札幌市中央図書館/新札幌市史デジタルアーカイブ

新札幌市史 第3巻 通史3

第七編 近代都市札幌の形成

第七章 社会生活の変貌

第二節 職業の安定と貧困問題

一 生活難と民衆

 大正十一年二月、札幌区は北海道庁社会課の社会事業施設参考資料調査の委託を受けて、はじめて「細民調査」を実施した。調査項目は二八項目にもおよぶきわめて詳細なものである。これらをすべて紹介することは不可能であるが、以下『札幌区細民調査統計表』より細民の①区内分布と人員、②貧困に陥った原因、③職業別人口、④収入状況、⑤食料状況、⑥住宅状況、⑦健康状況にしぼって実態を述べる。
 ①区内分布と人口――区内の細民の居住地は五カ所である。豊平町七〇戸、南四条東四丁目三戸、南一条東六丁目一一戸、苗穂町五戸、その他三戸の計九二戸である。これらの人口は男女合計二七五人(男一五六人、女一一九人)で、一五歳以下が三四パーセントともっとも多く、次に三〇歳~五〇歳が三三パーセント、五〇歳以上が二四パーセントという具合に老年層と若年層の多さが目立つ。しかも、労働不可能な者が労働可能な者の一・八倍にも達するといった実態は、貧困者を多く出す原因ともなっていた。
 ②貧困に陥った原因――表4に示したように、九二戸のうち、理由なしがもっとも多く、次に、家族多病、飲酒、廃疾または虚弱といった順であった。ことに女世帯では廃疾又は虚弱、老衰、飲酒、配偶者の放蕩、配偶者に死別または生別といった理由が同数をしめていたので、どれをとっても悲惨としかいいようがなかった。また、原因のうち「怠惰」「放蕩」といった類は、当局者の多くが細民に抱く先入観ゆえに入ったもので、細民の多くが経済発展の急激な強行に基づいた必然の犠牲者である点は、一体どれだけの人が気付いていただろうか。
表-4 貧困に陥った原因
原 因
事業の失敗
失業
転業
業務上負傷
廃疾又は虚弱
老衰
怠惰及無教育
放蕩
飲酒
家族多いため
家族多病
理由なし
農業不作
配偶者放蕩
養子火傷
配偶者に死別
又は生別
 6戸
1
8
5
7
3
5
3
8
2
11
13
6




  戸



2
2
1

2


2

2
1

2
 6戸
1
8
5
9
5
6
3
10
2
11
15
6
2
1

2
合計781492
札幌区細民調査統計表』(大11)より

 ③職業別人口──二七五人のうち男女別職業を表5に掲げた。これでみても、もっとも多いのが屑拾いの四三人、次いで多いのが葬式人夫二五人、除雪人夫一八人といった状況に驚かざるを得ない。さらに、無職者が一三五人と、四九パーセントをしめている実態は、細民街の置かれている状況を端的に示しているし、彼らは、生活しえない極限状況に直面していた。
表-5 職業別人口
職業
農業夫
絹糸に関する職工
靴工
窯業に関する職工
洋服裁縫工
桶職
縄ない
竹割
鳶職
駄菓子行商
草鞋行商
屑拾
空俵買
除雪人夫
葬式人夫
夜警夫
町内小使
薪割
馬車
砂利堀夫
車夫
井戸堀夫
建築工手伝
土木工手伝
製綿工手伝
襤褸売買
木工場手伝
車夫手伝
煙筒掃除
煙管修理
僧侶
無職
合計
 3人

1

1
1
1
1
5

1
29

18
17
1

4
1
1
2
3
2
1
1
1

1
4
1
1
54
156
  人
1

1


2


1

14
3

8

1






3
1
1
2




81
119
 3人
1
1
1
1
1
3
1
5
1
1
43
3
18
25
1
1
4
1
1
2
3
2
4
2
2
2
1
4
1
1
135
275
札幌区細民調査統計表』より

 ④収入状況──男世帯主の月収金高調と女世帯のそれを合体したのが表6の月額収入金高である。職業としてもっとも多い屑拾い、除雪人夫、葬式人夫の三つが一〇円から四〇円以内ともっとも多いのがわかる。もっとも高額な五〇円以上になる職業は、鳶職と井戸堀業で各一世帯ずつである。また女世帯の場合では、二〇円以内に達するのは屑拾いのみで、あとは一〇円から一五円以内にとどまっている。おおよそ月額収入は男世帯で一五円以内、女世帯で一〇円から一五円の間ということであろうか。
表-6 月額収入金高
職業5円
以内
10円
以内
15円
以内
20円
以内
25円
以内
30円
以内
40円
以内
50円
以内
50円
以上
屑拾
除雪人夫
葬式人夫
僧侶
夜警夫
薪切
煙管掃除
農業手伝
靴屋
縄製造
竹割
鳶職
馬車
砂利堀業
車夫
井戸堀業
煙筒掃除
建築工手伝
コウジ行商
駄菓子行商
 戸



















10(5)戸
1  
3  
1  


1  


1(1) 


1  





1  
(1)
10(2)戸

5(2) 

1   





1   



1   





1(1)戸
3  
1  


1   

1   








3   



  戸
2
2













1



  戸
5
1


1





1



2

1


  戸
1






1





1





  戸












1



1


  戸










1



1




21(8)戸
12  
12(2) 
  1
  1
  2
  1
  1
  1
  1(1) 
  1
  2
  1
  1
  2
  3
  4
  2
  1
 (1)
合計 19(7)18(4)10(1)51132270(12)
1.( )内は女世帯を示す(内訳にあらず)。
2.『札幌区細民調査統計表』より作成。

 ⑤食料状況──日常おもに食するところの食料は、まさに生きるために切実な問題であった。九二戸中、普通食を食する者は二五戸で、残飯を食す者が二九戸もあるといった、まさに細民の置かれている状況を写し出している。あとは、外米麦混食三戸、蕎麦麦混食八戸、蕎麦粉六戸、外米蕎麦混合二戸という具合であった。普通食・残飯を除き、混合食の割合が四〇パーセントをこえている。それに、彼らは炊事場の設備を備えている者は四〇戸のみで、井戸端やまったく設備のない者が六割近くもあった。さらに、便所については、共同が八八戸、設備のない者が四戸もある状況であった。
 ⑥住宅状況──住宅の清潔状況でいえば、清潔はわずか三戸で、やや清潔が一六戸、不潔六一戸、はなはだ不潔が一二戸という具合であった。住宅の屋根は、柾葺六七戸、石油古缶葺二三戸、藁葺一戸、その他屑葺一戸で、敷物も畳使用はわずかで、莚・薄縁等が多かった。また住宅の床高調では、五寸(一五センチ)が四九戸ともっとも多く、一尺(三〇センチ)が二三戸で、まったくない者が四戸もあった。
 住宅の室数・畳数では、二室あるのはわずか三戸のみで、大部分が六畳程度かそれ以下であった。さらに寝具にいたっては、六人家族で二枚の寝具というから、三人で一枚という者もいたり、九二戸のうち寝具のまったくない者が一二戸もある始末であった。
 ⑦健康状況──食料状況をみても知られるとおり、健康者は二七五人中一八八人いることにはなっている。しかし、おおむね栄養不良の者が多く、九二戸のうち疾病者皆無の者は三〇戸のみで、ほかに一二人の罹患者もいた。特に目立った特徴は、老衰者二一人、目が不自由あるいは眼病一五人、身障者一一人もいるといった状況であった。そうでなくとも、罹りやすい疾病に胃腸病、流行性感冒、喘息、リューマチ、心臓病等があった。しかも、彼らの多くは入浴を月五回する方は良いほうで、月一回が一三戸、一年間一回も入浴しない者が一六戸もあった。入浴しない者は、夏期河川の行水ですませているという始末であった。また理髪は、九二戸中手剃は四八戸と半分をしめたが、一カ月一回が二二戸、二回が九戸といった具合であった。ちなみに、入浴料金は一回大人五銭、小人三銭、理髪料は一回三〇銭であった。
 以上、大正十一年二月調査の細民調査の実態を紹介した。