函館市/函館市地域史料アーカイブ

函館市史 通説編2

第2巻 第4編 箱館から近代都市函館へ

第2章 開拓使の設置と函館の町政

第4節 函館区会開設

3 第1回通常区会

 しかし、第7日目の4月23日冒頭、石田啓蔵、工藤弥兵衛、牧田藤五郎の3名は、第1号議案について次のような建議書を提出した。
 
夫レ法律ハ大小トナク之ヲ犯ス者ハ其意ノ善悪ヲ問ハズ悉ク之ヲ免ス可ラズ、……番外ノ説明ト郡区経費総計額ヲ一目セバ各郡ノ経費ヲ補ヘルヤ粲然トシテ明也、然バ是レ此一号議案ハ当区会議員ノ討議ス可キ権内ニアラザル也、何トナレバ此一号議案ハ区内経費徴収方法ニ止ルベキニ、区内経費ノ外他郡ノ補助金ヲ合スル割賦方法ナレバ、此議案ヤ取リモ直サズ区内経費ト他郡経費ノ補助ト二ツヲ兼有スル徴収割賦方法也、夫レ区会議員ハ区内ノ事ノミ議ス可キ者也、故ニ此議案ハ区会議員ノ干与スル能サル処也、若シ強テ之ヲ議サバ議員ノ権ヲ越ユルノミナラズ法律乃チ十三年太政官第十八号第一条、本年当庁第二号第一条ニ背ケリ、……一昨々年、一昨年両度ノ大災後市民ハ非常ノ疲弊ヲ極メ、加ルニ物価騰貴ニ際シ未ダ其居宅ヲ建築セザル者、十ニ八、九ニ居レリ、今此疲弊極ル処ノ人民ニ向テ、其人民ノ為ニ消費セシ処ノ金員ノミナラズ、他郡ノ経費モ亦之ヲ償フ可シト云ハバ、飢者ニ向テ他人ニ食ヲ与ヘト云フニ異ラズ、……郡区経済ノ予算ヲ合併スルヲ以テ、此ノ不都合ナル予算ヲ出生セシナラン、依テ郡区分離ヲ地方官ニ上申シ、其至当ノ予算ニ就テ其徴収方法タル一号議案ヲ討議セラレンコトヲ建議ス(工藤弥兵衛朗読)
(明治十四年「区会議事録」『函館区会資料』)

 
 この郡区の経費を分離した上で戸数割税乗率規則の審議に入りたいとする建議は、当日の出席議員17名の内、井口兵右衛門を除く全員の起立で採決され、石田啓蔵、安浪次郎吉、工藤弥兵衛、米谷権右衛門、枚田五郎の5名が文案委員に指名された。残りの時間は5号議案の第1次会を行った。
 第8日目の5月2日、先の建議書をもとに作成された議長名の建議書案が提案され、出席議員18名中13名の賛成で議決され、翌3日「郡区ノ経費ヲ分離シ、当区内ヲ限リ其経費予算ノ徴収方法ヲ当議場ニ於テ議決イタシ度」と、函館支庁へ建議書を提出した。区会開設出願を受理した時から函館支庁が懸念していた事態となったのである。
 函館支庁は、まず杉浦嘉七議長ほか数名の議員を呼出し、函館市民の税負担の現況調査の提出を要求、堪えがたい負担額になっているのであれば考えると伝えた。議長は、13年の市民の税負担の実情と、14年度の試算表に、「(市民の負担税額は)負担ノ重キニ帰スルモ、是ヲ軽キトハ見做シガタク、就中中等以下ニ至リテハ実ニ容易ニ有之間敷ト想像仕候、其他来年度ハ学校新築等不可遁負担額モ続々有之」との副申書として提出した。
 建議書と副申書を検討した函館支庁は、次のような判断を示した。
 
第一号議案ハ、全管内地方税ノ中特ニ郡区役所ノ経費ニ充ツベキモノノ中、函館区内割賦金ノ中ニ付貧富等ヲ立ル丈ケノ方法ヲ任議セシムルマデナリ、……戸数割税ノ如キ各郡区ノ戸数ニ異同アリ、家ニ貧富ノ別アルヲ以テ平均ニ割賦セバ、其苦情如何斗リナルヤモ知ルベカラズ、故ニ是等ノ苦情ナカラシメン為メ、貧富ノ差ニ依リ其割賦方ノ等級丈ケヲ議サシムルモノナリ、……過去ノ火災ニ付テハ、他ニ無類ナリ保護ヲモ与ヘラレシノミナラズ、区内飢餓ニ迫ル者アルヲ聞カズ、殊ニ貧富ノ差等ヲ立テシムル以上ハ、決シテ飢者ニ食ヲ与ヘヨト云フト同ジカラズ、其物価ノ騰貴ハ独リ当港ノミニ止ラズ、故ニ官ノ保護補給ヲ仰ガズシテ学校、病院、監獄、警察ノ事等一切地方税ニテ支弁スルノ時ニ至リ候ハバ、分離論モ止ムヲ得ズ義ナレド、是等ノ事ヲ充分ニ支弁スルコト能ハザルニ分離論ヲナスハ尚早ト云フベシ、殊ニ区会ニ於テ地方税ノ事ニ付、彼是申立ルハ法ノ容サザル所ナリ、郡ヨリ繁華ナル区ヨリ、他ノ寥々タル郡村ヲ補フハ勢ニシテ、則チ他府県トテモ同一ノ事ナリ、又是迄迚モ当地ノ管内他郡ニ比シテ、万事特別ノ恩恵保護アルニモ着目セズ、強テ彼是申出ハ勝手ナル説ト言フベシ
(「桜庭為四郎文書」)

 
 開拓使恩恵論に色どられたこの判断は、必ずしも正論とはいいがたいが、地方税の内容を区会で討議できないとする考え方には抗し難く、区会の限界を認議させられた区会議員一同は、建議書の却下を願い出、直ちに下付された。
 この件に関しては、翌15年函館県誕生後の最初の区会で区会規則の改定が審議され、第1章総則第1条は、次のように改定された。「并」以下が改定増補部分である。
 
区会ハ十三年四月十八号公布ノ通、其区内公共ニ関スル事件及其経費ノ支出予算徴収方法并ニ県庁ヨリ其区内ニ割付タル戸数割税ヲ徴収スル為メ各部出金ノ額ヲ議定ス
(明治十五年「区会議事録」)

 
 以後区議会は一層遅滞し、第1号議案の審議は、第19日目の7月9日ようやく第1次会(諮問会)、第2次会(逐条審議会)、第3次会(議決会)が開かれ、若干の修正(「家屋」の1階2階3階の比率を、1対0.5対0.3に改める)ののち議決された。