札幌市中央図書館/新札幌市史デジタルアーカイブ

新札幌市史 第1巻 通史1

第四編 イシカリの改革とサッポロ

第四章 イシカリ改革

第三節 漁業の推移

一 直捌漁業への転換

 イシカリ改革は漁業のあり方を直接変革しようとするものでなかったとはいえ、イシカリの生産基盤が鮭漁にある以上、場所請負制の廃止は漁業に新たな経営策を求めなければならなかった。まず、改革直前のイシカリ漁業を概括しておこう。
 再直轄期をむかえた漁業は、弘化嘉永期の阿部屋伝治郎による場所請負体制をそのまま継続展開していった。すなわち、
① 春、アツタ、オタルナイ、タカシマの各場所に出稼し、鯡漁を行う。
② 秋、イシカリで鮭漁をする。
③ イシカリアイヌが生産した干の集荷をする。
 以上の三形態をとった。このうち、②の収入金額が七割をこえ、安政四年の例によると八三パーセントを占めるから、阿部屋がイシカリで最も力をそそがねばならなかったのは、秋の鮭漁だったわけである。なお③は一、二パーセントにすぎない。
 その鮭漁はどのようになされていたのだろう。網引場と網の統数は表4のようで、和人の小網一統はアイヌ榀網三統分以上の収獲をあげえた。これらが請負制のもとで阿部屋の独占事業だったわけだが、その内容はやや複雑である。安政期のイシカリ鮭漁獲高のうち、七七パーセントほどがいわゆる和人の取りしきった引場からで(アイヌう)、残りがアイヌ自分網と呼ばれる引場での水揚げである。後者については第六章でふれるが、形の上ではこれらはアイヌの生産物であり、代価(介抱)をもって請負人が集荷するたてまえである。
表-4 イシカリ場所鮭漁場と引網数
網主
漁場
阿部屋山田家アイヌ備考
浜(川口西)11大網(浪高の時、小網で川に追網)
浜(シュップ)11大網、出稼役3割
ホリカモイ213以下 元小家扱い、出稼役3割
ワッカヲイ211013
フル99
ヤウシハ66
テイネ11
モシンレフ11
シビシビウシ66
上トウヤウシ213
下トウヤウシ1111
オタヒリ44
ハナンクル112
サツホロフト22
ヒトエ112以下 ヒトエ扱い、出稼役2割
ポンヒトエ112
トエビリ112
タンネヤウシ112下 ツイシカリ前浜扱い、出稼役2割
ポントママタイ112
トママタイ112
ツイシカリ前浜1113
ツイシカリ下向213
ツイシカリ上向112
ホリカモイ112

引網計
2115 
49
 
85
和人網 36
ウライ ハシヤフ11
サツポロ11
ウライ 計2002
年により引場及び統数が変わるので、安政3年をもとに前年分を参考とした。『秋味漁業手続アラ増』(石狩場所請負人村山家記録の内)『漁業手配方仕来書 上』(新札幌市史第6巻31頁)他によった。

 また、和人網三六統をみると、ウライを含めても阿部屋が六〇・五パーセント、山田家出稼が三九・五パーセントである。これらから推計すると、イシカリ全鮭漁高に占める阿部屋直営の割合は四六・五パーセントにすぎない。とはいえ阿部屋には山田家出稼役二ないし三割が入り、アイヌ網漁のすべてが原則として集荷されたから、商品として移出される鮭荷物の割合ははるかに大きかったのである。
 阿部屋の勘定帳(決算書)によると(表5)、①②③を含めた嘉永五年の収支は、仕込物、運上金、給与等の経費が七六三八両、これに二割の金利を掛け加えると九一六五両になる。一方収入は八五二三両だったから、帳簿上は六四二両の損失であった。とはいえ二割金利をのぞくと八八五両の益となり、この年元小家新築の多額な臨時経費が含まれることを合わせ考えると、けっして赤字経営でない。同じく安政四年の例でも帳簿上は一七七九両、二割金利をのぞくと三四六六両という巨利を一年で収めた。
表-5 阿部屋のイシカリ漁業経営(収支額と割合)

内訳
嘉永5年安政4年イシカリ改革安政5年安政6年万延元年文久元年備考
支出%%%%%%
仕込品代3,95051.75,27962.64,73567.72,57947.14,50059.46,10473.6
運上金、冥加金等1,38018.11,35116.0180.3150.3150.2150.2
人給金手当等96712.784510.01,07815.41,71531.41,51120.01,23114.9アイヌ和人とも
運賃、その他1,34017.596411.41,15816.61,15621.21,54320.493511.3
合計7,6381008,4391006,9891005,4641007,5701008,285100(A)
(2割金利を含めた計)(9,165)(10,126)(8,388)(6,557)(9,084)(9,942)
収入夏荷物代2,46929.01,81515.21,31723.11,93130.11,76825.41,97536.5鯡、干軽物
秋味5,84668.68,78673.82,92451.23,08848.23,76053.92,62348.4
諸入金2082.41,30211.01,46725.71,39221.71,44020.781515.1
合計8,52310011,9051005,7081006,4121006,9701005,414100(B)
差引益損8853,466-1,281948-600-2,871(B)-(A)
単位両、それ以下切りすてたので合計金額のあわないところがある。村山家資料の内『石狩御場所勘定帳』により、残荷物代をのぞき単年ごとの決算。