 1899年施行 〈市制〉 1888年施行
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74~92
93~98
99~100

101~110
111~118
総則
 区及其ノ区域
 区住民及其ノ権利義務
 区条例及区規則
区行政
 区吏員ノ組織及選任
 区吏員ノ職務権限
 給料及給与
区会
 組織及選挙

 職務権限及処務規程


区ノ財務
 区有財産及区税
 区ノ歳入出予算及決算
区内ノー部ノ行政

区行政ノ監督
附則
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30~48


49~63

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75~80

81~106
107~112
113~114

115~125
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総則
 市及其区域
 市住民及其権利義務
 市条例
市会
 組織及選挙
 職務権限及処務規程

市行政
 市参事会及市吏員ノ組
 織及選任
 市参事会及市吏員ノ職
 務権限及処務規程
 給料及給与
市有財産ノ管理
 市有財産及市税
 市ノ歳入出予算及決算
特別ノ財産ヲ有スル市区
ノ行政
市行政ノ監督
附則

 鈴江英一「「北海道区制」小論-「市制」各条項との比較-」『地域史研究はこだて』第12号より
 
 区制では、「区ハ郡ノ区域ニ属セス(中略)区ハ法人トシ法律命令ヲ以テ定メタル範囲内ニ於ケル公共事務並従来法律命令若クハ慣例ニ依リ又ハ将来法律命令ニ依リ区ニ属スル事務ハ官ノ監督ヲ受ケテ之ヲ処理スルモノトス」(第2条)と、区の法人格と、その事務範囲が示され、北海道庁長官に監督権が定められている。道庁長官の権限は、郡区の境界変更に伴う財産処分をなすときは、関係の区会・町村会の意見を聞き、道庁長官が処分するといった条文(第3条)にも見られる。公民は3年以上住居し、地租年額50銭以上・直接国税年額2円50銭以上・耕地宅地3町歩以上のいずれかに該当する者とされ(第5条)、土地所有の不安定な北海道の状況への対応と有産者を自治の担い手とする政府の意図が貫徹している。また、区制では名誉職の就任義務規定・拒辞制裁規定が緩和されている(第5条)。
 区制の第2章区行政では区の執行機関の構成、区長などの任期及び任命方法、その他の吏員の任用、臨時・常設の委員の選任と権限・処務規程、報酬等が規定されている。区長、助役・収入役の任期6年で、区長は区会の推薦者3名を上奏裁可によって任命され、助役、収入役は区会が選挙し、道庁長官により認可される。区長は区会の議決を承認する事項を持ち、また区会の議決に対し、区長自身の意見または監督官庁の司令により再議に付す権限が与えられ、区会が召集に応じなかったり、不成立、また議決すべき事項を議決しなかった場合は、道庁長官の指揮を請いこれを処分することが出来ることなど、区会の議長でもある区長の広範な権限が認められている。区長の権限が強いことに対照しているのが、市制で設けられている参事会が欠如していることである。参事会とは、市長・助役・名誉職参事会員(東京・京都・大阪以外は6名)によって構成される合議制の執行機関である。
 第3章は区会である。先の表に見られるように市制では市会は第2章である。これは区制における区会の地位を象徴している。区会議員の定員は、人口5万未満は24人以下、5万以上は30人以下、従って明治32年時の函館の人口、約8万9000で、議員は30人、3級の等級選挙制で選出される。これは選挙人を分けて3級とし、選挙人のうち直接区税の納額が最も多い者を合わせて選挙人総員の納める総額の3分の1に当たる者を1級、1級選挙人を除く外直接区税の納額が最も多い者を合わせて選挙人総員の総額の3分の1に当たる者を2級、残りを3級とし、各級選挙人は議員定数の3分の1ずつを下級から順に選挙し、どの級に属する被選挙人でも選挙してさしつかえないものである。議員の任期は6年で3年毎の半数改選制であった。また、「直接区税ヲ納ムル者其ノ額区公民ノ最多ク直接区税ヲ納ムル三名中ノ一名ヨリ多キトキ」(第39条)など、区の住民でなくても多額納税者であれば選挙権が行使できた。区会の権限は、「一、区条例及区規則ヲ設定スル事 二、区費ヲ以テ支弁スキへ事業但シ国ノ行政事務ニ属スルモノハ此ノ限ニ在ラス 三、歳入出予算ヲ定ムル事 四、法律命令ニ定ムルモノヲ除ク外使用料加入金手数料区税及夫役現品ノ賦課徴収ノ法ヲ定ムル事 五、区有不動産ニ関スル権限ノ得喪ヲ目的トスル行為ヲ為ス事 六、基本財産及積立金穀等ノ処分ヲ為ス事 七、歳入出予算ヲ以テ定ムルモノヲ除ク外新ニ義務ノ負担ヲ為シ及権利ノ棄却ヲ為ス事 八、区有財産及区ノ営造物管理方法ヲ定ムル事 九、区吏員ノ身元保証ヲ徴シ並其ノ額ヲ定ムル事 一〇、区ニ係ル訴訟及和解ニ関スル事 其他区会ノ職権ハ法律命令ノ定ムル所ニ依ル」(第59条)であるが、区長との関連で前述した通り、区会の権限は狭小であった。また区行政に対する第1次監督官庁たる道庁の処分・裁決に対して不服であっても区制に明記された以外の一般的な事件の場合には訴願を許す規定を欠いていた。
 区の財政については区制の第4章で規定され、基本財産、財産の管理方法、収入の種類、納税義務者、賦課徴収方法、起債、歳入出予算の調整・執行、決算について定められている。市制との比較でいえば、区制の特徴として、「北海道庁長官ハ区ノ経済ノ状況ニ依リ必要ト認ムルトキハ額ヲ定メテ基本財産ヲ蓄積セシムルコトヲ得」(第74条)と、道庁長官の蓄積命令権を留保し、「区ハ区規則ノ規定ニ依リ或ル事業ノ為ニ特別ノ基本財産若クハ積立金穀ヲ設クルコトヲ得」(同条)として、特別基本財産、積立金穀の設定が明定されていること、「区有財産ハ其ノ収益ヲ以テ区ノ収入ト為スカ為ニ管理スルモノトス」(第75条)と、区有財産の収益性を明示していること、「区ハ債券ヲ発行セサルヲ常例トス」(第92条)と区債の不発行が原則とされた、市制では条例によって定められる区有財産の共用及びこれにかかる使用料・加入金、その他の使用料・手数料の賦課徴収が、区制では規則に依るとされていること等が指摘されている。第5章は区内の一部の行政で、主として部落有財産の処置について規定されている。
 区制の第6章は区行政の監督、第7章は附則である。第6章では、監督官庁とその処分権限、監視、議会解散、各監督官庁の許可分担、懲戒処分について規定し、附則では施行期日などを定めている。第6章でも、区制では、参事会を欠いていたため、懲戒処分権限、支出削減の権限の留保など、道庁長官の権限が強いこと、区会停会命令権が許可権限中、内務・大蔵両大臣の権限から道庁長官へ移している事項があること等、市制との相違が検出されている。
 以上、紹介してきた区制の特色は、以下の諸点にまとめられている。監督官庁の権限の強化、執行機関である区長の権限強化、区会の権限の制約、区財政、特に歳入面での強化、訴願、訴訟の制限、公民要件の制限的設定と名誉職就任拒辞要件の緩和、沖縄県区制との共通性、区制の構成が一部分を除き、1級町村制と共通している点である。総じて区制は、市制以上に議決機関の権限を制約し、執行機関の権限を保証し、かつ監督官庁の監督・規制を強化したものである。しかし、北海道の区制、あるいは1・2級町村制の法令内容や統治的意図は、基本的には明治21年に施行された府県の市制、町村制と同じであり、全国的な地方自治制度の枠内の一変型といえるものであった。