札幌市中央図書館/新札幌市史デジタルアーカイブ

新札幌市史 第4巻 通史4

第八編 転換期の札幌

第二章 市制施行と行財政

第一節 市制への経緯

二 自治権拡張論

 大正五年(一九一六)、元旦の新聞紙上に札幌区長阿部宇之八は「本道政治の中心たる札幌区の新発展策」を執筆し、北海道における札幌区政の重要性を論じた。それは〈道都〉としての位置を確かにした自信の上に、今後さらに解決しなければならない課題の多いことを、区民に訴えようとしたものである。
 この年、札幌区の自治と北海道庁施政の関わり方の問題が二つ、北海道会において表面化した。その一つは薄野遊廓の移転問題である。「官ノ保護ニヨリ設定」(道会建議案)された遊廓は、開設時に街のはずれだったものが戸口の増加とともに周囲は市街化し、移設を願う声が大きくなった(市史 第三巻一二一頁、五七八頁)。しかし、札幌区の一存で移転できるものでなく、道庁の主体的な施策が不可欠であった。
 札幌区会の度々の移転要望に対し、道庁は明確な方針を示さなかった。その理由の一つに、区の要望は区会の議決によったのではなく、区会議員の協議会の意見に過ぎないとして、これを取り上げようとしない(北海道会議事速記録 第一六回通常会)。そこで「遊廓移転ニ関スル建議」案を、大正五年二月二日の札幌区会で修正可決し、道庁に再度の要望書を提出したのである(札幌区会会議録 大5 第一回)。その中で遊廓移転を、諸事情を考慮して大正十二年までに実現してほしいと記述したが、真意は一年でも早く、可能ならば大正七年開催予定の博覧会前を望んでいると、区会の意見を開陳した。しかし、道庁は札幌区が十二年の移設を希望していると説明し、さらに区会の「建議ハ余程之ヲ大切ニ尊重シテ見ルベキモノデアル」(北海道会議事速記録 調査委員会第二号)と念を押すありさまだった。
 道庁行政に協力を惜しまなかった道会議員村田不二三でさえ、「遊廓ノ移転ト云フコトハ、道庁ノ決スベキ本能ノ権利デアリマス。区会ハ地元ノ関係上、其ノ意見ヲ当該官庁ニ致スニ外ナラヌモノト考ヘマス。故ニ道庁ハ区会ノ建議ノミヲ楯ニ取ラズシテ、自己ノ立場カラ致シテ自己ノ御意見ガ有ッテ然ルベキデハアルマイカ」(同前)と、道庁の消極的な態度を嘆いたのである。結果として、翌六年十二月に至って道庁は遊廓移転の方針を告示し、九年に実現したが、札幌区の自治と道庁権限の間に深い溝のあることが明らかになったといえよう。