第八編 転換期の札幌
第五章 農業の再編成と工業化の進展
第一節 農業
一 農政の展開と札幌の農業
第一次世界大戦以来の商業的農業の発展によって、農家は商品経済に深く巻き込まれ、農業恐慌や凶作を経過する過程で農民層の分解が進行し、中農層が形成された。独占資本段階の厳しい経済的諸条件の下で、生産者自身の協同組合を作る必要に迫られたこと、また政府が小農保護政策を強力に推進したことなどにより、一定の均質な小商品生産者である中農層を中心に産業組合の設立が推進された。とりわけ、産業組合拡充計画と農村経済更生計画は表裏一体の関係で推進されるとともに、四種兼営の産業組合が各町村に設立され、産業組合系統組織の拡充が図られ、農業倉庫の利用が急増した(北海道農業発達史 下)。以下に、札幌地域における産業組合史(農協史)や地域史(町村史)に拠りつつ産業組合の動向をみていくが、産業組合系統組織(北聨)の拡充などにはほとんどふれることができなかった。表9にあげた連合会史等を参照されたい。
表10は、札幌地域における産業組合一覧表である。まず、組合数、兼営形態、責任組織の推移をみると、大正八年には組合数一六、その内訳は単営四(販単、信単各二)、二種兼営六、三種兼営六、四種兼営〇であり、無限責任一〇、有限責任六、保証責任〇であった。昭和八年には組合数一七、その内訳は単営一(販単一)、二種兼営四、三種兼営七、四種兼営五であり、無限責任五、有限責任四、保証責任八であった。昭和十八年には組合数六、その内訳は全て四種兼営であり、無限責任一、保証責任五であった。これらをみても、産業組合法の改正とそれに続く産業組合拡充計画、農村経済更生運動が、①一町村一組合とすること(全戸加入を実現すること)、②信用購買販売利用の四種事業を兼営すること、③農村産業組合の有限責任制を認めず、保証責任または無限責任と限るとしたこと(産業組合並ニ農山漁村経済更生計画指導計画督励根本方針 昭8・6)など、札幌地域における産業組合のあり方を大きく変えたことは明らかである。
札幌村においては、(有)札幌農大第三農場員信用販売購買組合(設立年月は省略、事業区域は字中通から烈々布の一部、以下同じ)、(有)札幌村第一信販購組合(字苗穂村から字雁来村)、(有)丘珠信販購組合(字元村から字丘珠村の一部)、(有)札幌村烈々布信販購組合(字烈々布の一部から字丘珠村の一部)の四組合を合併して、昭和十年十月(保)札幌村信用販売購買利用組合を設立した。北海道庁長官佐上信一に宛てた「設立認可申請書」の一部を以下に引用する。 本村ニハ(中略)四個ノ小組合分立シ、爾来各自消極的ニ組合事業ヲ経営シ来リシモ今ヤ農村経済ノ窮迫ハ実ニ言語ニ絶シ、本村ノ前途真ニ多事多難ナル時ニ際シ之ヲ克服スルノ途尠カラスト雖モ自主的経済機関タル産業組合ノ活動ニ之クモノナキヲ信シ、此ノ際本村ノ一円ヲ区域トシ信用販売購買利用ノ四種事業ヲ兼営スル保証責任ノ産業組合ヲ組織シ事業ノ普遍化並ニ組合運動ノ拡充強化ヲ図リ以テ村民ノ経済ノ確立ト民心ノ統制トニ力ヲ尽シ社会事業団体或ハ教化団体等ト連絡提携シ本村ノ更生発展ヲ促進セントスル所以ナリ。 (北札幌農業協同組合史 昭54) 篠路村においては、(無)篠路村烈々布購買組合(烈々布)、(有)篠路村学田購販組合(学田)、(有)篠路農場購販組合(横新道、興産社、大野地、釜谷臼、すなわち拓北農場一円)の三組合を合併して、昭和八年十月(保)篠路村信用販売購買利用組合を設立した(篠路農協三十年史)。 琴似村においては、明治四十五年七月に設立された(無)琴似購販組合が、大正十年から肥料、筵(むしろ)、石炭の取扱(購買事業)をはじめ、大正十二年に信用部門を設けることにし、同年には定款を変更して信用、利用事業を追加し、ここに信購販利の四種兼営組合へと脱皮した(琴似町農協史 昭43、〔新琴似〕農協三十年史 昭43)。 手稲村においては、(無)軽川購販組合(大13・4解散)、(無)上手稲信購販組合(昭8・10解散)、(有)軽川酪農信購販組合(昭8以降の動向は不詳)があり、これらとの関連は不明であるが、昭和九年十月、(保)手稲信用購買販売利用組合が設立された(表10参照)。 豊平町においては、(有)簾舞農大第四農場員信購組合(簾舞農大第四農場内)、(無)簾舞信用組合(簾舞字盤ノ沢)、(無)砥山信用組合(砥山)、(無)平岸信用購買組合(平岸村字東裏、本村、下本村)、(有)丸重吾沢信用組合(平岸村字丸重吾沢)の六組合が、昭和七年六月にそれぞれ解散して、事実上簾舞信用組合に統合された。その後(有)厚別信購組合(月寒村字厚別北通、南通、本通、公有地、三滝ノ沢、三里塚)、(保)月寒信購販利組合(豊平村、月寒本通、西北通、東北通、下西山、上西山、西通、二里塚。のち、平岸村字東裏、中ノ島、真駒内、上本村、下本村、精進川、器械場を追加変更)が設立されたが、これら三組合を合併して、昭和十六年四月(保)豊平町信用購買販売利用組合が設立された(豊平東部農業協同組合三十年史 昭55)。 白石村においては、(無)白石北郷購販組合(北郷、中央)、(有)白石村信購販組合(白石村一円)、(保)白石東部信購組合(厚別)の三組合を合併して、昭和十三年二月(保)白石信用購買販売利用組合が設立された(白石村誌 昭15、白石発展百年史 昭45)。ここに昭和十八年九月、農業団体統合直前の六組合の概況を表11に示す。
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