河出書房新社・東京カートグラフィック/WEB版デジタル伊能図【お試し版】

WEB版デジタル伊能図ユーザーズガイド

7. 「デジタル伊能図」の利用例 を閲覧する


8. 「デジタル伊能図」のデータ構築にあたって  目次へ

本商品の基本データは、約200年前に伊能忠敬と伊能測量隊によって作成された3種類の伊能図の中で、「伊能大図」(全国を214枚でカバーした最も詳しい大縮尺図)に描かれている測線(海岸線や街道の測量線)を、GIS の技術を用いて現在の「地理院地図」上に再現したものです。

伊能図の精度は、それ以前の地図とは比較にならないほど高いですが、実際は、1:36,000 の伊能大図を「地理院地図」と重ねても、ぴったりと合わせることはできません。その原因は 1.「地図投影法の問題」、2.「経度の誤差」(天体観測で補正しやすかった緯度に比べ、経度の補正は難しかった)、3. 「測量技術の未発達」(当時の測量機器や作業内容など)によるものと思われます。ちなみに第1次測量から第10次測量のうち前半の精度は比較的低く、後半になるほど精度が高くなっています。

こうして、結果的に測量精度は地域や図ごとにばらつきが生まれ、図どうしの接合部や河川付近でのズレも多く見られます。1本の測線でも途中で急にずれたり、明らかな距離や角度の間違いと思われる箇所も多く見られました。とくに海岸線については細かく測量をした場所や簡略化した場所のばらつきが多く見られました。以上のような状況を総合的に判断し、下記の方法でデジタル化の編集作業を行いました。

まず、コンパクト GIS ソフト「地図太郎 PLUS」を用いて、「地理院地図」の画像に「伊能大図」の画像を重ね合わせ、「伊能大図」の測線を「地理院地図」上に写し取っていきます。伊能忠敬は距離と角度を測りながら測量する導線法を用いたことを踏まえ、「地図太郎」の画像位置合わせ機能のなかにある、距離の誤差を合わせるには「拡大・縮小機能」、角度の誤差を合わせるには「回転機能」を用いて、編集作業を行いました。具体的には以下のようなプロセスで行いました。

① 「伊能大図」と「地理院地図」を重ね、「透過機能」を用いて透明度を調整し、両方とも見やすいように設定しました。

② 「伊能大図」の測線の交差部、屈曲部、河川の位置、地名のある場所等をコントロール・ポイントに設定し、それを「地理院地図」の各部分で合わせながら、移動・変形、拡大・縮小、回転機能を用いて、「地理院地図」に写し込みました。

③ 「地理院地図」で疑いの余地なく明確に判断できた内陸部の街道などの測線を実線、「地理院地図」では存在していないか明確に確認できない測線は破線としました。海岸線については「伊能図」と「地理院地図」に変化が見られない測線は実線で、埋立てや地形の変化などで現状と異なる測線は破線としました。このようにソフトウェア上で線種を区別しながら取得作業を行いました。

各々の地物の取得に当たり決めた手法及び基準は、以下の通りです。

(1)測線について(200年前の海岸線含む)

伊能図と地理院地図の重ね合わせに関しては先に述べたとおりのプロセスに従い、測線を取得していきました。データ作成当初は電子国土(旧ウォッちず)の道路に合わせて取得していましたが、国土地理院のインターネット閲覧地図サービスが地理院地図に変わり、ズレが生じたため、線形の取得し直しを行いました。以前は 1/25000レベルで作成された電子国土(旧ウォッちず)で線形を取得していましたが、地理院地図に変わることにより、1/2500レベルに高精度化したため、以前は符合しなかった測線が符合するようになった箇所も多々あります。測線の線形取得は電子国土(旧ウォッちず)と地理院地図を比較しながら、地理院地図の道路の中心に測線を動かしていきました。そして線形を取得する際には、以下のような基準で区別をしながら線形を取得しました。

事例取得方法
測量した街道(現在も残っている街道)地理院地図の道路の中心に合わせて線形を取得。
測量した街道(現在は残っていない街道)伊能図の形状に合わせて線形を取得(ただし、伊能図のずれが明らかな場合、線形を修正した)。
測量した街道(確定できない街道)伊能図と地理院地図の形状が極めて異なるため、伊能図に合わせて線形を取得。
測量した海岸線(現在とほぼ同じ海岸線)伊能図の測線が地理院地図とほぼ同一と確認できるものについて、地理院地図の海岸線に合わせて線形を取得(岩礁や砂浜などの自然地形や護岸されていても、あまり変化の無い海岸線を含む)。
河口線大きな河口部で測線と測線の切れ目を直線で繋ぎ取得。
測量した海岸線(埋立等で変化した海岸線)伊能図の測線が埋め立てや護岸工事により明らかに変化した海岸線。伊能図の形に合わせて線形を取得(ただし、地理院地図上の道路・水路・植生界等が伊能図の海岸線と判断できた場合はその場所に取得した)。
海上引縄測量した箇所引き縄測量した部分は伊能図の形状に合わせて線形を取得するが、引き縄測量した線の内側の測量していない海岸線は地理院地図に合わせて線形を取得。北海道の石狩川の測線も含む。

伊能図
画像
地理院地図
伊能図で明らかに省略して描かれた海岸線伊能図で複雑な地形を省略して描かれている海岸線。実際の海岸線は地理院地図に合わせて線形を取得。
渡船伊能図には描かれていない線。資料を元に 2地点間を任意に結んでいる。
測量していない海岸線伊能図で実際に測量した朱色の測線ではなく、見通しで描かれた黒色の海岸線(地理院地図に合わせて線形を取得するが、埋め立てや護岸工事により明らかに変化している海岸線は伊能図の形に合わせて線形を取得)。

※ 164 番「呉・今治」の図には海岸線のみが描かれており、内陸部の測線がないため、伊能中図の中国四国に描かれている測線からデータ化を行いました。

※ 北海道の伊能図について最近「間宮林蔵の測量によるものである」との発表がありましたが、1次測量のルートは全て伊能忠敬が測量した線として表示しています。

※ 毎次測量は江戸から出立していますが、江戸府内においてはルートが確認できていないため、千住、板橋、品川などから測線は表示しています。

※ 伊能図には河川や河口部が細かく描かれている地域もありますが、すべてをデータ化しているものではありません。

(2)宿泊地について

宿泊地データの作成にあたっては、伊能大図上に記載されている地名や記号化されている宿駅、天測点、港と資料の一つ「伊能忠敬の足跡―伊能忠敬銅像建立報告書」に記載されている宿泊地名や宿泊提供者名を手掛かりにして位置の確認を行いました。宿泊先になっていた場所が寺社の場合は、残っているものもあり、当時から移動していないことが確認できれば、現在の所在地でポイントデータ化しました。※図1
一方で手掛かりとなるものがない場合は、伊能大図に表記されている地名や☆の付近で測線に近い位置へポイントデータ化しました。※図2
宿泊地や宿泊日等の属性情報は先に示した資料を元に入力を行いました。

画像画像
図 1)手掛かりとなる寺院が現在していた場合図 2)手掛かりがなく、測線の脇にデータ化した場合

※ 図 1)、図 2)に用いられている画像はDVD版に含まれるデータ作成過程を説明するためのものです。「WEB版デジタル伊能図」の画像ではありません。

なお、第2 次測量の旧暦1801年6月7日から18日の間、測量隊は江戸に数日滞在をしており、その際の宿泊地としてデータ化していません。また、宿泊地のポイントは「伊能忠敬の足跡―伊能忠敬銅像建立報告書」を元にデータ化したため、測量日記では本隊・支隊の区分けがされていても、宿泊地のポイントデータでは本体・支隊の対応がとれていない場合や片方しかデータ化されていない場合もあります。

(3)地名について

(3-1)伊能大図

伊能大図の地名データは、図面単位で14種別にわけてテキスト化したデータに対して、地理院地図でその地名を探し、ポイントデータを取得しました。そして、種別毎に以下のようなポイント取得の基準を設けました。

① 町村名は、基本的には伊能図と同じ町村名(市町村名)を地理院地図から探して点を取得しました。地理院地図に町村名がない場合は、伊能図の地名の近くに置くこととしました。伊能図の居住地名と地理院地図の居住地名が離れている場合は、以下のような判断基準を設けました。

事例ポイントの取得位置
黒抹(コクマツ)家屋あり黒抹家屋付近
黒抹家屋なし町村名の付近
黒抹家屋・字名なし伊能図の町村名近くの測線・海岸線付近

② ○○国・○○郡 は、以下のような判断基準を設けました。

事例ポイントの取得位置
行政界がある行政界を境
行政界はないが川が間に流れている川を境
行政界も川もない伊能図の地名近くの測線・海岸線付近

③ 河川・湖沼関係名は、伊能図上で水部の描画されている中に取得しました。河川は測線・海岸線 (河口)付近で取得しました。名称が同一の河川名であれば、周辺の村との位置関係が多少ずれても伊能図の場所のままで取得しました

④ 坂・峠は、取得された測線の上もしくはその付近で取得しました。 山の場合は、地理院地図で確認できれば頂上付近、確認できなければ伊能図上の山名付近で取得しました。島は伊能図で現在の位置とずれていても、現在の地理院地図の島の中に取得しました。

⑤ 岬・崎・鼻なども地理院地図に合わせて陸上で取得しました。

⑥ 城(居城、在所など)は、町村名も兼ねた形でデータベース化作成されているため。城の真位置ではなく、町村名が採用されている場所で取得しました。

なお、伊能大図の地名データに表示されている図面番号は各地名が元々はどの図面にあったかを示すもので、今回のデータの取得に当たり本来あった図面とは違う図面にデータ化されている場合もあります。

(3-2)江戸府内図

江戸府内図には大名屋敷名をはじめ人名・施設名・社寺名・町村名・河川名など多くの文字が表記されていますが、今回は居住地名にあたる地名のみをデータ化しています。そして、居住地名にあたる地名で「~町目」となるような表記は図のように1つにまとめました。

画像

地名のポイントを取得する際の基準は、次のとおりです。文字が描かれている場所の中心ではなく、測線の近くで取得しました。村名などは、注記に対応する家屋の絵などが描画されていればそこで取得しました。ただし、それも優先順位としては測線の近くで取得しました。また、すでに伊能大図第90図で取得されている場合は、第90図で取得された同位置に取得しました。名称が多少第90図と食い違っていても入力されている名称のままにしました。複数ある場合は、全体の中心にポイントを置きましたが、分散している場合は、リストの上位の方で取得しました。

(4)伊能大図および江戸府内図の幾何補正について

画像の幾何補正は、地理院地図を背景にして取得しました。測線(ベクトルデータ)と各地図画像とで位置合わせを行いました。本来であれば画像どうしで位置合わせを行いますが、伊能図は均一に歪んでいるわけではないため、位置合わせを行うのが極めて困難でした。そこで、すでに調整を行って取得した測線を元に位置合わせを行いました。位置合わせをするためのコントロールポイント(GCP)は、特徴的な測線の屈曲部や交差部そして地形の形状などを採用しました。取得する GCP の数は位置合わせをするポイントの少ない内陸部の図面で50所程度、島嶼の含まれる図面では最大で200か所以上取得したものもあります。図面の歪み具合をみながら、ポイントを取得する場所の調整を行いました。そして、幾何補正の手法としては三角分割を採用しました。

画像画像
図 1)伊能大図にポイントを取得した状況 図 2)三角分割を行い伊能図が歪んだ状況


※ 「(1)測線について(200 年前の海岸線含む)」から「(4)伊能大図、および江戸府内図の幾何補正について」までの説明中に用いられている画像は、DVD版に含まれるデータ作成過程を説明するためのものであり、「WEB版デジタル伊能図」の画像ではありません。

(5)伊能大図および江戸府内図(正図)について

幾何補正を行っていない元の図です。

(6)伊能図図枠および江戸府内図図枠について

幾何補正された画像の四隅の値からプログラム処理で図枠を作成しています。よって図面間の重なりも発生しています。そして、図枠データには図面番号と図名の属性を入力しています。

(7)「WEB版デジタル伊能図」におけるデータ利用について

「WEB版デジタル伊能図」においては、DVD版に含まれるシェープファイルや画像ファイルなどのデータをwebブラウザで閲覧できるように変換し利用しています。

・図枠については、シェープファイルをGISソフトであるQGISを使用してGeoJSON形式のデータに変換しました。

・測線、200年前の海岸線、宿泊地、地名については、それぞれのシェープファイルを、GISソフトであるQGISを使用してGeoJSONファイルに変換しました。さらにtippecanoeというツールを使用しGeoJSONファイルをバイナリベクトルタイル化しました。

・伊能大図補正図、江戸府内図補正図については、それぞれの画像ファイルとワールドファイルを、GISソフトであるQGISを使用して地図タイル化しました。
これらのデータを利用し、webブラウザに表示するためのビューアを作成しました。ビューアを作成するにあたり、オープンソースライブラリであるOpenlayersを利用しました。


9. 測量日記について を閲覧する