札幌市中央図書館/新札幌市史デジタルアーカイブ

新札幌市史 第1巻 通史1

第一編 札幌の自然史

第三章 野幌丘陵の地層

第二節 下野幌層の動・植物化石

 広島町北広島団地の南縁を画して音江別川がある。ここはかなり以前から砂利採掘がなされており、広い面積にわたって、かなりの深さ(沖積面からは一〇メートルくらい、台地面からだと三〇メートル近い)で掘り込みができていた。したがって、地層の観察には絶好の場所で、貝化石なども早くから発見されており、札幌近郊における第四紀層研究のメッカとなっていたところである。この砂利採掘の現場から、昭和四十六年(一九七一)に野牛の頭蓋骨の一部や角などが発見され大きな話題となった。その後、昭和五十年(一九七五)から五十五年にかけて多くの動物の骨化石が、現場の作業員によって発見され採取されていたが、その内容が明らかにされたのは昭和五十八年である。発見された化石は、象の臼歯五個をはじめ、鯨類、鰭脚類(ききゃくるい)、海牛類、偶蹄類など、骨片を含めると一〇〇〇点をこえるものである。これらの化石は、北海道開拓記念館の資料として保管されている。これまでの研究によると、これらの哺乳動物化石を含む地層は、上・下二つの地層であることがわかっている。すなわち、下位の化石包含層は下野幌層の基底砂礫であり、上位のそれは音江別川層に位置づけられるものである。そして、前者の化石群に対しては「北広島化石動物群」、後者のものは「音江別川化石動物群」と命名されている。後者については次節にまわし、ここでは、前者の内容をみることにしよう。

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図-2 音江別川流域の哺乳動物化石産出地点
 
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写真-3 音江別川流域の海牛化石の産状

 下野幌層の基底砂礫層に含まれる哺乳動物化石のうち量的にもっとも多いのは海牛類の化石である。この海牛化石骨の特徴は、骨組織としての海綿質の発達が悪いこと、肋骨がバナナのような形態で、丸くて太いこと、下顎の機能歯(役にたつ歯)が退化して失われていることなどがあげられる。このような特徴から、この海牛は北太平洋のベーリング海域に一八世紀末まで生息していたテラー海牛であると考えられている。テラー海牛は、遊泳能力が衰え、沿岸ないし内湾の岩礁地帯で海藻を餌とした草食性の動物である。採取された化石骨は保存のよいもので、死後それほど運搬・移動されていないと思われるものである。

写真-4 テラー海牛化石
下顎骨(上)と肋骨化石片(下)

 海牛化石についで多いのはクジラ類の化石である。採取された二個の下顎骨の特徴からヒゲクジラの仲間と考えられている。クジラの骨は、このほか肋骨や頭骨片、四肢骨片なども採集されているが、ほとんどのものが丸味を帯びており、沖合いから運ばれてきたもののようである。また、数は少ないが、鰭脚類のセイウチの下顎骨化石もみられる。
 注目すべきことは、これらの海生哺乳動物とともに象の臼歯や切歯(キバ)、偶蹄類(シカの仲間)など陸生哺乳動物の化石が混在していることである。象の臼歯は、右上顎臼歯一個と左下顎臼歯二個であるが、いずれも大きさが異なり、それぞれ別個体のものである。それらはツレソイマンモスゾウの仲間とされている。このゾウの仲間は、関東南部、新潟、九州北部、東支那海海底、沖縄本島、宮古島などから発見され、その生息時代は前期更新世後半から中期更新世前半に至る時期であるとされている。しかし、東北地方や北海道からはこれまで発見されていなかったものである。現在のところ、このゾウ化石については、まだ、正確な同定はなされていないが、当時の古地理や古環境を考察するための貴重な標本である。

写真-5 ツレソイマンモスゾウの仲間の右上顎大臼歯化石


図-3 更新世の旧象の分布