札幌市中央図書館/新札幌市史デジタルアーカイブ

新札幌市史 第2巻 通史2

第五編 札幌本府の形成

第二章 開拓使本庁と札幌

第四節 札幌都市計画の進展

四 札幌会議と札幌本府建設

 この会議が開かれる以前に、黒田次官と岩村判官との間には、五年中の札幌での本府建設資金をめぐって次のような問題が起こっていた。札幌の主任である岩村が、本府建設のために黒田との定額金の条約を破ったことである。この条約がどのようなものか不明であるが、後の黒田の書簡から推測して、五年二月から十二月までの定額金の使い方に関して、黒田が四月に来札した際に結ばれたもののようである。しかし六月十九日岩村は「札幌庁御用途金切迫、急場御差支え相成趣にて」(開拓使公文録 道文五七二五)函館へ出張し(公務摘要日誌)、「一時繰替之御評議」として、函館出張所から金を引き出した。それに対して東京会計懸は「兼て定額並別廉御出方等御条約相成候上は、御条約外之別段御出方不相成は、兎角不待論」という、条約に対する認識を示している。黒田はこの岩村との条約について、岩村への七月九日付書簡で次のように記している(開拓使公文録 道文五七二五)。
先日其地出張之節、当二月より十二月まて之費用、定額米金ト臨時入費、別廉出金之条々御談判之上、条約記載、右ヲ以施行相成候筈、尤仕議ニ寄不得止事目的外ニ仕懸候ハテは不相成候件々可有之候得共、過半条約外之作事ニテ、少数ならす出金可致義ニ至り候、如斯テは目的会計共ニ不相立、条約も崩れ其詮無之、素より目的外之事ニ渉り候ハヽ、前以御申越ニ随ヒ、緩急適宜之御相談いたし、入用金繰合も相計可申義ニ候、既ニ弐拾六万円余之募金、存外之次第、元来条約ヲ以、年中之出納前途之目的相立候義之処、総テ齟齬シ、独り会計懸ニ対シ信義ヲ失する而已ナラス、結局目的条約水泡ニ帰シ候。

 さらに黒田は、この岩村の独断専行に対して「先日検印之条々、消印及解約候条、其地ニ有之印鑑も、可令反古候間、御返却可有之候」と岩村にとっては解任に等しい厳しい指令を出した(同前)。この厳しい指令について、西村・田中・内海は、岩村へ札幌会議での制定を申し入れて、岩村が辞任などの無謀な行為をすることを戒めている(開拓使公文録 道文五七一八)。岩村はこのことに関して七月に辞表を提出していた。札幌会議を開催する以前にこのような問題がすでに起こっているのである。
 第二に、この条約問題は、札幌本府をどのように建設するかという問題と稟議制の問題が深く関わっている。本府の建設方法については、前述のように岩村は全般的に事業を起こそうとした。しかしそのための職人の要求を東京側では削減した。この東京側の削減は、黒田の書簡でも指摘しているように、定額金にあわせて事業に緩急の順序をつけて起工すべきであることを示唆している。さらに予算外の事業の起工は、上官への稟議事項であるとも指摘している。岩村は本府建設を最優先して事業を実行し、したがって予算外の事業について上申もしなかった。
 第三に、岩村の札幌での施政状態がある。岩村は五年七月に函館の邏卒を呼び寄せただけで、警察機構をまだ整備できず、開拓使の権力基盤を整備していなかった。そのなかで、八月職工人夫たちの暴動事件、十月職工人夫たちの東京楼の打ち壊し事件などが起きた。さらに松本の時代になって当事者が解任されるという官吏同志のけんかも起こっている。これらは岩村の責任者としての能力が問われる問題である。
 第四に、函館の主任杉浦誠は、日記に会議の紛糾の原因を「此紛擾を生る原因は本府会議粗漏より生せし事と衆察に付」と明確に指摘している。「本府会議粗漏」の意味が不明だが、本府の会議が疎漏であるととると、札幌上局内での会議がいい加減であるという意味にとれる。そうすると札幌上局の意志を統一していない施政=岩村の独断専行ということになる。札幌会議の背景として、岩村の独断専行による札幌での施政があった可能性が大きくなる。もっとも「本府会議粗漏」を札幌会議の進め方が悪かったととれば別である。
 札幌会議は以上のような背景を有しており、人間同志の対立関係だけで札幌会議を把握するのは間違いである。