第七編 近代都市札幌の形成
第一〇章 宗教活動の社会的展開
第二節 寺院と「市民仏教」の展開
一 寺院・仏教と地域社会
明治四十二年に調査された札幌区区勢調査から区民の宗旨をうかがうと、総数五万六三四九人のうち仏教徒が五万九六三人、神教徒が三一九三人、基督教徒が一七七四人となっており、区民の約九割が仏教徒であった。その中から宗派別の信徒数をみると、表4のとおり浄土真宗が五〇・五パーセント、次に曹洞宗が二五・六パーセント、浄土宗が九・八パーセント、日蓮宗が八・八パーセントとなっている。この数値から判明するように、浄土真宗は五割に達しており、実に区民二人に一人が〝門徒〟といわれる同宗の信者であったのである。いかに浄土真宗が札幌で強い勢力をもっていたかを如実にあらわしている数値である。後述の農場小作戸の状況とあわせ、札幌は〝門徒王国〟であったといえよう。
札幌がこのように〝門徒王国〟となっていたのは、浄土真宗が早い時期から北海道の布教に着手し、その後も組織的な布教活動を展開したこともあるが、何よりも区民の出身地と大きな関係がある。すなわち、札幌区区勢調査によって札幌区の来住者を出生府県別にみると、上位は新潟、富山、福井、石川の各県の順になっており、門徒勢力の強い北陸地方が上位を独占している。このことが札幌区での宗派別信徒数の割合にも反映され、〝門徒王国〟の現出となっていたとみられるのである。 そのことを再び札幌区区勢調査からうかがってみよう。表5は出生府県別に宗旨の宗派割合を算出したものである。これによれば、先の上位県はいずれも浄土真宗の割合が五〇パーセントを越えており、特に「北陸門徒」といわれる富山、福井、石川県の場合は八〇パーセント以上に及んでいる。また表5からは東北諸県では浄土真宗が二〇パーセント台に留まっており、逆に禅宗の割合が高く四〇~五〇パーセント台となっているほどである。札幌区は浄土真宗の次に曹洞宗が大きな割合を占めていたが、曹洞宗を支えていたのは東北地方の出身者であったといえるであろう。
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