札幌市中央図書館/新札幌市史デジタルアーカイブ

新札幌市史 第3巻 通史3

第七編 近代都市札幌の形成

第四章 資本主義確立期の経済

第二節 商業と流通

三 各種商業者の動向

 札幌区の商業活動は活発であったが、その主体は零細多数の商業者であった。はじめに営業税課税標準の売上高から札幌商業の特徴を見てみよう。大正三年の札幌区の売上高は、卸売五一五万八〇一四円、小売二五一万三六一七円、合計で七六七万一六三一円である。同年の小樽区は卸売一五八二万四五一一円、小売二七九万一三四二円、合計一八六一万五八五三円であった。函館区は卸売一三一六万八四二二円、小売四〇五万一七六四円、合計一七二一万九五九八円であった(北タイ 大4・7・10)。卸売金額は小樽・函館と一桁違い、小売金額は小樽にわずかではあるが差をつけられている。札幌区は、商業売上高の劣位がとくに卸売業において顕著であった。言い換えれば札幌区では卸売金額が小売金額を上回っているとはいうものの、他の都市に比べて相対的に小売の比重が高いということができるだろう。
 札幌商業会議所は、明治四十四年十月に『札幌商工人名録』を刊行した。ここには、国税営業税を納める計一四七八戸の商工業者が掲載されているが、これを用いて札幌の商業者の状況を述べることにする。まず『札幌商工人名録』掲載の商工業者のうち、商人と思われるものは九〇三戸である。これは業種名に「商」「店」「屋」のいずれかが付くものを取り出した。
 なお、これらは国税営業税の課税対象者に限定されていたが、国税営業税の免税点は売上金額一〇〇〇円(物品販売業)であり、それ以下は道税営業税の課税対象とされた。明治四十三年のデータを見ると、物品販売業の国税営業税対象者は一一九二人、道税営業税対象者は一二二六人であった(札幌商業会議所第三回統計年報 明43)。この資料によると、国税営業税対象者合計は一七七三人になり、『札幌商工人名録』所載人数を上回っている。調査漏れがあるためであろう。ともあれ札幌区の商業者数は、『札幌商工人名録』に掲載された商業者の約二倍であると思われる。しかし、道税営業税対象者をも含む名簿は存在しないので、大方の傾向をつかむために国税営業税対象者について見ていくことにしよう。
 表10は、地域別に商業者の分布を示したものである。条丁目ごとに戸数を表示した。商業戸数がもっとも多いのは、南二条西二丁目の三一戸、次いで南二条西三丁目の二九戸、南三条西二丁目の二八戸である。東西の通りで見ると、南一条が一四八戸と最多であり、南一条通が最大の商店街であったことがわかる。南北の通りで見ると西二丁目と西三丁目が一一四戸と同数・最多であり、西三丁目通が最大の商店街ということになる。周辺をたどってみると、北は大通が少ないものの北一条で再び増えて、北二条が少ないものの北三、四条がまた多い。もっとも大通より北では、必ずしも西二、三丁目が中心にならず、東一、二丁目あるいは西五丁目などに集積している。一方南は中心から離れるにつれて商業戸数は漸減する。また南四条までは西二、三丁目が中心のようだが、南五、六条では東西にそれぞれ分散している。
表-10 商業者の地理的分布
 西11
以西
西10西9西8西7西6西5西4西3西2西1東1東2東3東4東5
以東
合計
北4条2114343116136
北3条1711423132236
北2条345315
北1条12521111311253653
大通3233313119
南1条245461119262220489341148
南2条111479142931141310812145
南3条1111821282515132125
南4条1461112941174271
南5条167341475341
南6条3222211316
南7条178
合計575101633688311411466675739227713
札幌商工人名録』(明44)より作成

 業種を加味して見ていこう。表11は業種別戸数である。全部で五六業種になる。米穀荒物雑貨、鮮魚、料理店の順に多く、上位五業種で全体の四六・七パーセントをしめている。木材商、柾商が上位にあることは札幌の特徴を、また古着、古道具が上位にあることはこの時代の特徴をあらわすものといえるだろう。また、問屋と名の付くものは「問屋」と「雑品問屋」の六戸にすぎないことも、卸売機能の未発達を示しているのかもしれない。もっとも卸売、小売の区別は厳密にはできないし、実際に両者を兼業する場合もあったであろうから、即断はできない。
表-11 商業者の業種別戸数
業種戸数 業種戸数
米穀荒物雑貨171 種苗7
鮮魚776
料理店72酒,缶詰,雑貨6
菓子58蒲鉾6
洋物小間物雑貨44飮食店5
呉服太物29鍛冶5
木材26時計4
履物25藁細工4
古着25肥料4
古道具22銃砲火薬4
22書籍4
22器械4
売肉21問屋3
薪炭19神仏具3
雑穀19雑貨荒物3
金物18雑品問屋3
乾物荒物17絵葉書3
陶器14筆墨3
馬具13柳行李3
雑貨13海産3
仕立物11味噌醤油2
ブリキ細工11蚕種2
果実蔬菜11砂糖麦粉2
11古本2
豆腐10石油2
牛乳9貿易1
9骨董1
用達8煙草元売1
   合計903
札幌商工人名録』(明44)より作成

 今度は、通(条丁目)ごとに業種の分布を見ていこう。まず、南一条は三九業種あり、多い順に並べると、米穀荒物雑貨二二戸、菓子・洋物小間物雑貨・鮮魚各一〇戸、薬八戸である。南二条は四二業種あり、料理店一二戸、菓子・古着各一一戸、米穀荒物雑貨・鮮魚各一〇戸である。南三条は三一業種あり、古道具一五戸、料理店一三戸、鮮魚一二戸、米穀荒物雑貨一一戸、洋物小間物雑貨・古着各七戸である。南一条、二条の鮮魚商は東西に分散しているのに対して、南三条の鮮魚商は東一丁目(創成河畔)に九戸と集中している。魚市場に隣接して魚屋街が形成されていたのである。また南二条、三条には古着商、古道具商の集積も見られるが、古着商は南二条西三丁目に一〇戸と集中している。
 次に営業税額により商業者の営業規模を表12により見てみよう。明治四十四年における物品販売業の営業税課税率は、卸売の場合、売上金額の一万分の一二、小売の場合、一万分の三六とされていた。したがって営業税額の階層は、売上高の階層をもあらわしている。階層別に見ると三〇円未満が全体の六〇・八パーセント、五〇円未満では八一・五パーセントをしめている。しかし、上位階層も幅広く分布している。一〇円区分で下位にいくにつれて戸数が増えるものの、最低の一〇円未満層はわずか二二戸にすぎない。営業税額二〇〇円以上の商業者一覧を表13として掲げた。これが札幌区の豪商である。業種別に見ると、木材商四戸、呉服太物商・料理店業各三戸、洋物小間物雑貨商・金物商各二戸の順に多い。地域的には南一条が一〇戸、南二条が四戸、西二丁目、三丁目が六戸となる。このあたりが豪商の密集地帯であった。このなかでは、今井合名会社が三業種にまたがって登場しているのが注目される。また、南部源蔵藤井專蔵高桑合名会社のように、営業種類欄に問屋業、卸商と記載されているものがある。このほか木材商なども含めて、広域を商圏とする卸売業をも兼ねていることが推測される。
表-12 営業税額別商業者戸数
営業税額戸数
200円以上   
100円~200円
50円~100円
40円~50円
30円~40円
20円~30円
10円~20円
10円未満
22
42
103
59
128
209
318
22
合計903
札幌商工人名録』(明44)より作成

表-13 営業税200円以上納税商業者
営業税額営業種類住所屋号氏名
1,298円88木材商木材商北5西6札幌木材株式会社
1,088.50呉服太物商呉服太物,毛織物兼洋物商南1西4今井合名会社呉服部
680.81時計商時計諸器械美術品商南1西2中野四郎
619.03呉服太物商呉服太物商兼質商南4西2向井嘉兵衛
603.10洋物小間物雑貨商和洋小間物,化粧品兼呉服太物商南1西2今井合名会社洋物部
533.41洋物小間物雑貨商デパートメント北4西3五番舘小田良治
532.14米穀荒物雑貨商米,荒物,日用品雑貨一切兼精米,製材業南2西1古谷辰四郎
469.34料理店業会席料理南3西4幾久代小林喜三郎
453.37酒缶詰雑貨商和洋酒,缶詰,日用品問屋業南3西1三国屋南部源蔵
414.76木材商木材商北1東4合資会社札幌木挽所
315.04料理店業会席料理南2西4東京庵後藤銈太郎
279.54煙草元売商官製煙草元売捌南1西2札幌煙草元売捌合資会社
270.18呉服太物商呉服太物,毛織物兼金物商南1西3今井合名会社藤村屋
267.36木材商木材商北4西3三井物産会社札幌挽材販売所
260.36木材商木材商大通東2早瀬吉松
259.27砂糖麦粉商砂糖,麦粉,雑貨商南1西4石田幸八
249.48料理店業会席料理南2西2東寿し石井ツネ
220.86金物商銅鉄材,金物,打刃物南1西2池内与惣吉
216.44紙商和洋紙卸商南1西3藤井専蔵
215.68金物商銅鉄材打刃物類南1西3宮沢文次郎
215.51書籍商書籍,雑誌類,雑貨,文具商南1西3富貴堂中村信以
213.20雑貨荒物商雑貨荒物問屋並漆器道具類問屋南2西1高桑合名会社
札幌商工人名録』(明44)より作成


写真-2 札幌区実業家案内双六(明治36年)

 精巧堂半田勝之丞発行。停車場通、南一条通、狸小路を中心に発展をみせていた当時の代表的な商家をまとめて双六化している(北海道開拓記念館蔵)。