札幌市中央図書館/新札幌市史デジタルアーカイブ

新札幌市史 第1巻 通史1

第四編 イシカリの改革とサッポロ

第三章 諸藩のイシカリ調査

第二節 諸藩の関心

[玉虫左太夫『入北記』]

   (安政四年)九月九日[快晴朝白霜満地]
 今日ハ鎮台、イシカリ発シラレ、ハツサフ着ニナリ、千歳会所ヘ残リシ面々ハ鎮台ヨリ先キニハツサフヘ至リ出迎スルコトニ兼テノ申付ケナリ。之ニ依テ今朝未明ニ千歳ヲ発シテ行ケルカ、白霜満地寒威凛列、何レモ馬上ニアリテ手足粟ヲ生スル程ノコト、沍寒ノ地トハ申ナカラ、未タ冬ニナラザルニ早已ニ如此、実ニ驚キ入リタルコト(胆ヲ冷シタル)ナリ。千歳ヨリ半里計リ行キテ追分ノ杭アリ。是ヨリ左折シテ十歩計ニシテ阪アリ。少シク険ナリ。是ヲ登リテ平山ナリ。椛ハンノ木森々タリ。此林中二里半程行キ、イカンブシト云フ所ニ至リ小憩所アリ。今日ハ急キナレトモ寒威ニ堪カネ、各馬ヨリ下リ暫時小憩シテ身ヲ温メケリ。又行クコト二里半計ニシテ阪アリ。険ニシテ馬行叶ハサル程ナリ。是ヲ下リテ即シママツフ川ニ至ル。イシカリ、ユウフツ境ナリ。此処ニテ午飯ヲ喫ス。此川ハ千歳川ヘ落ル由ナリ。
 茲ヲ去ルコト一里余、手前ニ川アリ、イサリ川ト云フ。急流巾七八間ナリ。傍ニ土人家一戸アリ。(是ヲ渉リテ行クコト半里計リ)此間ニ又小川アリ。ムイサリ川ト云フ。右何レモ千歳川ニ落ツルト云フ。鱒ノ類登リ来ルト云フ。サテ此辺ハ茅原或林中何レモ平衍ノ地ニテ柏ノ大木多ク見ヘタリ。又行クコト七八丁ニシテ阪アリ。屈曲且険ナリ。少シク心ヲ用ヒサレハ転躓ノ憂アリ。此ヲ登レハ又平山トナリ、大抵柏木ナリ。間々栗楢ノ類モ見ヘタリ。是ヨリ大小ノ阪許多アリテ歩行宜シカラス。尤新道ノコトユヘ、道路未タ堅マラズ、折々泥濘ニ苦メラルヽ所アリ。シマツフ(ママ)川ヲ去ルコト三里余ニシテ、イナヲ阪ト云阪アリテ、是又屈曲且険、馬行叶ハサル程ナリ。
 夫ヨリ又行クコト二里計リニシテ豊平ニ至リ、此処ニ通行家アリ。併シ仮家ニテ未タ普請ナラズ。此辺椛柏多クシテ、且地味大ニ宜シ。此処ニ暫ク小憩シテ、半丁計リ行キ川アリ。サツホロ川ト云フ。巾四五十間急流ナリ。橋ナシ。徒渉(歩行)甚難渋ナリ。是ヲ渉リテ又平衍ノ地トナリ、熊鹿多キ由、路傍ニ熊穴ナリトテ、木ノ下ニ丸サ四五尺程ノ穴アリ。雪ノ節ハ此ニ入リ凌クト云フ。
 又行クコト一里余ニシテ川アリ。ハツサフ川ト云フ。此辺至テ浅瀬急流ナリ。此川ヲ下ルコト(是ヲ去ル)二十余ニシテ深シテ舟通行叶フ。今日鎮台舟ニテ其処ニ至ラレ上陸セラレル筈ナリ。此川ニ橋アリ。此ヲ渉リテ少シク行キテ(昼所アリ)ヘツカシウシト云フ所ニテ小憩シテ、夫ヨリ右折シテ柏原ノ中ヲ行クコト十五六丁ニシテ平野ニ出テタリ。茅原ナリ。此ヲ行クコト五六丁ニシテハツサフ在住ノ新宅ニ到リテ投宿ス。
 サテ今日ノ里数十二里余ト申ナカラ、新道ユヘ路程宜シカラズ、未明ニ発シテ漸ク黄昏過キニ着シタリ。馬上ノコトナレトモ、何レモ疲労ニ堪ヘズ、定メテ鎮台ハ疾ニ上陸ナラント、皆々力ヲ落シ行ケルカ、幸ニシテ鎮台未タ上陸セズ、着後大ニ喜ヒ、夫々出迎ノ用意ヲ致シケル。サテ此辺初夏通行ノ節ハ真ノ草原ニシテ、鹿跡ノミ多カリケルカ、今ハ早ヤ在住ノ家三四戸モ立ツ、大ニ開ケ近々ニハ繁花ノ地トナラント楽ミケル。尤地味モ宜シク開墾サヘスレハ、何ニテモ生スベシ。且此辺計ニモナク、サツホロ川、ハツサブ川ノ間、コトニト云フ処アリ。此辺地味宜シクシテ平衍ノ場所ナレハ、開墾ノ(場所)極上ノ地ト云ヘキナリ。此処ニモ在住ノ面々(士)置キタキモノナリ。黄昏過半時許リモ過キ鎮台漸ク上陸致サレケル(今日ハ在住ノ宅ヲ投宿所トナシタルユヘ至テ狭隘、三軒ノ家ヲ以テ漸ク間ニ合セケル。
   十日[晴未後雨]
 辰後発シテ、ハツサフ川岸通リ、在住ノ家ヲ一見致サレント十丁計リ引キ戻リタルカ、以前トハ大ニ相違シ、川岸ニ二三戸落成ス。且畑地二三丁歩モ開ケ、川岸ニハ土手ヲ築キ、其景色目ヲ驚ス程ナリ。地味ハ至テ宜シク、野菜ノ出来(大根等(か)ノ成長)内地ニモ劣ラサル程ナリ(其外諸菜何レモ可ナリニ見ヘタリ。且此処ニ可喜キ一事アリ)。兼テ畑芋ハ蝦夷地ニハ迚モ生セスト人皆唱ヒケルニ、此処在住旗元山岡誠次郎ナル者、試ノタメ芋種ヲ江戸ヨリ下シ植シカ、可ナリニ出来モ宜シク由、左アレハ能ク手ヲ入レナハ大低ノ物ハ生スベシ。不農ノ者ノ談ヲ聞キ、容易ニ信スベカラス。
 右一見終リテ前道ヘ戻リ、此辺在住ナルヘキ地処御見立ラレ、一里半程来リテ、ウヱンシリニテ小憩ス。又一里計ニシテ、サンタラヘツニテ小憩ス。夫ヨリ又行クコト一里計ニシテ、ホシホキニ至リテ午飯ヲ喫ス。此間大抵平原ニシテ茅多ク生ス。且山アレトモ大抵平山ニシテ高カラス、少シク南ニ当リ、ウヱンシリ、或ハホシホキ山等アルノミナリ。サテ此ホシホキ川岸ニモ在住ノ宅三戸落成ス。初夏ノ節ハ谷地ト見受ケシニ、カク開ケハ可ナリノ住家ナリ。併シハツサブ等ニ比スレハ開墾ニハ少シク六ケシカラン(覚ユルナリ)。且地所モ至テ狭隘、只世ヲ避ケ隠居スルニハ極妙ナルベシ。唯喜フベキハ山間風ノ防キ宜シク、此辺第一ノ暖地ノ由ナリ。千歳川発シテヨリ草木大抵落葉セシカ、唯此地計リハ蕎葉未タ青々トシテ見ヘタリ。然ラハ暖地ニハ相違アルマシ。
 此ホシホキ川ハ、下流ヲタルナイ川ト唱フ。小流ニシテ橋アリ、此ヲ渡リテ(午飯所アリ、是ヲ発シテ)又新道ニ入り、上下スルコト再三、一里余行キテセニ箱ニ至リテ投宿。ホシホキヨリ此迄ノ道ハ初夏通行ノ節、谷地且ツ熊笹ノ中ニテ路程(足場)宜シカラザルニ、今ハ早ヤ新道ヲ築キタルトテ、上下スレトモ険ナラズ。最初ノ道トハ雲泥ナリ。尤セニ箱ニ至リテモ投宿所ヲ立波ニ補理ヒ置、却テ運上屋ニモ劣ラサル程ナリ。併シ未タ落成ニハ至ラズ。纔カ四五ケ月ノ間ナレトモ、諸事目ヲ驚スニ至ル(豈ニ啻ナランヤ)。此勢ニテ追々ニ至リナハ、屹ト開ケベシ。唯恐ラクハ鎮台去テノ後ハ如何ナラン。例ノ革面ニテハ又始ニ立帰ルベシ。書生ノ妄談、又々発シケル。
   十一日雨
 今日雨ニテ(且御用コレ有リ)滞留ノ所、辰後雨止ミ(御用モ大抵片付タルニヨリ)俄ニ発軔ト極リ、前路新道ヲ行キ、ホシホキニテ小憩セシカ、又雨トナリ止マス。是ヨリ各雨具ヲ着シテ一里余行キテ、サンタベツニテ小憩、夫ヨリ又行クコト一里余ウヱンシリニテ小憩ス。又一里程来リテ追分杭アリ。左ハハツサフ在住ヘノ道、右ハヘツカシウシ(午飯所)行キノ道ナリ。左(ママ)折シテ一里計リ行キテ、ヘツカシウシニ至リテ午飯ヲ喫ス。大雨ユヘ何レモ満身雨ニ浸タサレケル、活火ニアブリ乾シケルカ、暫時ノコトユヘ中々十分乾カス、且ツ雨モ弥々強クナリ、拠ナク又茲ヲ発ケルカ、二里計ニシテ、トヱヒラヘ来リ投宿ス。
 此処ハ通行家建ツベキ処ナレトモ未タ仮小家ニテ、例ノ丸小屋同様ノ処ナリ。併シ雨凌キニハ極上ナリ。此処ヨリ、サツホロ山、又コトニ山、ハツサフ山等見ユルナリ。外ハ昨日ノ記ニ見ヘタリ。
   十二日晴
 今日モ雨ヲ醸シ居ルユヘ滞留ノコトニ大略極リシカ、辰後又々(大ニ)天気変シテ晴ルヽ模様ニナリ、俄ニ旅装シテ発シケル。一里計行キテ、モツキシヤフニテ小憩ス。又行クコト一里計リニシテ、ラウネナイニテ小憩ス。此処ニテ小飯ヲ喫ス。今日ノ里数十里余ナレハ、此処ニテ小飯用意セリ。又行クコト一里計リニシテ、ウヱンナイニテ小憩ス。又一里程行キテ、ワツチ山中ニテ小憩ス。夫ヨリ半里モ行キテ高キ所アリ。此処眺望大ニ宜シク、イニワ山或ハシコツ山等連続シテ見ヘニケル。又行クコト半里余ニシテ、シマヽツフ川ニ至リテ午飯ヲ喫ス。茲ヲ発シテ二里半余ニシテ、イカンフシニテ小憩ス。此処ヨリ日已ニ西山ニ傾キ半里程モ行キ松明ヲ燃シテ二里余モ夜行セリ。山中ノ夜行殊ニ十二日ノ月清朗ニシテ実ニ風流ノ思ヒヲナセリ。夜五ツ時、千歳会所ニ投宿。サテ、シユマツフ辺マテハ焼砂多ク見ヘ、夫ヨリ先キ、ウヱンナイ辺ヨリ地味モ宜シク見ヘニケル。
   十三日[雨未後晴]
 今日、雨且公事有リテ滞留セリ。
   千歳ヨリ石狩領ヘノ河筋幷新道道順
 カマカ [大沼アリ此辺水鳥多シ] イサリフト [イサリ川ノ水末ナリ]
 シマヽツフ [一円平原湿地芦萩多シ鶴白鳥多シ] 都石狩 [此辺第一ノ高地ニテ柳桑桂多ク地味至テ宜シク水源作発路川ヨリ落ル鮫ト多シ]
 ビトヱ [此辺地味宜シク柳ニキヨウ葡萄多シ] 発作部 [此辺大沼アリ菱多シ]
 ホシホキ [ヲタルナイ石狩境ナリ] 銭箱 [漁家連軒鯡漁アリ但天狗山丸山何レモ椴楓多シ]
同   [水源滝アリ石河ニシテ水末ヲタルナイ川ナリ此渓間在住ノ在宅アリ]ツライウツ [小河アリ]
サンタラベツ [小河急流ナリ]ポンハツサフ [曠原柏木多シ在住在宅アリ]
トフシルヲマナイ [同]フシコベツ [発作部古河ナリ凡一里程大石流木ニテ半里程埋河傍ニ在住在宅アリ地味宜シ]
ヲカノチ [小河アリ]発作部 [大河急流傍ニ休所幷ニ畑コレアリ]
ウエンシリ [高山アリ但ラルマニ樹稀ニアリ椴松多シ]チフトラン
ケニウシヘツ [小河アリ]
テイネニタツ [小河ウヱンシリヨリ落ル此辺一円湿地鶴多シ]ヨウコシヘツ
コトニトヱヒラ [通行家アリ地味至テ宜シク此辺山中柏栗厚朴多シ]
ホンコトニ

シンノシケコトニ
イナヲ坂 [ツキシヤーブト云フ渓河アリ此辺桜草多シ]
シヤクウシコトニ [何レモコトニ山ヨリ落ル河ナリ此辺鹿熊多シ平原李木多シ]モツキシヤーブ [此辺柏木椛多シ]
アラヲウツ [前同断谷河湿地ナリ]
作発路河 [大河急流滝ノ如シ河巾数十丁石河原ニシテ水源凡十日路余其処未詳ツイシカリノ水源ナリ同所トヱヒラヨリ上ミ南ノ方ニ当リテウヱンシリト云フ高山アリ作発路山ヨリ凡三四里程先キ山麓巾三四里余石河原ニシテ水行ノ跡一円コレアリ]ラウネナイ [前同断]
アシスベツ [樹木多四五十間ノ坂アリ渓河急流水末都石狩ヘ落ル坂上景色宜坂下十四五丁一円ノ湿地柳]
ウシウスベツ [大滝アリ巾凡四五間滝坪岩石ニシテ鱒多シ]ウヱンナイ [小河アリ湿地ニシテ渓上樹木多シ]
マクンヘツ [急流]ハーツ [急流前同断山上景色宜紅葉宜シ]
ヲタシマナイ [同此辺柳多シ]シマヽツフ [此辺山上ハーツ辺栗多シユウフツ境ナリ]
ヘケレベ [此辺柏大木多シ茅原ニシテ鹿多シ]千歳 [シコツ山ヨリ出ル古シコツ河ナリ急流石狩河ノ水源ナリサルカニ多シ傍ニ会所アリ土人家多シ]
イサリ [急流傍ニ土人住居アリ]
イサリ [急流傍ニ土人住居アリ]シマコツベ [茅原柏木多シ]
ヱロマイ [此辺砂地ニシテ樹木多シ]
 右ノ通大略記シケル。サテ千歳川ハ文化年中ヨリ名付シコトト見ヘ、其由来ヲ糺シニ、此川ハ鶴多キユヘ川ヲ千歳ト名付ツケタル由ナリ。ナル程爰元滞留中ハ日毎ニ鶴声嘷々タルヲ聞カサルコトナシ。尤川岸或ハ沼辺ニハ二三羽ツヽハ屹ト居リタリ。千歳ト名付ケタルモ至極尤ノコトナリ。
(玉虫誼氏所蔵の自筆稿本をもとに、その修正稿を本文とし、修正前の文でも内容の理解に役立つ個所は( )で補った。なお東京大学史料編纂所蔵写本、玉虫誼氏刊本等を参照した。)